紺碧の翼(10)

 それから一ヶ月後、コムザンが太平洋上に現れた。

 痩せた巨人の姿をしたそれは8本の腕を大きく広げて全身から光を放った。

 「我が名はガーディアン。お前達がコムザンと呼ぶ者と人類の混合種である。この星を汚す愚かな人類はこのガーディアンが抹殺する」

 顔がないガーディアンは思念波で話すと全身から無数の光弾を発射した。光弾が各地の都市に降り注ぎ建物を破壊した。

 燃え広がる都市の映像をニュースで見て人々は沈黙の日の再来だと恐れた。

 「竜型が進化したとみて間違いないですね」

 ベルギー支部基地の作戦室で大型モニターを見てエディが言った。反論する者はいなかった。

 「とうとう喋るようになったか。最後のボスキャラ登場だな」

 鈴井は呆れてため息をついた。

 「そろそろアメリカ軍の攻撃が始まるな」

 エイク支部長が腕を組んだまま呟いた。

 アメリカ軍によるミサイル攻撃が始まった。ガーディアンが掌を広げて大きな光の壁を作った。ミサイルは壁に当たって爆発した。ガーディアンにダメージはなかった。

 「見ての通りミサイル攻撃は効かない。魔獣使いも吸収したようだな。厄介な敵だ」

 エイクは淡々と話した。

 「あのバリアのような物を破壊できたらいいが、さすがに無理か」

 鈴井は言いながら突拍子もない発想に後悔した。

 「そんな便利な武器があればな。あのデガブツの扱いは本部に任せて引き続きコムザン撃退を進めてくれ。以上だ」

 エイクが立つと部屋にいた兵士達も起立して敬礼した。

 兵士達が部屋を出てからも鈴井は座ってパソコンでガーディアンの画像を見た。


 太平洋の上空をサングラスをかけた零樺がコンラルに乗って飛んでいた。

 「はーい、零樺」

 零樺は「えっ」と驚いて右側を見た。コンラルがガオッ!と小さく吠えた。

 ゼザーブルに乗った未希が手を振っていた。

 「あら未希。生きていたの?」

 零樺は鼻で笑った。

 「久しぶりに会ったのに随分な挨拶ね」

 未希がムッとした。

 「そりゃあ聖なる革命団に入っていたからね。あなた、あちこちでボロカスに言わ れているわよ」

 「ああそう。でも後悔していないわ。革命団はなくなったけどね」

 「それで何の用?」零樺は不機嫌な表情で訊いた。

 「別に。暇つぶしに見物よ。面白そうな化け物だから見たくなったの。あなたは何で?」

 「話す必要ないわ。仕事であいつに用があるの。邪魔しないでね」

 「はいはい」

 未希は右手を挙げて零樺から離れた。

 「気楽なもんだわ。昔は長老に仕えるお堅い女だったのに、変な男に引っかかっておかしくなったのかな」

 零樺はぶつぶつ言いながら飛んだ。コンラルがたまにあくびをした。

 「さて、来たわ」

 ガーディアンの頭上で宙に浮いたまま零樺は目を閉じた。

 (ガーディアン、単刀直入に訊くわ。目的は何なの)

 ガーディアンが零樺を見上げた。

 (お前は魔獣使いか。私はガーディアン。地上の人類を滅ぼして楽園を築く)

 (楽園は素晴らしいけど人類の命は考えてくれないの?)

 (人類の命など無意味。この星を破壊する者。お前みたいな異星人の末裔でもこの星を破壊しながら暮らしているではないか。汚らわしき存在だ。わざわざ話し相手に来たお前に特別に見せてやろう)

 ガーディアンは8本の両手を上下に振った。生まれた風から四枚羽根の昆虫のような形をした黒いコムザンが続々と誕生した。

 コムザンはものすごい速さで飛んで行った。

 (今度の奴らはお前達の武器でも当てられないぞ)

 (これでは勝てないわ……)

 (そうだ。これで人類は終わりだ)

 ガーディアンはまた両手を振って同じ形のコムザンを生み出した。

 何度も同じ動作を繰り返して沢山のコムザンを生み出した。コムザン達は各地へ飛んで行った。

 (聞き入れてくれないみたいね。それじゃ失礼するわ)

 (帰すとは言っていないぞ。私の目を潰した女よ)

 ガーディアンは零樺をコンラルごと握り潰そうとした。零樺は咄嗟によけた。

 (記憶があるのね。だけどやられるつもりなら来ないわよ)

 零樺は腰につけた閃光弾をガーディアンに投げた。眩しい光がガーディアンの顔面で炸裂した。サングラスをかけた零樺は思わず目を背けた。

 (残念だが私には目がないから効かないぞ)

 ガーディァの手が零樺に届いた。

 (零樺、逃げて)

 ゼザーブルに乗った未希が急降下して背中を爪で引っかいた。ガーディアンがのけ反った。

 「急いで!」

 零樺と未希はガーディアンから離れた。

 (逃がさんぞ!)

 ガーディアンの声が二人の脳に響いた。

 (零樺、乗って)

 未希が零樺に呼び掛けた。零樺はゼザーブルの背中に乗ってコンラルを消した。

 ガーディアンがゼザーブルへ光弾を撃った。

 「よけて!」

 未希が叫ぶとゼザーブルが素早く傾いて光線をよけた。一発が未希と零樺に伸びてきた。

 「効けばいいけど」

 未希は掌から光の壁を作った。

 「きゃああああ!」

 光の壁で光弾を弾いたが未希は反動で吹き飛ばされた。

 「しっかり!」

 零樺は咄嗟に未希の腕を掴んだ。未希はゼザーブルの体に張り付いた。

 後ろから黒いコムザンの群れが飛んで来た。

 「来るわよ」

 零樺が叫んだ。

 ゼザーブルは全力で飛んでアメリカ西海岸上空に着いた。

 「ヴァルシ!」

 未希が叫ぶとゼザーブルの姿が消えた。

 「すごいわ。何よこれ」

 「ええ、不思議な手品よ」

 驚く零樺に未希は息をはずませながら微笑んだ。

 ゼザーブルは姿を消したまま町のはずれに降りた。

 黒いコムザンが上空を通り過ぎた。二人は建物の物陰に隠れた。

 「無茶するわね。あんな化け物と一人で交渉するなんて」

 透明なままのゼザーブルに手をかざして召喚を解いた未希は呆れた表情で言った。

 「仕事だから仕方ないわ。それにしても面白い技を覚えたのね」

 「知り合いの変な奴のおかげでね。最近会っていないけど」

 「そうなんだ。男が出来ると変わるものね」

 「そういう関係じゃないけどね。あなたは彼氏いないの」

 「男の相手なんかしたらお金かかるだけでしょ。助けてくれてありがとう。あんまり派手に暴れないでね。死んだら長老が悲しむわよ。じゃあ」

 零樺は軽く笑って瓦礫が転がる町の中を歩いて行った。

 「相変わらず不愛想ね」

 未希は呆れて零樺の後ろ姿を見送った。

 空では鳥型のコムザンが飛び回っていた。

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