紺碧の翼(6)
国連軍のベルギー支部基地に到着して鈴井はひと通り手続きを済ませ寮の部屋で荷物の整理をして待機した。その間にモゼラニクス社の整備士達が先に到着したベガロの武器を機体に装着したり計器のチェックを行った。
部屋で休んでいるとコムザン出現の警報が鳴った。鈴井は部屋に備え付けられた無線機で状況を聞いた。会話は英語でやり取りしていた。
部屋のスピーカーから鈴井へ出撃命令が流れた。
「おい、いきなりかよ」
鈴井はベッドから立ち上がって寮を出て車で滑走路へ向かった。
「整備状況は」「準備完了。新型ミサイル装備」「了解だ」
整備士と確認して鈴井はベガロに乗り込んだ。
「緊急発進する」鈴井は計器のスイッチを手早く押した。
エンジンが急速に鳴り機体が動き始めた。
「起動良好。管制室。発進タイミングよろしく」「ベガロ。発進して下さい」「了解!」
鈴井は操縦桿を押した。ベガロが加速度を上げて離陸した。
「コムザン、大気圏突入。落下予測地点、アントワープ!」無線から慌てる男の声が響いた。
「おい、まずいぞ。落ちたら町が吹っ飛ぶぞ」
視界に燃える物体が見えた。
「間に合え!」鈴井は叫んでレバーを引いた。
機体の速度が一気に上がった。コックピットが揺れた。鈴井はモニターの照準に目を凝らした。射程距離に入った。機体が更にコムザンに接近した。巨大なコムザンから燃える赤い炎がはっきりと見えた。
「ミサイル発射!」鈴井はボタンを押した。
ベガロの右翼から発射したミサイルがコムザンに命中し3秒後にジュっとコムザンが溶けるように焼失した。
「よし!任務完了。帰還する」「了解」
管制室の男からの英語の返事に「味気ないな」と鈴井は苦笑した。
地上種のコムザンを撃退して帰って来た部隊の兵士達と基地で合流して軽く挨拶を交わした鈴井は支部長室に呼ばれた。
「着任早々だが良くやった。助かったよ。スズキ」
エイク支部長に鈴井は「はっ」と敬礼した。
「特務隊だから経歴はシークレットになっているみたいだが、なかなかの操縦だったよ」
「機体の性能が良かったからです」
「モゼラニクス社の機体は好評だからな。ベガロも試作型だがかなり高性能な機体だ。もし君がいなかったら宇宙から降りて来たコムザンを迎撃ミサイルで対処するしかなかった。もし失敗したらアントワープが吹っ飛んでいた。君の腕があってこそ町を守れたんだ。改めて感謝するよ」
「ありがとうございます」
「ところで君は日本人のようだが日本支部で何があったのか噂話でもいいか知らないか。真木支部長が失踪したそうだが」
「私は日本支部にいなかったので全く知りません」
零樺に教わった通りに鈴井は答えた。
「そうだったか。変な事を訊いてすまなかったな。スズイ……間違えた失礼、スズキ。明日から頼むよ」
鈴井は表情を変えずに「はい!」と敬礼をして部屋を出た。
(ふん、お見通しって事か)
鈴井はニヤリとした。
「この世界は君が思っている以上に黒く淀んでいるのだよ。臭いドブ川みたいにね」
高梨の言葉を思い出して鈴井は軽く鼻歌を歌いながら寮に戻った。
ベルギー支部基地にいる特務隊は鈴井と研究員のエディだけでお互いに顔を合わせる事は殆どなかった。
コムザンが同時に出現した時以外は鈴井の出動はなく、その間に整備士とベガロの調整やテスト飛行を行ったり特務隊としての仕事をこなしていた。
「おい、これを着けるのかよ」
ベガロに装着されたミサイルポッドを見て鈴井は驚いた。
「おう、追跡ミサイルだ。宇宙種は高速で降下して来るから通常弾では無理だからな。お前だっていつも当てられないだろ」
日焼けした中年の整備士が笑って答えた。
「そうだけどさ。よくも次から次へと新しい武器を作るよな」
「そりゃ、化け物から命を守る為だからな」
「化け物より人間が怖いと思う時の方が多いけどな」
「何だ、若いのに悟ったような事を言って」
「いや、別にただ思っただけだよ」
(本当に誰が敵かわからないな……)
鈴井は空を見上げて目を閉じた。スマホが鳴った。
「約束の時間か。整備を頼んだぞ」
鈴井は軽く右手を挙げて車に乗った。
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