第3射
翌日。この日は新入生と在校生が対面する会があり、体育館に全校生徒が集まり、新入生代表と在校生代表の人が挨拶をし、いろいろ話していた。そして、わりと教科スケジュールがつめつめらしく、早速4限まで授業だったのだけれど、最初ということもあり、概要だけでその日は終わった。
そして放課後。斐川先生が「みんなー!今日はこのあと体育館で部活紹介がありまーす。明日から仮入部できるから、先生に仮入部届を提出してね!」と言っていたのでとりあえずお昼を済ませてから優助と体育館に向かった。
まぁ、入る部活は決めてるんだけどね。一応行っておくべきだと思うから。
体育館には多くの生徒たちでひしめいていた。ざわざわとした話し声が聞こえてくる。
「どっか空いてるとこ、座ろうぜ」
「うん」
僕と優助が適当に座って少ししたら紹介が始まり、たくさんの部活が活動内容や活動している曜日、時間なんかを教えてくれた。高校ともなると土日両方やるっていうところも多かった。
特に印象に残っていたのがラグビー部の紹介だった。なんか、ユニフォーム着たごっつい体の人達がぞろぞろ出てきてスクラム(?)を組んで、
「俺たちとラグビー、やろうぜェ!!」
とおっきい声で叫んでいて迫力があった。というか正直ビビった。実は今日、学校来るときもめっちゃ勧誘されたんたよね。「体小さくてもガッツあれば大丈夫!」って。
絶対嫌です。僕、むさ苦しいのは苦手なんだ!!
「お、次みたいだぜ」
優助の言葉に、紹介文が書かれたプリントから目を離すと男女4人、道着を着た人達が出てきた。
「ん、あの人だれだろ?」
「あーほんとだ。昨日いなかったよな」
昨日の3人に加えて、もう一人、眼鏡で長身の男の人が立っていた。そして、その人がマイクを持った。
「え、えー、1年生諸君。こんにちは、ボク達は弓道部です。ボクは弓道部男子部長、
「私は弓道部女子部長、青木青威です」
一度、青木先輩にマイクを渡してから、再び的馬先輩に戻した。
「あー、もしかして昨日もう一人いるって言ってたけど、」
「うん。多分あの人のことだろうね」
そっか。一応男女で部長を決めてるのか。けど、考えてみれば当たり前かも。
「えー、ボクたちは月曜日から金曜日の放課後、3月から8月までは夕方6時まで、9月から2月までは夕方5時30分まで活動しています。土曜日は、朝9時から12時30分までです。日曜日は基本休みですが大会があるときもあります。朝練は自主参加です。居残りもやる人はやります」
的馬先輩は話終えた後、青木先輩にマイクを渡した。
「今から皆さんに弓道の基礎である、射法八節をお見せしようと思います」
青木先輩に合わせて、ライ先輩と弓月先輩が弓だけ持って前に出てきた。
そして、青木先輩が射法八節の名称を一個一個大きな声で叫ぶのに合わせて二人の先輩が実演して見せた。今日は弽をしておらず、素手で弓を引いていた。手、痛くないのかな・・・
「皆さんにはこの八節をしっかりとマスターしてもらいますが、それと同時に筋トレもやってもらいます。弓道において重心は大事で、しっかり作ってもらうためです。弓道部って、文化部と運動部どっちなの、って思う人もいるかもしれません。けれど安心してください。運動部です。って、何を安心しろって話ですよね」
青木先輩の軽いジョークに会場が盛り上がった。僕も優助も思わず笑い、ライ先輩と弓月先輩は「そうだそうだー」と合いの手を入れていた。
すごいなぁ、青木先輩。こんなに大勢の人がいる場で堂々とジョークまでかませるなんて。
僕と似た特徴を持つ青木先輩だけれども、僕よりも堂々と構えており、とてもまぶしく見えた。なんなら目がつぶれそうだった。
「はい、まぁ、とにかく。道着着てみたい、弓矢触ってみたい、いろんな動機で始める人が多いので、少しでも興味を持った方は弓道場に足を運んでみてください」
そして、4人の先輩たちは綺麗なお辞儀をしてから下がっていき、パチパチと拍手が起こった。
昨日、たくさん観察させてもらったので僕と優助は会が終わり次第その日は帰宅したのだった。
****
翌日、仮入部届を斐川先生に提出し、放課後は指示された通り2年2組の教室に向かった。どうやら始める前に顧問の先生からお話があるらしく、集まってくださいということだった。
少し緊張しながら優助と一緒に階段をひとつ下りて2年2組の教室に入ると、すでに数人の生徒たちが席についていた。
「わりと人いるな」
「そうだね」
男女どちらも5人くらいいるようだった。ただ、全員入るとは限らない。
少しして顧問の
「弓道着は上下、弓を引く右手に付ける弽、それから弽を入れる袋、足袋、練習用のゴム弓、弓道教本、矢も買ってもらうことになります。それと、大会に出るためには全日本弓道連盟への加入も必要でそれのお金も必要になります。プリント見てもらうと分かると思いますが、結構お金がかかります。よく両親と相談してください」
うわー、ほんとだ。結構お金かかるなぁ。
「これから体操服に着替えてランニングと筋トレをやって、射法八節の練習をしてもらいますが、最低1か月はやってもらうことになると思います。それまでは弓と矢は触れないけど、頑張ってください。以上です」
トレーニングのメニューもプリントに書かれていた。校舎回り5周、それから腕立て伏せ、腹筋、背筋、それぞれ100回3セット、体幹1分を10回3セット、さらにスクワットも1分を10回3セット。
ひゃあー、全部こなせるかな。心配になってきちゃった。
先生の話が終わった後、僕たち1年生は弓道場に向かった。女子は体育館に併設されている更衣室で着替えるようで、別行動となった。
「あ~、お前らはそこに荷物置いて着替えろよ~。そんで、さっさと始めろよ~」
ライ先輩に指示された場所はなんと外だった。まぁ、木々とかで隠れてて見られにくい場所だけれど。男子は更衣室と呼べるものはないらしく、道場内の一室は先輩たちが使っておりスペースがないらしい。
ま、しょうがないか。所詮、公立の高校だし。それにしてもちょっとひどい気がするけど。
1年生男子全員でトレーニングを始めた。道場の近くに先輩たちが交代で立っているのでサボることはできない。
「ま、待ってぇ、優助ぇ~」
「はっ、遅いぞー」
ランニングを終えただけでバテバテだった。死ぬ・・・全身痛い・・・
「水分はしっかりとれよ。けど休憩しすぎないようにな」
的馬先輩が眼鏡をくいっとやってそう言った。ひゃあ、眼光が鋭いよ・・・
僕らは1時間以上かけて全メニューをこなし、また少し休憩してから射法八節の動作の練習をして、最後に道場に入って先輩たちがやっているのを観察させてもらってから5時過ぎに帰ったのだった。仮入部期間中は5時終わりらしい。
****
数日間、同じような日々が続いた。正直に言って地獄でしかなかった。だからだろうか。仮入部期間を終えるころには男子は僕と優助とあと一人だけ。女子も3人だけが残った。
そうして迎えた本入部最初の日。まだまだ僕たち1年生はトレーニングや射法八節の練習が必要なのでまた体操服に着替え、一度道場内に集まれと指示されたので中に入った。入るときと出るときは一礼をするようにと言われていたので、一礼してから入ると、中には先輩たちが集結していた。
「えー、今日から1年生が本入部となります。ですので今から自己紹介します」
一番奥、僕たちに対面して立っていた的馬先輩が厳かに言った。ま、また自己紹介か・・・
すぐに引退するかもしれない3年生たちも一人一人自己紹介してくれた。みんな口をそろえて「練習にはしっかり来るように」と言っていた。確かに筋トレキツいもんね・・・
僕も緊張しながらなんとか自己紹介を終えた。少しざわざわしていた気がするけど、別に嫌な視線を感じたりはしなかったので安心した。
「では、これからよろしくお願いします。礼!!」
的馬先輩の掛け声で僕たちは正座したまま礼をした。ここらの作法も一応仮入部期間中に教えてもらった。
****
その日、トレーニングを済ませて先輩たちと同じ6時で部活を終えた。優助は何やら用事があるらしく、さっさと帰っていった。
僕は居残り練習する先輩を観察させてもらおうかなと思って、しばらく道場内に残った。先輩たちから見て学ぶのも大事だと聞くからね。
「ん・・・?」
5、6人いるうちのある人に目が留まった。ライ先輩に話しかけている女の子だ。確か、
なんだか楽しそうに話している。いったいどういう関係なのだろう。さしずめ中学の先輩後輩といったところだろうか。あるいは・・・・
ま、まさか・・・なんてことは。あるかもしれない。けれど聞く勇気などない。
なんてごちゃごちゃ考えていると、
「ライとあの子が気になるのか、鵜飼」
と、突然後ろから声をかけられた。
「ひっ・・・!!」
「はは。すまない。びっくりさせてしまったね」
声で分かったのだが、青木先輩だった。振り返って見てみると、長い弓を肩で支えながらスッと立っていた。数日見ていて分かったのだけれど、この人の立ち居振る舞いにはとても風格があってカッコいい。思わず見とれてしまっていた。
「い、いえ。僕がぼーっとしてたのが悪いんですよ」
「どうやらあの二人は中学の先輩後輩らしいぞ」
「へ、へぇ・・・・」
僕の見立ては大方当たっていたらしい。
「だが、」
青木先輩はニッと好奇心旺盛な笑みを浮かべて続けた。
「私の見立てではあの射田さんは、ライのことが好きだと見た」
「へ、す、好き・・・?」
思わず変な声が出た。確かに射田さんは楽しそうに話してはいるけれど・・・
「あんな顔、普通ただの先輩には見せるものではないよ・・・」
「・・・そうですかね」
確かに、射田さんが誰に対してもあの顔を見せているとは限らないけれど。
なんだか、先輩の言葉には実感がこもっているように聞こえた。だから、少し勇気を出して聞いてみた。
「あ、あの・・・先輩」
「どうした?」
先輩は爽やかな笑みを浮かべながら僕の方を向いた。
「せ、先輩にも・・・・・そういう人って、いるんですか?」
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