紺碧の翼(13)

 瓦礫に覆われた町で子供が一人で泣いていた。その子の横を通り過ぎる中年の女。道端で座り込む老人。うつむいて歩く若者。地上に大きな影が走る。空をコムザンが飛ぶ。生きる希望を失った人々は何もなかったように歩く。裏通りでコムザンの細菌を売人から買った若者が自ら腕に注射した。そしてもがきながら苦しんで死んだ。

 テレビの画面から政治家が「傷ついた今から立ち直って明るい未来を作ろう」と演説する。その言葉を誰も聞かない。歌手が愛に満ちた歌を歌っても誰も聞かない。壊れた家やビルのそばを無口で歩く人々。空から戦闘機が飛ぶ音が響く。当たり前のよ うに響く轟音に子供達は空を見上げる。

 貧しい国も豊かな国も希望より絶望に溢れた毎日を繰り返していた。

 宇宙種や地上種のコムザンは相変わらず発生していた。

 ガーディアンが生まれる事を恐れた各国の政府は宇宙種のコムザンが襲来した時には共同で殲滅活動を行う国際条約を締結した。シーヴィは発見次第、捕まえる事になったが簡単にはいかなかった。

 鈴井は日本へ帰国した。汚職に関わった元日本支部長の真木は裁かれたが、真木に関わった政治家や官僚の大半がガーディアンの放った光弾で死亡した為に捜査は打ち切られた。警察は崩壊した日本の治安維持だけで精一杯だった。

 ガーディアンとの戦いを元に軍事企業で兵器開発が進められ、高性能の兵器や最先端の技術を導入した試作機が開発された。どこにいるかわからないシーヴィやいつ現れるかわからないコムザンの脅威に怯えた人々の間で軍事力の増強は暗黙の了解になっていた。

 鈴井が乗ったベガロは更に高速化が図られその速さは世界の戦闘機でトップクラスになった。


 紺碧のベガロは雲上の青空を飛んでいた。

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