さまよう王国(2)
端末のアラームでディタンは目覚めた。
端末を半分スライドすると画面が端末の上に浮かんで白い顔が映った。
「こんにちは。あなたを地球の代表言語でサポートするヒルヴァです。ロゼロン基地まで来て下さい。場所はここです」
「う~ん。やっぱり地球の言葉を他の星の奴が使うとこうなるのか」
ディタンはヒルヴァの言葉遣いに顔をしかめたがすぐに諦めた。
病院を出て車道に配備された無人の自動運転車に乗った。車内の機械にロゼロン基地へ行く事を告げると自動で走り始めた。基地の手前の駐車場で車が止まりディタンは車を降りて基地に入った。受付の端末に名前を告げて案内された部屋に入った。
「はじめまして。生体端末のヒルヴァです。これからサポートさせて頂きます。よろしくお願いします」
水色の薄い服を着た乳白色の肌のヒルヴァは表情を変えずに淡々と話した。
「はいはい。よろしくな」
ディタンは軽く答えてヒルヴァから説明を受けながら支給品を受け取った。認識用のバッジと耳に入れる球状の無線機、レーザー銃、腕時計型の端末。シンプルな形ながら高度な技術を詰め込んでいたのがディタンにはわかった。
「なあ、さっき生体端末って言ったがお前の体は機械なのか?」
ディタンは支給品を装備しながらヒルヴァに訊いた。
「私は人工的に作られた知能型生物です。軍からの司令を私の脳を介してあなたに情報を伝えます」
「お前も戦場へ行くのか」
「いえ。私はあなたの言語を持った端末です。あなたとの会話は全てレハントロの知能システムに記録されて戦場では別のヒルヴァがその情報を共有します。あなたが話しかけたヒルヴァがあなたをディタンだと認識すると地球の言葉で話すので安心して下さい」
ヒルヴァが無表情のまま片言で淡々と答えた。
「へえ便利だな。取りあえずよろしく頼む。ところでベギットゥを見たいのだがどこへ行けばいいんだ?」
「ベギットゥは港の基地で修理中です。修理が完了したら連絡します。軍から指令が届いています。ディタンにテトル部隊所属艦レアロの乗艦を許可する。ベギットゥの修理が完了次第行くように」
ヒルヴァは文章を読むように淡々と話した。
「悪いけど色々質問してもいいか?」
「構いません。答えられる範囲でよければ答えます」
ディタンはヒルヴァから端末で拾えなかった情報を一通り聞いて基地を出た。
外は多種多様な種族が歩いていた。肌の色が様々な人型の種族、動物のような種族、単眼や複眼の昆虫のような種族……月に住んでかなり時間が経つディタンには久しぶりに見る風景だった。
「ゼツロスより進んでいるな。ヒルヴァを介した異星人とのコミュニケーションシステムも凄いがこれだけの異星人が住みながら治安が安定しているのは行政府の統治が優れているのか、それとも女王の力か……」
白で統一された大小の建物に見た事のない文字の看板が並び、人通りは多いが建物の統一性に冷たさを感じる街並みだ。レハントロを囲む三つの星の光の配色で刻々と彩りを変える空の下で白い街並みは無機質に見えた。
ふいにレクテとガンズの顔が脳裏によぎった。
「とにかく早く用事を済ませて帰らないとな」
ディタンは呟いて自動運転車に乗って病院へ帰った。
レハントロ時間で3日後、ディタンは港の軍事基地に向かった。
「おおっ!」工場に入ったディタンは思わず声を上げた。
修理されたベギットゥが立っていた。
「装甲を強化し推進機構を改良しました。武器を軽量化し剣の刃を強化。掌の光弾の射程を延長しました。レハントロの武器で規格が合う物は使えます。使える武器はコックピットの端末に登録済です」
同行したヒルヴァは淡々と答えた。
「これで戦えるな」
「乗りますか?」
「ああ、もちろんだ」
ディタンが喜んで答えた。
「機体の受け取りが完了したので次の指令が届きました。ベギットゥでレアロに着艦するようにとの事です」
「今の返事で受け取りが完了した事になるのかよ。手続きが簡単すぎじゃねえか。まあいいか。じゃあ行ってくる」
ディタンは薄い浮遊型のエレベーターでベギットゥに乗り込んだ。
「天井が開きます。発進を」
モニターにウィンドウが開きヒルヴァの声がした。
「わかったよ」
天井が完全に開いた。ベギットゥがゆっくり上昇した。
モニターの地図を頼りにディタンはレアロを探した。
「あれか。変わった形だな」
それは楕円形の形をしたベギットゥより一回り大きな機体だった。
「レアロへディタンだ。着艦する」
「了解。上にしがみついて下さい」モニターからヒルヴァの声がした。
「えっ……」ディタンは不審に思った。
ベギットゥがレアロの上にしがみついた。レアロが浮遊した。
「おい、まさかこれで戦うなんて事ないだろうな」
「大丈夫です。これはレアロのブリッジです」
モニターからまたヒルヴァの声がした。
「全部筒抜けかよ……」ディタンは気まずくなった。
宇宙に出ると大型の宇宙船が待機していた。
「ああ、そういう事ね。随分凝っているな。しばらくテスト飛行をするか」
ベギットゥがブリッジから離れて止まっている宇宙船の間をすり抜けて飛んだ。
「加速はいいな。最大速度!」
ベギットゥの背中が青く輝いてしばらく飛んで振り返ると丸いレハントロ星が見えた。
「やっぱり地球よりでかいな」
青い海に浮かぶ緑の大陸がある巨大な星を見ながらディタンは地球での戦いを思い出した。
「ディタン、レアロに着艦を」
モニターからヒルヴァの声がした。
「わかったよ」ディタンはレアロに向かった。
ディタンが戻って来た時にはレアロはブリッジと合体していた。
格納庫でベギットゥから降りるとヒルヴァが待っていた。
「ようこそレアロへ」
「この船のヒルヴァだな。よろしく頼むよ」
「了解。指令があるまで待機して下さい」
ヒルヴァは片言で答えた。
「この船の艦長は?」
「この船の指揮は司令タイプのヒルヴァが行います。レアロの整備や操縦の手作業は全てヒルヴァが行います」
「さすが進んでいるな」
ディタンは周りを見渡した。同じ姿をしたヒルヴァがあちこちにいた。
「あの機体に乗るのもヒルヴァか」
ディタンがベギットゥの奥に並んだ灰色と黒に配色された細身の機体を指差した。
「はい。《ガレン》に搭乗します」
ヒルヴァはディタンの指差した先の機体を見て淡々と答えた。痩せた機体には4本の腕が前後に伸びて2本の足の膝の部分から更に細い足がついていた。
「あれはガレンという機体か。妙な形をしているな。この船には他の星から来たのは俺だけか?」
「はい。あなたは他の種族とは言語レベルが合わないのでヒルヴァ専用の船に配属されました。混乱を防ぐ為に他の部隊との接触は極力避けて下さい」
「なるほどね。わからない事は後で訊くよ。ところで休憩したいけど」
ディタンはヒルヴァに船室へ案内してもらって休んだ。
レアロが光速で発進した。
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