魔獣の星(6)

 突然、ザジラビマの目の前に黒い穴が開いた。穴の中から白い魔獣が現れた。

 「あれは確か、ゼザーブル。あいつのと同じか」

 久しぶりに見るゼザーブルの姿にディタンは驚いた。

 「誰かが操っているのか。うん?」

 モニターでズームしてゼザーブルを見ると女が肩にいた。

 「あいつ……何であいつがいるんだ!」

 ゼザーブルの肩には仙座未希が眠る様に横たわっていた。

 ザジラビマは突然現れたゼザーブルをじっと見た。

 ゼザーブルが大きく吠えるとザジラビマの真ん中の頭も吠えた。

 ザジラビマのまとった光る風がゼザーブルにもまとわりつくように絡まり2頭の魔獣を囲むように大きな光の輪が出来た。光の輪が浮かんで膨らみパンと鐘のような音と共に勢いよく空で散らばった。各地に光の粒が降った。

 (私はゼザーブル、皆さんへ星の獣の声を届きます)

 女の声の思念波が響き渡った。

 「な、何だ!」

 作戦本部でフィペーラ達が驚いて外へ飛び出した。

 兵士達も住民達も声がする空を見上げた。

 (私はザジラビマ。皆へ告げる。この星はもうすぐ火山が噴火する。それをきっかけに星が消える。皆よ、その前にこの星から逃げるのだ)

 「どういう事だ」

 低い男の声の思念波を聞いた人々がどよめいた。

 「それを知らせる為に暴れたのかよ」

 ディタンが呟いた。

 (ああ、そうだ。私は言葉を使えない。こうして魔獣使いを同化して知能を得てかろうじて言葉を覚えたが伝える手段がなかった。だからコンラルを率いて皆を基地へ移動させる程度しかできなかった)

 「俺の言葉がわかるのか。回りくどい事をしやがって。それでいつ星が消えるんだ」

 (この星の時間で30日後。急いでギミケルトから逃げるのだ)

 「そうか、あまり時間がないな。わかったよ。みんなで脱出する」

 (それとお前に頼みがある。異星の者よ)

 「何だ?」

 (私を撃ってくれ)

 「お前、本気か?」

 (私はこの星から出られない。もし出たらどんな姿に変貌するのかわからない。より狂暴になるかも知れないのだ。だから頼む)

 「そうか。それが頼みか」

 ザジラビマの体が緑に輝いた。これまで同化したギミケルト人が剥がれるようにゆっくり地面に落ちた。その中にナジードの姿もあった。ザジラビマが元の黒い体に戻った。

 (ナジードよ。すまなかったな。お前の力を使わせてもらった)

 「いえ、構いません。あなたの星を愛する心に触れられてとても光栄です。ですが、どうか我々と共にこの星を出て生きて下さい」

 ナジードは立ち上がってザジラビマに話しかけた。

 (私がこの星を出る手段はない。ナジードよ、この星を守るプレビゼンの使い手として皆を守ってくれ)

 ザジラビマはナジードを見下ろして答えた。

 「ディタン、お願い!ザジラビマを撃たないで!」

 コックピットにフィペーラの声が響いた。

 「撃つなと言われてもなあ。どうしろと言うんだ」

 戸惑うディタンにゼザーブルが思念波で話しかけてきた。

 (私はゼザーブル。ディタン、ザジラビマを撃って下さい。ザジラビマは最後の力で魔獣使いを封印するつもりです。ザジラビマの死と共に発せられる声で多くの魔獣使いの能力を消す事が出来ます。ギミケルトの民が他の星で恐れられずに暮らすにはそうするしかないのです。あなたも見たでしょう。魔獣が起こす惨劇を……あの惨劇を繰り返さない為にもどうか撃って下さい)

 「お前はどうなるんだよ。そこの女も」

 (魔獣使いは彼女やナジードを含めた強い魔力を持つ者だけになります。しかしそれも世代を重ねていくうちに能力を失っていくでしょう)

 「わかったよ。全く嫌な役ばかりだな。俺って」

 (それでは頼みます)

 ゼザーブルはそう言うと背後に開いた穴へ飛び込んだ。穴は消え降り注いでいた光の粒が消えた。

 「ガレン隊、長老達を連れて基地へ」

 「了解」

 ベギットゥはメハデッサを拾ってザジラビマの近くへ飛んだ。

 モニターにナジードの姿が見えた。

 「長老、いいんだな。これで」

 ディタンはスピーカーに繋がるマイクで言った。

 (ザジラビマの子、ゼザーブルの頼みだ。頼む)

 長老は思念波で答えた。

 ガレン隊が長老達を連れて飛び立った後、ベギットゥは銃口をザジラビマの額に当てた。

 基地の周辺にいたコンラルが子供達を地面に降ろしてザジラビマの方を向いた。

 「じゃあな」

 ディタンがボタンを押した。

 ベギットゥが引き金を引いた。

 赤い光線がザジラビマの頭を貫いた。

 ザジラビマが大声で吠えた。その後で高い鈴の音が響いた。

 各地の基地の周辺にいたコンラルが一斉に消えた。

 その甲高い音に皆が一瞬、耳を塞いだ。

 ザジラビマの体が光の粒となって散り散りに消えた。

 「任務完了だ。ガレン隊、帰るぞ」

 ディタンの声にガレンのヒルヴァ達は淡々と「了解」と答えた。

 ベギットゥはガレン隊と共にレアロへ戻った。

 

 ザジラビマの予言通り、火山の噴火を発端に各地で大地震が起きギミケルト星は粉々に砕けた。

 事前に連合艦隊によりギミケルト人の移住は済んでいたので星の崩壊による被害者は出なかった。

 住民達はひとまず連合政府の領内のいくつかの星へ移住した。

 それから連合政府で移民をどうするか話し合われて辺境のレーネンとその衛星ポジュカに住ませる事になり再び移住が始まった。

 「それじゃ出発するぜ」

 シセが操縦席で抑揚のない口調で言った。

 ディタン達を乗せたカプラディがレハントロの軍港から出発した。

 レハントロに滞在していたビゴールと家族は連合政府の特別大使としてレーネンへ移った。ディタン達も同行した。


 「今日もいい天気ね」

 ある日の早朝、仙座未希が寺の庭を掃除しながら空を見上げた。スマホの振動音がした。ポケットから取り出して見ると児玉零樺からのメッセージだった。

 『今日、ゼザーブル呼び出せる?私は大丈夫だけど』

 未希はふっと微笑んで返信した。

 『大丈夫よ。昨日も呼び出せたのでしょ。急に力が消えたりしないわよ』

 地球でも魔獣使いが魔獣を呼び出せない現象が起きていた。近所に住んでいた佐仲も呼び出せなくなり落胆していた。

 「あれは夢だったの?何かの音が聞こえてどこかへ行って誰か知っている人の声を聞いて……」

 未希がほうきを持つ手が止まって考えていると、

 「朝ごはん出来ましたよ」

と慈細の呼ぶ声が奥から聞こえた。

 「まあいいか」

 未希はほうきを片付けて寺に入った。

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ベギットゥ 久徒をん @kutowon

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