紺碧の翼(4)
翌日の午後、鈴井が部屋で過ごしていると支部室へ来るように呼ばれた。
明日から四国の自衛隊基地で新型機のテスト飛行をする事になった。部屋に戻った鈴井は着替えをバッグに詰めて輸送機に乗って出かけた。
国内ではコムザンの遭遇に備え旅客機の運行は禁止されていた。鉄道は寸断されて目的地へ行くのに何度もバスを乗り継ぐ必要があった。車道も復旧工事が間に合わず交通が不便な状況だった。
鈴井が輸送機の窓から眺める地上の景色はまだ整然とした美しさを取り戻していなかった。
ひび割れた道や陥没した道、倒壊した高速道路や歪んだ鉄橋……動脈を切られたような都市の無残な姿と焼けた山肌がどこまでも続いた。
「沈黙の日の爪痕か……」
鈴井の脳裏に空に伸びた光線が崩れて降り注いだ光弾の雨の景色がよぎった。
光線が崩れ始めたのを町で見た鈴井は危険を感じて必死に走った。運よく逃げられて振り向くとそこは瓦礫と死体ばかりの地獄のような景色だった。
「嫌な事を思い出した」
鈴井は窓にもたれて目を閉じた。
夕方、自衛隊基地に着いた鈴井は手続きを済ませて用意された寮の部屋で休んだ。
翌日、新型機のテストが始まった。
「計器は聞いていた通りだな」
必要な計器のチェックを行い鈴井はエンジンをかけた。ゆっくりと振動が体に伝わって来た。
「発進!」
鈴井は操縦桿をゆっくり押した。機体がゆっくり進みスピードを上げて滑走路から離陸した。
「バランスはいいな」鈴井は計器を見ながら呟いた。
山岳地帯の上空で試験項目に沿って飛行し1時間程で基地に戻った。
その日は3回飛んで予定通りにテスト飛行を終えた。自衛隊基地には知り合いはおらず暇な時は一人で過ごした。国連軍の隊員という事で周囲の目は冷ややかだったが気にせずにテスト飛行を終えて日本支部の基地に帰った。
帰って来るなり次は東北でテスト飛行、次は近畿でテスト飛行、次は九州でテスト飛行と立て続けに出張しては新型機に乗った。
「そのうち俺は自衛隊に戻るのか。それも悪くないな」
テスト飛行漬けの毎日の中、鈴井は何度も思うようになった。
その予感は的中した。
3ヶ月後、自衛隊への新型機配備に伴い鈴井は四国の自衛隊基地へ異動する事になった。
異動の辞令があった夜、基地の食堂で送別会が開かれた。
鈴井の部下は全員中嶋の部隊が引き取る事になった。
「中嶋、みんなを頼むぞ」「ああ任せておけ、お前も元気でな」
鈴井は同僚や部下達と賑やかに過ごした。
翌日、鈴井は支部長室へ挨拶に行った。
「支部長、お世話になりました」
「ああ、君のおかげで新型機が自衛隊基地に配備される事になった。本当に感謝しているよ。元気でな」
真木が穏やかに微笑んだ。鈴井が「はい」と敬礼して部屋を出た。
輸送機で移動している途中、ゴンと外から音がした。
「鳥でもぶつかったのか」
鈴井は何気に窓を見た。
「わっ!」と思わず叫んだ。
機体の横で二頭の魔獣が飛んでいた。そのうちの一頭はコンラルだった。
「おい!」
鈴井は思わず叫んだ。
(輸送機を指定された場所へ着陸させろ。命令を聞かなければ撃墜する)
女の声が頭に響いた。
「くそっ、またこれか」
鈴井は外を見た。コンラルに女が乗っていた。
「この高度で寒くないのか」
的外れな事を呟いた自分に鈴井は「俺、何言っているんだ」と驚いた。
輸送機はゆっくり降下して封鎖されている空港に着陸した。機体のドアが開くなり煙が立ち込めた。
「また催涙ガスか!」
鈴井は咄嗟に鼻と口を手で押さえた。
「悪いな」
ガスマスクを着けたがっちりした体形の男が鈴井の腹を殴った。
鈴井はその場で気絶した。
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