魔獣の星(4)
それから半日程経って作戦が始まった。
攻撃を一旦中止しディタンとナジードが乗るガレンが両手を振りながらゆっくりザジラビマに接近した。
ザジラビマは黙ってガレンを見た。
「うまくいくといいが」
ナジードが不安になった。
「それしか方法がないんだろ。やってくれ」
ディタンの言葉にナジードが「そうだな」と答えて目を閉じた。
ガレンの真上に水色と緑色の線模様の大蛇の姿をした魔獣プレビゼンが現れた。
プレビゼンは大きく吠えた。ザジラビマは黙ってプレビゼンの様子を見ていた。
二頭の魔獣が対峙したまま動かなくなった。
「またあの音だ」
ディタンの耳に風と鐘が混ざったような音が入った。
ザジラビマが大声で叫んだ。衝撃波でガレンが吹っ飛んだ。
「うわあああ!」
ディタンは姿勢を整えた。
ザジラビマの目が青く輝くとプレビゼンが金色の粒子になって消え始めた。
「いかん。同化する」
「えっ!」
ナジードの声にディタンは振り向いた。ナジードの体も金色に輝いて消えかかった。
「くそっ!」
ディタンは急いでザジラビマから離れた。
「同化が始まったら逃げても無駄だ。フィペーラよ!」
ディタンは咄嗟にフィペーラと通信を繋いだ。フィペーラの顔がモニターに映った。
「長老!」
ナジードが消えゆく姿にフィペーラが驚いた。
「いいか!とにかく逃げるんだ。早く……」
ナジードの言葉が途切れて消えた。
「長老!」
フィペーラが叫んだ。
「くそっ!」
ディタンは計器を力強く叩いた。
ザジラビマがガレンに光線を発射した。
「当たるなよ」
ガレンが光線をかわしながら撤退した。上空から連合艦隊の戦闘機による援護射撃が始まった。ザジラビマは光の壁を周りに張って攻撃を防いだ。
プレビゼンと同化したザジラビマの腹と背中に青い線が浮かんだ。
ザジラビマは3つの口から黒煙を吐いた。
黒煙は小柄な虎のような魔獣コンラルに変わって黒い翼を広げて飛んだ。ザジラビマはひたすら黒煙を吐き続けた。
黒煙から生まれたコンラルの群れが小さな町に襲来した。
住民隊は発砲したがコンラルは素早く銃弾をよけた。そして住民達の手首に噛みつき武器を持てなくして子供達を口に咥えて走った。
「くそっ、子供を盾にされたら撃てない」「うちの子を返して!」「軍に助けを!」
コンラルの群れは怒号が飛び交う町から飛び去った。
「基地にもコンラルの群れが来ます」
「子供を盾にして一気に鎮圧するつもりか」
作戦本部も各地の緊迫した声が無線から届いて慌ただしかった。
外で兵達が慌ただしく走る足音が聞こえる医務室でディタンは傷み止めの注射をフィペーラに打ってもらった。
「もう終わりね……」
ナジードを失ったフィペーラは憔悴した顔で言った。
「終わりか決めるのはお前らだろ」
「本当に他人事ね。あなたはよそ者だからね。私達が死んでもどうでもいいし」
「俺に当たり散らして気が済むならいくらでも当たればいいさ。まあその程度の奴だと俺は鼻で笑ってやるけどな」
「どれだけ見下せば気が済むのよ。あんたさあ!」
腹の底から込み上げてくる声でフィペーラが怒鳴った。
「ほお、そんな声出せる元気あるじゃねえか」
ディタンはニヤけて言った。
「全くムカつく奴だな。じゃあどうすればいいか聞かせてくれる?参考にしてあげるから!フンッ!」
「おうおう、そういう勝ち気なところ嫌いじゃねえぜ。じゃあ参考程度に教えてやるよ」
ディタンはフィペーラに作戦の詳細を話した。
「もうそれしかないわね。これで失敗したら諦めてザジラビマが望む審判を受けるわ。私達は逃げない。滅びの道だとしても」
「失敗した時の事は後で考えようぜ。じゃあ俺は一旦船に帰るぜ。連合艦隊との調整よろしくな」
ディタンは立って袖を下ろした。
「なあ、星を失くしたあんたはどうして生きられるんだ?」
「星がなくても大事な奴がいるからだよ」
「ああ、そういう事。それならどこでも生きられるわね」
フィペーラがふっと笑った。
ディタンは「また後で」と手を振って医務室を出て無線でレアロへ戻る事を告げた。
「ほお、集まって来たな」
ディタンが外に出て見渡すと基地の柵の外に黒いコンラルが集まっていた。最前列には子供を咥えたコンラルが並んでいた。
「あれで盾にしているつもりか。しかしガキ共は泣かないな。寝ている奴もいる。呑気なもんだな。危害を与えるつもりはないのか?ガキもそれを知っているのか……」
咥えられてはしゃぐ子供を見てディタンはふと思った。
「とにかくあの化け物に訊くしかないか」
ディタンはガレンに乗ってレアロへ戻った。
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