さまよう王国(7)

 翌日、レアロに帰艦したディタンはこれまでの状況をヒルヴァに確認した。

 メテガ軍もパラ連合軍も他の星から援軍を呼んで戦力を増強したが膠着状態だった。

 「しかしまずいな。あいつら断層砲を使うかも知れないな」

 「その可能性はあります。艦隊本部で作戦を立てています」

 作戦室でディタンはヒルヴァと話していた。

 「モーア将軍から会話モードで連絡が来ました。私を介して話ができます。どうぞ」

 ヒルヴァの目の色が緑色に変わった。

 「ああ遠隔で通訳付きで会話できるやつだな。こちらディタン。聞こえますか。どうぞ」

 「ディタンか。城の件はありがとう。フィネは私の姉だ。礼を言わせてもらうよ」

 「ああ、そうなのか。こっちも色々と世話になっているからな。気にしないでくれ」

 「それで早速で悪いがヌゼリュウムで高濃度の粒子反応が発生した。恐らく断層砲を使う気だ」

 「やっぱりそう来ると思ったぜ。それで」

 「君の機体でヌゼリュウムに接近して内部から破壊して欲しい」

 「なるほどね。隠れながら接近して中に入る作戦か。まさか一人でやれなんて言わないでくれよ」

 モーアからディタンに作戦の詳細が伝えられた。

 「発射されるまでの時間を考えたらそうなるか。わかったよ」

 「それでは頼む」

 モーアの会話が切れてヒルヴァの目の色が元に戻った。

 「それじゃ行くとするか」

 ディタンは背伸びしながら作戦室を出た。

 「ヒルヴァ、メハデッサの改良は済んでいるか」

 「はい。火力を3倍にした分、装弾数が10発に減りました」

 「上出来だ。全部ぶち込んでやるぜ」

 「はい。ケツの穴から弾をぶち込んで下さい」

 「おい何だよ。その言葉、急にどうしたんだ」

 「ベギットゥに残っていた地球人の言語情報の分析が完了してレハントロの知能システムが更新されました。これで地球人とのコミュニケーションは完璧だぜ」

 「お、おう。俺と話す時はそれでいいが他の地球人と話す時は言葉を選べよな」

 (誰の言葉遣いだよ。えっ、まさか俺……)

 ディタンは頭を押さえた。

 格納庫に入ったディタンはメハデッサを持ったベギットゥを見上げた。

 「みんな、必ず仇を取るからな」

 ディタンの目が険しくなった。


 奇抜な絵や彫刻が飾られた部屋でヴォンヴァルは端末に向かって話していた。

 「将軍、断層砲への粒子充填を開始しました。本当にやるつもりですか」

 端末の画面に映るヌゼリュウム艦長のヴェルボの表情が曇っていた。

 「ああ、そうだ。いつまでもここに留まる訳にもいかないからな」

 バルビゾンの将軍室でヴォンヴァルが淡々と答えた。

 「しかし味方の艦隊にも被害が出る可能性が……」

 「ヴェルボ、可能性を考えたらキリがないぞ。今は目の前の敵を倒すのが先だ。何か不都合が起きたらその時に考えれば良い」

 ヴォンヴァルが穏やかに言うと、

 「わ、わかりました。充填が完了したらご連絡します」

とヴェルボはおどおどしながら答えて通信を切った。

 「あいつ、ミザルみたいな喋り方になってきたな」

 ヴォルヴァンは椅子に深くもたれかかって呟いた。

 ヴォンヴァルの弟のミザルはメテガ星から宇宙船で脱出する時に爆発に巻き込まれて死んだ。

 その様子を別の宇宙船の画面からヴォンヴァルは見ていた。メテガ星の王族の血を血で洗う抗争で次々と親族が死んでいく中でヴォンヴァルとミザルは毎日怯えながら暮らしていた。母星を失って放浪しながらメテガ軍は断層砲で他の星を脅しながら支配していったがその最中でも虚しい血の抗争が続いていた。

 父も母も失いその仇の親族を殺しながら少年から大人になったヴォンヴァルは強引で残忍な手段で周囲を恐れさせて将軍の地位へ昇り詰めた。

沢山いる子供の中でミザルとよく似た面影のヴェルボには他の子より優しく接していた。放浪していたゼツロスの船を撃墜しなかったのは同じ母星を失った者達の船としてわずかばかりの同情からだった。

 「まあ良い。周りにはもう誰もいないからな」

 ヴォンヴァルは微笑んで酒を飲んだ。

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