さまよう王国(4)

 翌日、ディタンへ指令が届いた。

 セレンディから王を救出して帰艦後、レハントロへ連れて行く様にとの内容だった。

 船ごと救えないのか、ディタンは艦長のヒルヴァに訊いたが敵艦隊の奥にいる為に不可能と答えられた。

 「いざとなったら全員を脱出艇に乗せて振り切るか」

 ディタンはコックピットで呟きながら計器をチェックした。

 ベギットゥがレアロから発進した。透明になったベギットゥは敵艦隊の遥か下を飛んでセレンディに接近した。

 「とにかく話を聞くしかないな。格納庫に突っ込む。ヴァルシ解除」

 ベギットゥはセレンディの前に姿を現した。他の戦艦からベギットゥへ砲撃が始まった。ベギットゥは砲弾をよけながら格納庫に頭から突っ込んだ。ベギットゥは四つん這いになった。

 「長く居られないな」ディタンはシートの下に置いた長剣を持ってコックピットのハッチを開けて飛び降りて全力で走った。

 船内に警報が鳴り響いた。船員達がどよめいた。

 「これじゃ誰が敵か味方かわからない。とにかく王の部屋を目指すか」

 階段を駆け上がった所で銃声がした。ディタンは咄嗟に物陰に隠れた。

違う方向から銃声がした。ディタンは顔だけ出して様子を見た。軍服を着た男が倒れていた。

 「お前は……ディタンか!」

 廊下に立っていた中年の男が驚いて声をかけた。

 「悪い。長く話している時間はないんだ。ビゴール様に会いたい」

 「王の部屋だ。場所はわかるな。ここは俺達が守るから早く行け」

 ディタンは「わかった」と答えて廊下を走った。階段を上がってドアの前に男が二人立っていた。ディタンは剣を腰から抜いてドアの前に立っていた男の喉に突きつけた。

 「お前達はメテガ軍の者か」

 ディタンは睨んで声を押し殺して訊いた。

 「い、いや違う。お、お前はディタンか!どうして昔の姿のままなんだ」

 「すまん。色々事情があるんだ。王と話したい。通してくれ」

 話を聞いていたもう一人の男がドアを開いた。

 「ビゴール様、ディタンです!ディタンが来ました」

 男の言葉に奥の部屋から「ディタンだと!」と大声がした。

 年老いた痩せた男が早足で現れた。

 「ビゴール様。お久しぶりです」

 ディタンは刀を両手に持ち上に構えて腰の鞘に納めた。

 「おお、ディタン!もう死んだのかと諦めていたぞ」

 ビゴールがディタンの両肩に手を置いて涙を流した。

 「ディタンなの!」

 王妃のパールズが奥の部屋から姿を見せた。

 「お久しぶりです」ディタンはひざまずいたまま答えた。

 「ディタン。あなた、レクテと同じ船に乗ったのよね。レクテは!レクテは無事なの?」

 「はい。レクテ様は……」

 ビゴールが急いでディタンの口を塞いだ。

 「この船にもメテガ軍の連中が乗っている。どこで盗み聞きしているかわからんからな」

 ビゴールが小声で話すとディタンとパールズは小さく頷いた。

 「空間の裂け目から出て以来、我々は放浪していた。あちこちの星に立ち寄ったが我々王族がいる事で星を侵略されると思われて受け入れてもらえなかった。その途中でメテガ軍に鹵獲されてしまった。共に戦うという条件で命を助けてもらった」

 「そういう事ですか。とにかく逃げましょう」

 「いや、この船では艦隊を抜ける前に撃墜される。逃げるのは無理だ」

 ビゴールは小声で答えた。

 「本当にディタンか!」

 部屋に白い服を着たがっちりした体格の男が部屋に入って来た。部屋の外は怒号と銃声が飛び交っていた。

 「お前は……シセットか!年を取ったな」

 同じ騎士だったシセットとの再会にディタンは喜んだ。

 「ああ、お前は変わらないな」

 シセットは穏やかに微笑んだ。

 「事情を話したいが時間がないんだ。この船を艦隊から脱出させてくれ」

 「それは無理だ。これだけ大規模な艦隊だ。上にも下にも逃げられないぞ」

 「それなら全員を脱出艇に乗せて俺が連れて行く」

 「それも無理だ。ヴァルシで隠せないし脱出艇の数が多すぎる。俺とお前の機体で全て押しても逃げ切れない」

 シセットが沈痛な表情で答えた。

 「せっかく来てくれたのにすまん……」

 ビゴールが申し訳なさそうに言った。シセットは黙って腕を組んだ。

 「ディタン、俺が援護するからベギットゥにお二人を乗せて逃げてくれ!」

 シセットは目を伏せて言った。

 「えっ、お前達はどうするんだ」

ディタンの表情がこわばった。

 「俺達の事はいいからビゴール様達と逃げてくれ。お前はパラ連合軍にいるのだろ?ここより遥かにマシだからな」

 「俺達の事より王達を!」

 部屋にいた船員が叫んだ。

 「ダメだ!そんな事許さんぞ。お前達を見殺しにして何が王だ。死ぬなら私だけで十分だ」

 ビゴールが激怒した。

 「シセット、本当にいいのか」

 ディタンの問いにシセットは「もちろんだ」と頷いた。

 「我々も構いません!早くお逃げ下さい」「早く!」「また攻撃されます」

 部屋の外に詰めかけた船員達も叫んだ。

 「しかし私は……」

 ビゴールは目をつぶって悩んだ。

 「ビゴール様、失礼します」

 ディタンはビゴールの腹を拳で打った。

 「お、お前……」ビゴールは気絶した。

 「パールズ様、よろしいですね」

 シセットがパールズに訊いた。パールズは黙って頷いた。

 「皆さん、これまで本当にありがとう。長い旅の中で皆さんと共に暮らしてきた思い出は一生忘れません。私達はここを去ります。ですが……出来るなら生きて下さい。私に言えるのはこれだけです……」

 パールズはその場で泣き崩れた。パールズは部屋に入って来た船員達に囲まれた。

 「こちらこそ本当にありがとうございました」「どうか御無事で」「ご心配なく」

 船員達も泣きながらパールズに声をかけた。

 船員達に連れられてディタン達は格納庫に入った。先にディタンがベギットゥに乗って右手に二人を乗せてコクピットへ入れた。

 ベギットゥは立ち上がって姿勢を整えた。

 「ディタン、こいつを持って行け」

 コックピットのモニターにシセットが映った。

 シセットが乗った機体ロルジィが長距離型高火力銃の《メハデッサ》をベギットゥに渡した。

 「シセット。ありがとな」

 「頼むぞ。必ずお二人を安全な場所へ連れて行ってくれ」

 シセットはかみしめるように話した。

 「ああ。約束は必ず守る。援護よろしくな」

 ディタンは真剣な表情で答えた。

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