さまよう王国(8)
「作戦開始だ。いくぜ!」
メテガ軍の軍服を着たディタンはベギットゥでレアロの真上へ発進した。艦隊の砲撃が始まった。艦隊の一部が上下に別れて砲撃しながら前進した。ガレンや他の星の人型兵器が散開して敵艦に接近してブリッジを攻撃した。いくら装甲が厚くても集団による直接攻撃は効いた。
しかし敵艦から発進したヌビモやゼヴェン隊に撃墜される機体が多く戦果は乏しかった。
前線で激しい戦いが繰り広げられている中、ベギットゥは遥か上から透明になって敵艦隊を通過して奥にあるヌゼリュウムの船体の横に取りついた。
「ここだな」ディタンは地図で通用口の場所を確認した。
ベギットゥが船の通用口に奥まで剣を突き刺した。続けて出来た穴に掌を当てて光弾を連射した。艦内で爆発が起きた。
「ヒルヴァ、留守番頼むぜ」
ヘルメットを被ったディタンは後部座席に座っているヒルヴァに話しかけてコックピットのハッチを開けて穴から艦内に入った。
警報音が響き慌ただしく兵士達が走る中、ディタンは廊下を進みながら物陰に隠れて地図で確認して断層砲の部屋の前に来た。しかし持っていたIDバッチでは部屋のドアが開かなかった。
「しょうがねえな」ディタンは曲がり角に隠れて爪と同じ大きさの小型爆弾を投げた。ドアが爆発し艦内に違う警報音が鳴った。ディタンは銃を構えて部屋に突入した。
部屋に入ると奥に銀色の巨大な円筒状の機械がありその周りに黒い粒子が集まっていた。
「あの黒いのがエネルギー粒子だな」
爆発の煙に紛れてディタンは円筒状の機械に向けて小型爆弾を投げた。しかし爆発したものの機械にダメージはなかった。
「見た目より頑丈だな」
ディタンは舌打ちしてポケットから掌と同じサイズの爆弾を出して投げると同時に身を伏せた。爆弾が眩しい光と共に大きく爆発した。衝撃波で吹っ飛ばされそうになった。
ディタンが立ち上がって見ると円筒状の機体に亀裂が入ってその周りに黒い粒子が不規則に渦を巻いて飛んでいた。
「小型の割には凄い破壊力だ。下手したら俺も巻き込まれるところだった」
ディタンの周囲には兵士達が倒れていた。
背後から兵士達が撃ってきた。ディタンは小型爆弾を次々とあちこちの機器に投げた。度重なる爆発で部屋中に煙が充満した。
円筒状の機械に駆け寄り発信機をつけた。
「あとは外から破壊するか」
部屋にいた兵士達が発砲をやめて何か叫びながら走って出て行った。
「何を叫んでいるんだ」
ディタンは部屋を見渡した。背後でヴォーンと音がした。
「何だ?」ディタンが振り向いて音がする方を見上げた。
黒い粒子が渦を巻いて加速を始めた。
「確か、黒い粒子はメテガの反物質で加速すると……まずい、暴走だ!」
ディタンも急いで部屋を出た。
「ヒルヴァ、今から戻る。モニターで俺を探してくれ」
ディタンは耳に入れた無線機で話しながら廊下を走った。艦内が混乱している隙に ディタンは口に酸素吸入器を着けてヘルメットのバイザーを下ろし黒焦げになった穴から船の外に出てベギットゥに拾ってもらった。
「ヒルヴァ、ありがとうな」
ヘルメットを脱ぎ吸入器を外したディタンは荒い息を整えてモニターをチェックした。
「周辺の艦隊からヌビモとゼヴェンが発進。こちらに来ます」ヒルヴァが淡々と言った。
「わかったよ、最後の仕上げだ」ディタンは大きく深呼吸した。
ベギットゥはヌゼリュウムの表面を発信機の場所を探りながら移動してステルスモードを解除した。
「おりゃあああ!」
ベギットゥが青く輝いたメハデッサを船体に勢いよく突っ込んで2発撃って引き抜いた。黒焦げになった船体の穴から火柱が立った。船の前に回り断層砲の巨大な砲門に突入した。
「発信機の位置確認!」
ベギットゥはメハデッサを2発撃った。奥で爆炎が上がった。
砲門を出たベギットゥは急上昇しブリッジを真上から剣で突き刺した。そして半壊したブリッジの穴にメハデッサを刺して発射した。
ブリッジの塔が爆発して倒壊した。その後、腕の剣を青く輝かせて船体を斬りつけながら後部へ飛んで噴射口にメハデッサを撃った。ヌゼリュウムの各所が爆発して船体が傾いた。無数のゼヴェン隊が集まって来た。
ヌゼリュウムがバランスを崩して宇宙の底へ沈むように漂った。
「ここまでだな」
ディタンは右側にいるバルビゾンを睨みつけた。
ベギットゥの背中が青く輝いて高速で上昇した後、すぐにヌゼリュウムが大爆発を起こし、その衝撃波が周囲の艦隊を吹き飛ばした。バルビゾンも回転しながら上へ吹っ飛んだ。
「粒子の暴走のせいで爆発の規模が大きくなったか。まずい!」
ディタンはベギットゥを全速力で上昇させた。
「衝撃波、到達します」
「くそっ!」
ヒルヴァの淡々とした声にディタンは苛立ちながら操縦桿とペダルを力強く押した。
ベギットゥの背中と足から更に青い光が輝いた。ベギットゥは全速力でしばらく飛んだが背中の推進部が爆発して光を失い衝撃波に飲み込まれた。そして吹き飛ばされてきた戦闘機や人型兵器に巻き込まれ機体のあちこちが損壊して無数の残骸と共に宇宙を漂った。
「そうか、死んだか……」
絵画や彫刻が倒れた将軍室でヴェルボの死をネルヴィスから聞いたヴォンヴァルは 目を閉じた。
「断層砲を失ったからには一度撤退するしかないな。撤退だ」
「はい、撤退します」
ネルヴィスは背筋を伸ばして答えると部屋を出た。
「うん、何だ」
室内が大きく揺れ始めた。
「また爆撃か。何だこの揺れは」
ヴォンヴァルは机にしがみついた。部屋がきしみ始めた。
「ま、まさか!」
ヴォルヴァンが乗ったバルビゾンが引き裂かれるように破壊した。
周辺の艦隊も次々と爆発を起こして粉々に砕けた。
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