魔獣の星(3)

 ギミケルト付近の宙域には既にパラ連合軍の艦隊が到着していた。

 レアロを含めた3隻の艦隊でギミケルトの上空に到着したディタンはガレン隊と共にベギットゥで降下した。

 「派手にやりやがったな」

 眼下では森や山のふもとが黒煙を上げて燃え広がっていた。

 「町はやられていないみたいだが、これは空間移動型の光線で一斉に撃ったのか」

 ベギットゥの後ろから戦闘機が飛んで来た。戦闘機が光信号を送った。

 「ケア山脈のザジラビマを攻撃せよか。やっぱりそいつだったか。長老に会う前に行ってみるか」

 ディタンは地図を見ながら目的地へ飛んだ。

 「うわっ、何だあれ」

 遠くに連なる山脈の上に何かが浮いていた。

 「あれがザジラビマって奴か」

 3つの頭の黒い翼竜が交戦していた。戦闘機や人型兵器の攻撃は全く効いていなかった。

 「取りあえず様子を見るか。ガレン隊はその場で待機。ヴァルシ散布」

 ベギットゥが透明になってザジラビマに近づいた。

 「頭だけでもこいつと同じ大きさだな」

 ザジラビマの頭の角からの光線がベギットゥに飛んで来た。ベギットゥは寸前でよけた。

 「流れ弾に当たる所だったぜ……っておい!」

 角からの光線が次々とベギットゥへめがけて発射された。光線が曲がりベギットゥを追った。

 「くそっ!こいつ俺が見えるのか」

 ベギットゥは旋回しながら光線をよけたが、次々と発射される光線が機体に命中した。

 「ヴァルシ解除!」

 姿を現したベギットゥは光線に向けて反転すると前面に光の壁を広げた。光線が光の壁に直撃した。ベギットゥが光線の勢いに弾かれた。

 「一撃が重い。これじゃ持たないな」

 ザジラビマのもう一つの頭の角から光線が放たれた。光線がベギットゥの背後から飛んで来た。

 「まずい!」

 ベギットゥは光の壁を解いて背中から青い光を発して高速で上空へ移動した。光線が次々と追って来た。

 「しつこいぞ!」

 ベギットゥは掌から光弾を発射した。光弾にいくつか命中して爆発したがその合間をぬった光線がベギットゥの手足に当たって損壊した。

 「ガレン隊。撤退するぞ」

 ディタンの慌てる声にヒルヴァは「了解」と淡々と答えた。

 光線がまだ追って来た。

 「くそっ!本当にしつこいな」

 ベギットゥが掌から散弾の光弾を撃った。光線が散らばった光弾に命中したが数発がベギットゥの胸や腹に命中した。

 「うわあああ!」

 コックピットが破壊されて破片がディタンの体に突き刺さった。

 「絶対、逃げてやるぞ!」

 意識がもうろうとなりながらディタンは操縦桿を握りしめた。ベギットゥの背中と足が青く輝いて高速で飛んだ。

 「もうだめか……」

 ディタンは気を失いベギットゥが頭から急降下した。地面に落ちる寸前でガレンがベギットゥを両脇から抱える形で浮上した。背後から飛んで来た光線を残りのガレンが光の壁を展開して防ぎながら後退した。

 「いてててて……ここは」

 ディタンが目覚めた。そこは白い照明が照らされた医務室だった。

 「あんたがレハントロから来た援軍か」

 薄緑の肌をした女が話しかけた。

 「ああ、そうだ。ディタンだ。ここは?」

 「ようこそ、ギミケルトの作戦本部へ。私はフィペーラ。全く、何も考えずに突っ込んで死ぬ気だったのか」

 フィペーラが呆れた顔で言った。

 「ああ油断しちまった。そう言えばうちのヒルヴァ達は?」

 「あんたの機体を修理するから船に戻ったよ。船ではあんたの体は治せないからよろしくって冷たく言ってね。さすが歩く機械だね」

 「そう言うなよ……ってお前、レハントロの言葉を喋れるのか」

 「お、お前って……ええ、レハントロへ長老と同行する事もあるからね」

 「そうか。長老はどこにいるんだ」

 「ナジード様なら奥の寺院にいるわよ。会いたいの?」

 「ああ、ちょっとな」

 フィペーラに案内されてディタンはナジードのいる寺院へ向かった。

 作戦本部を含む基地は寺院を囲むように施設が配備されていた。奥の寺院は幾多の石が積み重なった塔のような形をしており入口には獣の形をした石造が並んで立っていた。

 「長老、レハントロの兵でございます」

 フィペーラが話しかけた先にひざまずいて祈るナジードがいた。

 「レハントロの兵か、わざわざすまない」

 ナジードは立ち上がって近づいて来た。銀髪で白い髭の老人だった。ディタンは自己紹介した。

 「ほお、ゼツロスとはまた懐かしい名前だ。私の祖先と交流があった星だな。しかもビゴール王が今でも生きているとは信じられない」

 「ゼツロス人は長寿ですから、その内会えるといいですね。ところで状況を聞かせてもられますか」

 ディタンはナジードとフィペーラから話を聞いた。

 山に眠っていたザジラビマが突然目覚めて暴れ始めた。星を守る魔獣のザジラビマがどうして星を焼くような事をするのか原因がわからない。幸い町や村には攻撃せずに山や草原を焼き払っているので死者はいないが負傷者が多数いて病院や基地で治療している。連合軍やギミケルト軍がザジラビマと戦っているが全く歯が立たない──

 「つまりどうしようもない状況という事か」

 ディタンは腕を組んだ。

 「そうだ。魔獣を呼び出して戦おうとすればヤツの声に引き寄せられて同化してしまう」

 フィペーラが深刻な表情で言った。

 「声か……あれは声だったのか。レハントロにいるギミケルト人の魔獣はあの声で勝手に召喚されたのか」

 ディタンはレハントロで聞いた音を思い出した。

 「他の連合軍の星でも同じ事が起きたみたい。被害は何もなかったけどね。私達の力ではザジラビマと交信できないの」

 「攻撃が効かないならあいつの話を聞くしかないと思ったがそれも出来ないのか。困ったな」

 ディタン達はしばらく黙った。

 「やはり私の《プレビゼン》で訊いてみるしかないか」

 ナジードはため息をつきながら言った。

 「いけません!同化されたら誰も手出しができません」

 フィペーラの口調が強くなった。

 「しかし、このままでは星が焼かれるだけだ。真意を確かめねば」

 「出来るのか、あんたの魔獣で」

 ディタンが訊いた。

 フィペーラが「何だ、その言い方!」と食ってかかったがナジードが右手をゆっくり挙げた。

 「私のプレビゼンもまた星を守る獣だ。あいつの言葉を理解できよう。もし出来なかったら諦めて住民を星の外へ避難させてくれ」

 ナジードが重い口調で言った。

 「そういう事らしいぜ。俺はあいつの修理が終わるまで何も出来ない。作戦を立てて俺が必要なら呼んでくれ。いててて」

 ディタンは脇腹を押さえながら寺院を出て耳に入れた無線機を起動した。

 「レアロ、ディタンだ。ベギットゥの修理状況は」

 「破損甚大。まだ修理に時間がかかります」

 ヒルヴァの淡々とした答えにディタンは「急いでくれ」と答えて無線を切った。

 「おい、お前」

 後ろからフィペーラが叫んだ。

 ディタンが「ああっ?」と振り向いた。

 「長老は悩んでいる。それなのにどうして急かすんだ」

 「何を悩もうが実際に手を動かさないと何も解決しないからな。上にいる奴がためらっていると全ての動きが鈍くなる。そのせいで結果が悪くなる。俺が前に見ていた星ではその繰り返しだったよ。自分の事しか考えない馬鹿な連中ばっかりでさ。出来る事があるなら早くやれっつーの」

 ディタンが面倒くさそうに言うと、

 「お前、レハントロの言葉の割には汚いな」

 フィペーラがふっと微笑んだ。

 「ああ、地球って星の訛りが入っているせいかな。お前もなかなか勝ち気だな」

 「そうだな。私はギミケルトの兵だからな。魔獣は呼び出せないがこの星を守りたい気持ちは誰よりもある」

 「ヒュー!言ってくれるなあ」

 二人は話しながら作戦本部に入った。

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