紺碧の翼(9)
カスピ海上空をゆっくり飛行しているコムザンが大きく吠えた。飛び散った唾液からいびつな鳥の姿をしたコムザンが生まれた。コムザンはすぐに巨大化して翼を広げて飛んだ。少しずつコムザンが群れを作ってゆっくり飛びながら黒海の上空に差し掛かった。
黒海西側の湾岸に配備されたミサイルが一斉に発射された。鳥型のコムザンに命中するとすぐに焼失したが竜型のコムザンに命中しても効果はなかった。
傭兵になった魔獣使いが魔獣を召喚した。空に黒い穴が開き黒い魔獣が二十頭程現れた。魔獣は鳥型のコムザンの群れの前を遮るように並び火球を吐いた。火力でコムザンの動きを一時的に止める事は出来てもダメージは与えられなかった。竜型のコムザンが口から無数の細かい光弾を吐き出した。光弾が命中した魔獣は体が飛び散るように消えた。
竜型のコムザンは日本で誕生した時よりも形が変化してより竜に近い姿になっていた。飛んでいる間も体の変化は続いた。
周囲を飛んでいた鳥型のコムザンの一部が何かを見つけたように森へ急降下した。地上のシーヴィの群れに襲いかかった。シーヴィは赤銅色の翼を広げて応戦した。シーヴィの群れが鳥型を囲んで爪でひっかきながら倒した。狩り方を学習したシーヴィ達は更に上空を飛んで群れで飛んでいる鳥型を一体ずつ倒していった。
竜型のコムザンは背後で繰り広げられている戦いを気にせずに飛び続けた。地上からミサイルが命中しても竜型のコムザンは多少揺れる程度で飛行速度を緩めずに進んだ。
地中海上空を飛んでいるコムザンの群れへ海上の戦艦がミサイルを発射した。竜型には効果はなかったが鳥型に命中すると焼失した。また鳥型と戦っていたシーヴィに被弾するとジュッと一瞬で焼失した。
焼失しかけた一体のシーヴィが竜型の背中に乗った。シーヴィの体が竜型の肌に吸収されるように消えた。竜型の頭が少しずつ変化した。ミサイルの攻撃は続き竜型の周りを飛んでいた鳥型やシーヴィが次々と焼失した。
竜型のコムザンが大きく吠えた。透明な羽根が震えながら青白く輝いた。地中海湾岸で隠れていたシーヴィ達が頭を抱えながらうずくまった。そして立ち上がるなり翼を広げて飛んで付近の町の住民を襲い始めた。鳥型のコムザンも降下して人々を襲った。
地中海を横断していた竜型のコムザンはヨーロッパ本土へ向きを変えて北上を始めた。
湾岸の基地で待機していた国連軍の戦闘機部隊が発進した。
鈴井が乗るベガロも部隊にいた。
戦闘機が竜型に次々とミサイルを発射したが効果はなかった。竜型がまた吠えると唾液から鳥型のコムザンが誕生してすぐに成長して戦闘機を撃墜した。
いくら鳥型を倒してもまた竜型から生まれる際限のない戦いが空で繰り広げられた。
「これでどうだ!」
モニターの6個のマルチターゲットロックの照準が赤色に変わると鈴井はボタンを押した。ベガロのミサイルポットから発射した追跡ミサイルが曲がりながら6体の鳥型に命中して撃墜した。
「あと2回分だな」
ベガロは旋回しながら鳥型に発射して撃墜した。弾が切れて基地へ帰還した鈴井はベガロから降りた。整備士がミサイルを装填している間にトイレから戻って来ると零樺が機体の前に立っていた。
「お疲れさま」
「ああ、キリがないな」
零樺に鈴井が疲れた表情で答えた。
「予想以上に苦戦だな。まさか化け物を生み出すとはなあ。とんだ竜の神様だぜ」
「とにかくあの口をどうにかしないとね。魔獣部隊が竜型に取りついて口をこじ開けてその間にミサイルを撃ち込む作戦をジャック隊長に提案したわ」
「魔獣使いの連中なんかに頼むのは癪に障るがやむを得ないか。その作戦なら多分ミサイルを撃ち込むのは俺の役目だろうな。機動性の高いベガロでしか出来ないからな」
「微力ながら私も協力するわ。うまくいけばこれで竜の目を潰せる」
零樺は下に置いた長身の機関銃と長剣を指差した。
「何考えているんだ!あいつに取りつく前に鳥型やシーヴィにやられるぞ」
鈴井は怒鳴ったが零樺はゆっくり髪をかき分けた。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だから。この弾丸には高濃度の細胞破壊剤を詰まっているの。いくら眼球が頑丈でも少しはダメージを与えられる筈よ。あとこれはDが戦いで残した素材を地球の技術で再現した剣。かなり鋭くてコムザンの肌も切れるわよ。それに私のコンラルは素早いからね。成功したら特別手当はずんでもらえるし」
「また金かよ」
「そう。お金にならない事はやらない主義なの」
零樺と鈴井はフッと小さく笑った。
「じゃあ、俺も金の為に仕事しなきゃな。お前も気を付けろよ」
鈴井は右手を挙げてベガロに乗り込んだ。
本部からのメッセージがコックピットのモニターに表示された。作戦は零樺の提案通りだった。
ベガロが基地を発進し竜型からほど遠い場所に到達した。
竜型の周りの空から三頭の巨大な魔獣が現れて竜型の首を押さえた。竜型は空中で止まって必死にもがいた。
コンラルに乗った零樺はコムザンの群れの合間を素早くすり抜けて竜型の頭に取りついた。鳥型やシーヴィが零樺に襲って来たが首を押さえていた魔獣が火球を吐いて追い払った。零樺は竜型の左目の眼球に向けて機関銃を連射した。大きな眼球に傷がつき変色した。竜型が大きく吠えた。頭に鳥型やシーヴィが集まって来た。
「反対側も潰すわ!」
コンラルに乗った零樺は頭を駆け上がって右目にも機関銃を連射した。竜型は目を閉じて首をもたげて吠えた。
「とどめはこれよ!」
機関銃を放り投げて零樺は背負った剣を両手に持ち竜型の閉じた右目に突き刺した。竜型はまた大きく吠えた。
「時間ね」剣を抜いた零樺はコンラルの首にしがみついて急降下した。
「いくぞ!」鈴井は操縦桿を握りしめた。
スピードを上げたままベガロは追跡ミサイルの照準を全て竜型の口に合わせて発射した。
着弾する寸前で魔獣が消えて竜型の口に全弾命中した。
ヴオオオオオオオ!
竜型が大きく吠えた。口から煙を上った。
ベガロは右側に大きく旋回した。竜型は首を大きく振りながら飛び続けた。戦闘機部隊や海上の戦艦が鳥型やシーヴィに攻撃を続けた。竜型からコムザンは生まれずに徐々にコムザンの数は減った。しかし竜型にはミサイル攻撃が効かずに落とせないままだった。
国連軍の戦闘機部隊が一時撤退した後にアメリカ軍の戦闘機部隊が飛んで来た。
部隊の中にベガロと似た機体が数機飛んでいた。モゼラニクス社がベガロを元に開発した
ビレーダ部隊は編隊を組んだまま竜型に一斉にミサイルを発射した。命中したミサイルは竜型の肌に食い込んで爆発した。第二波第三波のミサイル攻撃で竜型の体は傷だらけになり海へ落ちて沈んでいった。
「さすがDの遺産、あのミサイルも使えそうね」
コンラルに乗って様子を見ていた零樺は剣を見て微笑んだ。
竜型の周りを飛んでいた鳥型やシーヴィは撃墜されて地上で暴れていたシーヴィは大人しくなり元の居場所へ帰っていった。
竜型は1時間経っても海上に現れなかった。
湾岸の基地で鈴井達は待機していた。
「実は海が苦手だとか、それはないか……」
鈴井はコーヒーを飲みながら言った。
「あり得るわね。宇宙には海が存在しないから環境に適応できず動けないのかも。出来ればそのまま死んで欲しいけど」
「今まで地上種のコムザンが海から生まれたって話は聞いた事がないから案外そんなところじゃないのか。それよりアメリカ軍のあのミサイルは何だよ。あんなのがあるなら回してくれてもいいじゃないか」
「アメリカ軍とうちの会社の共同開発だから仕方ないわ。新型戦闘機の開発に着手出来たのはあなたが戦果を上げたからだけどビジネスだからね。でも今回の戦闘でミサイルを量産化できそうだから今までより楽に退治できるわね」
零樺が言った通り新型ミサイルが各国の軍に配備された。各国でコムザン撃退が進んでいる中で海に沈んだ竜型は行方不明のままだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます