さまよう王国(10)

 月の地下に入るとカプラディが相変わらず埋もれていた。宇宙船をカプラディに隣接して二人はベギットゥでカプラディに入った。

 「ガンズ、久しぶりだな」

 「ディタン様、おお、ビゴール様!」

 ガンズは格納庫から降りて来た二人を見て跪いた。

 「ガンズ、よくレクテを守ってくれたな。礼を言うぞ」

 「いえ。何も出来ずに申し訳ございません。レクテ様はこちらです」

 「俺は部品を持って来るから先に行ってくれ」

 ディタンはベギットゥに乗って宇宙船へ戻った。

 カプラディに戻ったディタンはガンズと一緒に冬眠装置の修理を始めた。

 「そうか……俺が地球からいなくなって2年経ったのか。空間の裂け目の中の時間の流れが早かったのかも知れない。全然自覚がないな」

 「あれ以来、地球との交渉は中断しました。カプラディを動かす燃料が出来たようですがこちらへ持ってくる手段がありませんからね。私もここを離れる訳にはいけませんし。燃料開発の過程で様々な新技術が発明されてコムザン撃退用の兵器に流用したようです。他にも我々の技術を分析して兵器が開発されました。仕方ありませんね」

 「確かに俺達が介入して地球の文明に影響を与えたのは仕方ないな。だからと言ってこれから環境が悪化して千年後に地球人が滅びるのには変わりはないだろう」

 ディタンとガンズが話しながら修理している間、ビゴールは冬眠装置の小窓からレクテをずっと覗いていた。

 「よし出来た。いくぜ!ビゴール様、離れて下さい」

 ディタンは装置の横に並んだスイッチを続けて押した。装置からブォーンと低い音がした。冷たい空気が外に漏れ始めた。

 「温度上昇中。開きます」ガンズが装置の横の画面を見ながら言った。

 冬眠装置の蓋が開いた。白く冷たい煙が床に広がった。

 白い薄着姿のレクテの全身が見えた。

 「失礼!」

 蓋が開くなりガンズがレクテの胸と手首に医療機器を繋げた。

 「生命反応確認!」

 「やったぜ!」「おおっ!」

 ガンズの声にディタンとビゴールは歓声をあげた。

 「良かった……無事で……」

 ディタンは眠っているレクテの顔を見て号泣した。ビゴールもその場に泣き崩れた。

 それから半日程経ってレクテは目を覚ました。

 「ここは……」

 医務室でレクテはゆっくり目を覚ました。

 「よお、よく寝ていたな」

 「ディタン……ここは?」

 「積もる話は後でな。ほら、ビゴール様が心配しているぞ」

 ディタンはそばに立っているビゴールに一礼して部屋を出た。

 「さてと……地球へ最後の挨拶に行ってくるか」

 ディタンはベギットゥに乗った。

 「相変わらずコムザンがいるな」

 ベギットゥは地球へ向かって飛んでいる一体のコムザンを後ろから剣で切り裂いた。

 そのまま大気圏に突入し深夜のアメリカ軍の基地を右手を挙げて通過した。

 「ヴァルシ散布」

 ベギットゥはステルスモードで日本へ飛んだ。

 紺碧の戦闘機がコムザンと戦っていた。戦闘機が発射したミサイルでコムザンは一瞬で焼失した。

 「なるほどね。あれだと勝てるな」

 ディタンはモニターで戦闘機を見ながらニヤリと呟いて克了が住んでいる町へ飛んだ。

 「よお、爺さん元気か」

 克了の寺でディタンは叫んだ。

 「おお、ディタンか。久しぶりだな」

 法衣を着た克了が驚いた顔で迎えた。

 二人が縁側で話していると未希が買い物から帰って来た。

 「あら、久しぶりね」

 「お前、まだいたのか」

 「見ての通り居候よ。長老は近くのアパートに住んでいるわ」

 「そうか。少しは大人しくなったのか」

 「さあね」

 未希は髪の毛をいじりながら答えた。

 「まあいいか。俺、他の星へ行くから。それだけ言いに来ただけ」

 「あら、お姫様は目覚めたの?」

 「色々あったけど無事にな。じゃあな」

 ディタンは縁側からぴょんと立ち上がった。

 「もう行くのかディタン」

 「ああ、爺さんも元気でな」

 ディタンは手を振って歩きだした。

 「全く……あっさりした奴だ」

 「そうね」

 克了と未希は歩いていくディタンの後ろ姿を微笑んで見送った。

 そして数日後──

 「ガンズ、準備はいいか?」

 宇宙船の通信機でディタンは呼びかけた。

 「はい。船の調子は良好です。上昇します」

 カプラディが月面に姿を見せた。

 宇宙船の客席の窓からビゴールとレクテが喜んで外を見ていた。

 「それじゃ行くぜ!目的地はレハントロ」

 ディタンは操縦桿をゆっくり押した。

 宇宙船とカプラディは徐々に速度を上げて光速で太陽系を抜けてレハントロへ飛んで行った。

 

 地球では各地でコムザンが出現して戦いが繰り返された。後にコムザンが大量の二酸化炭素を吸いながら酸素を吐く生物へ進化を遂げ地球温暖化の抑止に貢献した。

 長い歳月をかけて人類はコムザンとの《対話》を実現させて共存の道を探った。対話の先にあるのは希望か絶望か誰も予想できない状況だった。

 その地球へコムザンの細菌を含んだ彗星が接近して来た。

 彗星が土星を通過した時、赤く太い光弾が彗星の先頭に命中した。彗星は真っ赤に燃えて大爆発した。

 巨大な砲台を備えたカプラディと改造を重ねた銀色のベギットゥが散らばった彗星の光を浴びていた。

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