さまよう王国(3)

 レアロが戦地に到着した時には既に交戦状態だった。

 多数の艦隊や戦闘機や人型の機動兵器が入り混じって光線を放ちながら戦ってはあちこちで爆発が起きていた。

 後方支援が目的でディタンに発進命令が来た。

 「宇宙戦なんてコムザンとしかやった事がないのになあ」

 「何か問題でも」

 モニターからのヒルヴァの言葉にディタンは「別に。発進する」と答えて操縦桿を握った。

 ベギットゥが格納庫から発進した。その後を追うように10機のガレンが発進した。

 レアロの前方には7隻の大型艦が横並びで止まって前方に光のシールドを張って時々流れてくる光弾を防いでいた。

 遥か上空から黒い円盤型の戦闘機ヌビモ隊が目の前の艦隊に攻撃してきた。

 艦隊は砲撃で応戦したがヌビモ隊の動きが早くて撃墜できなかった。レアロから発進したガレンが高速で移動して4本の腕から光弾を連射してヌビモを次々と撃墜した。

 「ヒュー!やるなあ。手足をバラバラに動かして攻撃が正確、どんな操縦しているんだ」

 ディタンは撃墜していくガレンを見ながら感心した。

 「だが動きが機械的だ。パターンを読まれたら撃たれてしまう。そこは人手でカバーしなきゃいけないか」

 ガレンの攻撃をヌビモがかわし始めた。ベギットゥは背中と足から青い光を放ちガレンが撃ち損じたヌビモに光弾を撃って撃墜した。ディタン達が応戦しているうちに艦隊から多数の戦闘機が発進した。艦隊の間近で激しく交戦を繰り広げて何とかヌビモを全て撃墜できた。

 「不意打ちもありか。後ろにいるとはいえ油断出来ないな。うん?」

 コックピットのモニターに指令メッセージが届いた。

 《ディタン帰艦。補給後にヌゼリュウムを調査》

 「調査?まあいいか」

 戦闘機の残骸が浮いている中、ベギットゥはレアロへ戻った。

 コックピットから降りたディタンは近くにいたヒルヴァから作戦の詳細を聞いた。

 「つまりヌゼリュウムにいる協力者から情報を入手しろという事か」

 「はい、協力者が放出した記憶媒体を回収して下さい。媒体から微弱な電波を発信しているので傍受して下さい」

 ヒルヴァが淡々と答えた。

 「面倒だな。いつもこんな形で回収しているのか」

 「敵の監視が厳しくなって接触できなくなったのです」

 「それで俺が隠れて取りに行けって事だな。わかったよ。ちょっとブリッジへ行ってくるから補給よろしく」

 ディタンはヒルヴァの肩を叩いて格納庫を出た。

 白い廊下を抜けてエレベーターを昇りブリッジへ入り、静かな部屋の中央に座る艦長のヒルヴァに話しかけた。

 「ヌゼリュウムの断層砲の位置を知りたい。次の媒体を回収する時に断層砲を破壊したい」

 ディタンの問いにヒルヴァは姿勢を変えずに目を青と緑に点滅しながら黙った。

 「提案を却下。ベギットゥの攻撃ではヌゼリュウムには効かない。断層砲は艦内の最深部にあり、そこまで到達できる可能性は低い。現段階では承認できない。しかしその提案は《へラルゴ》へ送信する」

 「へラルゴ……指揮艦だな。わかった。今回は回収だけ行う」

 「頼みます。ベギットゥ補給完了。ディタンはベギットゥで発進」

 ヒルヴァは無表情で淡々と答えた。

 ディタンは「了解」と答えてブリッジを出た。

 「全く機械的だな。よくこれで作戦が実行できるな。生体端末に出来るのはここまでか」

 ディタンは苛立ちながら格納庫へ入りベギットゥに乗って発進した。

 「下から行くんだな。ヴァルシ散布」

 ベギットゥの機体が透明になった。

 見慣れない形の宇宙船の艦隊を抜けて光弾が飛び交う中をよけながらメテガ軍の艦隊に近づいた。宇宙船に光弾が命中しているがダメージはなかった。

 (何だ?装甲が固いのか。それとも何かで吸収しているのか)

 静かに最前線の艦隊を通り過ぎた。その奥に数十隻の艦隊が並んでいた。ベギットゥは艦隊の遥か下を静かに飛んだ。艦隊は幾つも隊列を組んで百隻以上の大規模なものだった。

 (確かにこれは正面から攻撃しても無理だな)

 更に奥に巨大な要塞型戦艦が二隻並んでいた。

 (これがヌゼリュウムか、隣は旗艦のバルビゾンだな。とてつもなくデカいな)

 他の戦艦より遥かな巨大な要塞にディタンは圧倒された。

 「さてどこにあるのか……」

 ディタンは計器を操作してレーダーで探した。宇宙空間で漂う小型の媒体を探すには時間がかかった。敵艦がひしめく中で探し回るのはいくら姿が見えない機体でも危険な状況だ。敵にベギットゥを判別できる機能があれば発見されてしまう。

 「はあ、やっと見つけた」

 レーダーに反応が表れてディタンは大きくため息をついた。

 ベギットゥがゆっくり進んで小型のカプセルを両手で包むように持った。ディタンはコックピットを出て媒体を入手した。

 「これで作業完了。帰るか」

 コックピットに戻ったディタンは媒体を胸ポケットに入れてベギットゥを動かした。

 ヌゼリュウムから離れて後方の艦隊の下を通り抜けているとコックピットのレーダーが反応した。

 「何だ?これは……《セレンディ》か!」

 ディタンは思わず叫んだ。ゼツロスの王族が乗る宇宙船セレンディが艦隊にいた。反応がある方向へディタンはゆっくり進んだ。モニターにセレンディが見えた。黒と緑に塗り替えられていたが紛れもなくその船はセレンディだった。

 「何でメテガ軍にいるんだ。メテガ軍の連中が乗っているのか」

 ディタンは呟いた。少し考えて、

 「調べてみるか」とコックピットの計器を操作した。

 透明なベギットゥはセレンティのブリッジに接近した。ディタンはセレンティが使う無線の周波数に合わせて暗号メッセージを発信した。

 『パルパンだがドレリンの店長は元気か』

 「さあ、どう出るかな。来た!」

 ゼツロス語で『ああ、だが今日は店を閉めたよ。悪いが出直してくれ』の文字がモニターに映った。

 「そうか。王は無事か」

 ディタンは安堵した。ベギットゥはセレンディから離れて艦隊の遥か下を飛んで引き返した。

 レアロに帰艦して媒体をヒルヴァに渡したディタンはブリッジへ向かった。

 「艦長。ヌゼリュウムの調査をしたい。また行かせてくれないか」

 「ディタンの提案をへラルゴに送信。進行中の作戦の支障になる可能性があるので保留。次の指令が来るまで待機」

 一点を見たまま話すヒルヴァにディタンは無表情で「了解」と答えてブリッジを出て船室に入った。

 「回りくどく言わずに全て話した方が良かったか。でも一緒だったな」

 暗い船室でディタンはしばらく眠った。

 船室のアラームで目覚めたディタンは会議室へ呼ばれた。部屋にはレハントロ星人と武装したヒルヴァが座っていた。

 「敵艦と何を交信したか説明しろ」

 ヒルヴァがディタンに淡々と話しかけた。ディタンはムッとして、

 「盗聴したか。いや……通信履歴を調べたか。俺を信用していないのか」

 ヒルヴァを睨んで答えた。

 「敵艦はセレンディ、ゼツロスの船だな」

 ヒルヴァが淡々と質問する横でレハントロ星人の男は黙って座っていた。

 「ああ、あれはゼツロスの王族が乗る船だ。俺は王を守る騎士だ。王の生存を確認する義務がある」

 「王は生存していたのか」

 「ああ、王は生きている。俺からの頼みだ。セレンディをメテガ軍から助けて欲しい。あの船が敵にいるのは何か事情があるに決まっている」

 「要望は受けた。作戦本部へ指示を仰ぐ。ディタンはスパイの容疑がかかっている。自室で謹慎してもらう」

 「まあ、そうなるな。いい答えが出るのを期待しているよ」

 ディタンはヒルヴァに連れられて船室へ戻った。外からロックされる音がした。

 「このまま待つしかないのか」

 ディタンは壁を蹴ってベッドで横になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る