さまよう王国(5)
「あれもゼツロスの機体か」
バルビゾンの司令室でセレンティの様子を見ながら将軍ヴォンヴァルが訊いた。
「はい。改良されていますがロルジィと同じ系列機かと思われます。今入った報告だと王と王妃を連れ出す模様です」
ヴォンヴァルの息子であり艦隊司令官のネルヴィスが答えた。
「後方艦隊の砲をセレンディに向けろ。あの機体が発進してセレンディを攻撃しなかったら裏切りだと判断して一斉攻撃だ。いくら姿を消せても全方向から攻撃を受けたら当たるだろう」
「しかしあの船には味方の兵がいます」
「ただの偵察兵だ。いらんだろう」
ヴォンヴァルは軽く答えた。
「わかりました。すぐに艦隊に伝えます」
ネルヴィスが指示を出している間、ヴォンヴァルは緑色の酒が入ったグラスを手に取ってゆっくり口にした。
「ふん、戦場で他愛無い戯れ事か」
ヴォンヴァルは目を閉じて微笑んだ。
「おい、他の艦隊の主砲がこっちに向けられているぞ。出た途端に来るぞ」
「ディタン、発進したら俺の合図で右側の船の最後尾をメハデッサで撃て。船の爆発に紛れてヴァルシを散布して逃げるんだ」
「わかった。パールズ様、ビゴール様を押さえておいて下さい」
ディタンが振り向いて言うとパールズは「ええ」と頷きビゴールの上に覆いかぶさった。
ベギットゥとロルジィが格納庫を出た。
「今だ!」「おう!」
ベギットゥとロルジィは右側の戦艦にメハデッサを発射した。
赤い光弾が戦艦の後部に命中し爆発した。
「頼んだぞ、ディタン」シセットが重い口調で言った。
「わかったよ。ヴァルシ散布!」
ディタンの声でベギットゥの姿が消えた。
周りの戦艦がセレンディへ一斉に攻撃した。砲弾がセレンディの各所に命中して大爆発を起こして船体は粉々に飛散した。
「お前達の手下なんかもうごめんだ」シセットが叫んだ。
ロルジィが砲撃をかわしながら周囲の戦艦のブリッジを剣で破壊して前進した。
艦隊からメテガ軍の
ロルジィの背中が青く輝いて高速で上に飛んで長距離砲を構えた。
「お前達の大事なバルビゾンを撃つぜ」シセットがボタンを押した。
ロルジィのメハデッサから赤い光線が放たれた。太い光線はバルビゾンに命中したが吸収されるように消えた。
「やはり無理か。それなら」
ロルジィの背中からまた青い光が輝いて高速でバルビゾンに突進した。
バルビゾンから砲撃が始まり、周囲にいたゼヴェンがロルジィに一斉に攻撃した。
機体に次々と被弾して腕が取れ次に両足が取れて頭が砕かれ、それでもロルジィはスピードを落とさずにバルビゾンに向かった。
「これが騎士の最期だぞ。ディタン!」
ひびが入ったコックピットでシセットは微笑んでボタンを押した。
ロルジィはバルビゾンの後部の噴射口に突入して自爆した。噴射口から火柱が立った。
バルビゾンの司令室が大きく揺れた。
「ぶざまな死に方だ」
ヴォンヴァルは鼻で笑ってグラスを床に叩きつけた。
「所詮は星を失った王。そんな何もできない男の為に死ぬとは愚かだな」
「後部ダイナモーズを破壊されましたが、すぐに復旧させます」
ネルヴィスが急ぎ足で報告に来た。
「なあ、ネルヴィスよ。お前は他人の為に死ねるか」
ヴォンヴァルの問いにネルヴィスは「どういう事でしょうか?」と聞き返した。
ヴォンヴァルはテーブルに置いた銃を素早く持って発砲した。ネルヴィスの左耳から青い血が細長く流れた。司令室が緊張に包まれた。
「いきなりですまんな。耳に何か止まっていたから落としてやったよ」
ヴォンヴァルがふっと微笑んだ。
「あ、ありがとうございます。将軍」
ネルヴィスの顔が引きつった。
「艦隊をもっと前に出せ!攻撃が届いていないぞ!」」
ヴォンヴァルが大声で怒鳴った。
「ここまで来ればもう安心だ。ヴァルシ解除」
味方の艦隊の横を通りながらベギットゥが姿を現した。
「ディタンだ。ゼツロスの王と王妃を救出した。指示を求める」
「レアロに帰艦して指示を待て」
ヒルヴァの愛想ない声にディタンは「了解」と答えた。
ベギットゥがレアロの格納庫に戻った。
ヒルヴァの指示でディタンはビゴールとパールズをコックピットから降ろして再び発進した。
「シセット、使わせてもらうぜ」ディタンはボタンを押した。
ベギットゥがメハデッサを構えて発射した。赤い光線の射線上のヌビモやゼヴェンが爆発した。
ディタンはメハデッサのエネルギーが切れるまで何発も撃った。
「シセット……お前は立派な騎士だったぜ」
ディタンは頭を抱えて大声で泣いた。
「ディタン、メンタル不安定。レアロへ帰艦せよ」「ディタン、メンタル不安定、レアロへ帰艦せよ」……
モニターからヒルヴァの声が何度も響いた。
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