紺碧の翼(12)

 太平洋のガーディアンへ各国の軍と国連軍の攻撃が始まった。

 戦闘機部隊がミサイル攻撃を繰り返しているがガーディアンの光の壁には効かず周辺を飛んでいる素早いコムザンの攻撃で撃墜された。

 鈴井が乗ったベガロは遥か上空を飛んでいた。

 「全く、こんな作戦よく思いつくな。殺す気かよ」

 鈴井がコックピットでぼやいた。ベガロの翼の前は薄い刃になっていた。刃の部分は新型ミサイルと同じ素材で作られていた。

 「これでスパッとやつの体を切れるといいが」

 ミサイル攻撃がガーディアンの前面に集中した。ガーディアンは掌から光の壁を作って応戦した。

 「今だ!」鈴井は操縦桿を押した。

 ベガロの機首が下がり高速で急降下した。翼がガーディアンの頭に当たった。機体が激しく揺れた。鈴井は歯を食いしばって降下を続けた。

 太ももに到達した時、ベガロはガーディアンから準音速で離脱した。

 ガーディアンの体に長い切り傷がついた。

 ベガロが急旋回してガーディアンの足元から上昇した。

 「タマがついていなくて良かったな。それでも痛いぞ」

 鈴井はガーディアンの股間に右翼を当てて急上昇した。機体が大きく揺れたまま上昇を続けてガーディアンの肩を抜けて飛んだ。

 ガーディアンの腕の1本が機体の横に当たり、ベガロはきりもみ状態になって上昇した。

 「うわあわああ!」鈴井は叫んだ。

 ベガロが失速して急降下した。

 「くそっ!」鈴井は操縦桿を操作した。

 海面ギリギリで機体の姿勢を戻したベガロは水しぶきを上げて直進した。

ベガロは低空で回り込んで上昇して左翼で背中を切りつけながら上昇した。

 しかしガーディアンの頭上で3本の手で機体を掴まれた。

 (私に痛みを与えた者よ。痛みを感じながら死ね)

 鈴井の脳に声が響いた。

 機体がきしみ始めた。

 「くそっ、ここまでか!」

 鈴井が目を閉じた時、

 (受け止めるわ。脱出しなさい!)

 零樺の声が脳に響いた。

 「ええい!」鈴井は脱出ボタンを押した。機体の外へ放り出された鈴井をコンラルが大きく広げた翼で受け止めた。零樺が鈴井の腕を掴んだ。

 「早く!」零樺の声に鈴井は這いつくばって零樺の体にしがみついた。

 ガーディアンの掌が二人の目の前に迫って来た。二人を乗せたコンラルは掌をよけて全力で飛んだ。ガーディアンは持っていたベガロを海へ放り投げた。傷を負ったガーディアンがよろめいた。

 二人の後ろから黒いコムザンの群れが追いかけて来たが、アメリカ軍のビレーダ部隊が次々と撃墜した。

 何とか二人は逃げ切ってコンラルに乗ったまま佇んだ。眼下には青い海が風に煽られて波打っていた。

 「あの新型、改造したのか。飛び方が軽い。それに追跡ミサイルも精度が上がっている」

 「黒いコムザンに対処する為に更に性能を上げたわ」

 「あんなのに乗ってよく体が持つな。しかしあの化け物、あの光線を撃たなかったな。絶対に撃ってくると思ったが」

 遥か彼方で爆音がする方向を見て鈴井は呟いた。

 「乱射して仲間に当たるのが嫌なんじゃない。ああ見えて一定の知能も心もあるからね。次の作戦で終わるといいわね」

 零樺は息を整えながら言った。

 「終わらせるよ。国に帰りたいからな」

 鈴井は追ってきた戦闘機の後部座席に乗って零樺に手を振った。


 アメリカ西海岸の基地に戻った鈴井は改良を施した新型のベガロに乗った。

 「絶対に終わらせる」

 鈴井は操縦桿を握りしめた。

 準音速で飛んで10分程で戦場に着いたベガロはミサイル攻撃を受けているガーディアンの背後に回って高速で突進して散弾型のミサイルを発射した。

 弾はガーディアンの体に殆ど命中した。

 ガーディアンを攻撃していた戦闘機部隊が一時撤退した。

 「無人機発進」

 弾に込められた発信機の状況をモニターで確認した鈴井は遥か上空を飛ぶ無人機を配備した部隊に発進を指示した。

 無人機を搭載した戦闘機部隊から小型のAI搭載型無人機が発進した。

 100機を超える無人機はガーディアンの発信機にめがけて高速で突進した。周りのコムザンに落とされながらもランダムに左右に飛んで半数以上の機体がガーディアンに命中して爆発した。うるさい虫をよけるようにガーディアンは8本の手を振り回して無人機を払った。

 無人機が爆発した後のガーディアンの体はあちこちが焦げて煙が上がっていた。

 「いくぞ!」

 ベガロは動きが鈍くなったガーディアンの後頭部を翼の刃で切りつけた。

 (うわああああ!)

 ガーディアンの叫びの思念波が戦場にいた兵士達の頭の中で響いた。

 「やはり頭に脳があったか。無人機第二波、発進!」

 鈴井の命令で武人機を搭載した部隊からまた100機程度の小型無人機が発進した。

 無人機はガーディアンに接近すると高濃度の細胞破壊剤を噴霧した。ガーディアンの周囲がうっすらと白い霧がかかったようになった。コムザンやガーディアンに無人機が撃墜されながらもばら撒かれた細胞破壊剤はガーディアンの傷口に染み込んでいった。周りを飛んでいたコムザンが次々と海へ落ちた。ガーディアンの動きが止まり掌から発せられた光の壁が消えた。

 再び戦闘機部隊が攻撃を始めた。うなだれたガーディアンに命中して巨体はボロボロに崩れ始めた。

 「とどめだ!」鈴井は操縦桿を思いっきり前に押した。

 海面ギリギリを飛んだベガロはガーディアンの足元で急上昇して喉から首筋にかけて翼で切りつけた。切り口からゆっくりガーディアンの頭が反対側に傾いた。そして切り口から首が裂けてガーディアンの頭が海へ落ちた。止まないミサイル攻撃でガーディアンの胴体は粉々に砕けた。

 「終わったな。ひとまずだが」

 遥か上空から様子を見ていた鈴井は西海岸の基地へ戻った。

 ガーディアンの周りを飛んでいたコムザンも殲滅されて討伐作戦は完了した。

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