紺碧の翼(1)

 紺碧の戦闘機が率いる部隊が雲の上を飛ぶ。

 「これより降下。攻撃態勢に移る」

 酸素マスク付きのヘルメットを被った男が指示をする。編隊は斜めに雲に飛び込んだ。

 降下した先には角を持った巨大なコムザンが町の中を暴れていた。

 「コムザン確認。攻撃を開始する。テトラス発射」

 男がスイッチを押す。戦闘機の右翼のミサイルを発射した。ミサイルがコムザンに命中すると爆発した。コムザンがひるんだ。他の戦闘機もミサイルを発射した。ミサイルは何度もコムザンに命中して爆発した。コムザンの体のあちこちに真っ赤な傷痕が残った。

 「とどめだ。ジュパーム発射!」紺碧の戦闘機が機体下部のミサイルを発射した。

 ミサイルがコムザンに着弾した。コムザンの全身から煙が上がってジュっと粒子レベルまで燃え尽きた。

 「任務完了。帰還する」

 男が無線で部隊に伝えて操縦桿をひねった。機体が90度旋回して彼方へ飛んで行った。

 戦闘機部隊が基地に着陸した。

 戦闘機からヘルメットを被った男が降りた。男は整備士に右手で合図してヘルメットを脱いだ。日焼けした目が鋭い男だ。

 「隊長。今回も良かったです」

 若い男が声をかけて来た。

 「ああ、いつもの手順だったからな。そして化け物みたいな武器のおかげだな。化け物には化け物兵器って事だが」

 男は笑って戦闘機を見て言った。

 沈黙の日から半年が過ぎた。

 あの時に発生した空間の裂け目に多くの魔獣使いが吸い込まれて以来、魔獣によるテロ活動は起きなくなった。あれからアメリカ軍が中心になりコムザンの細胞活動を鈍らせるミサイル兵器の《テトラス》、そして活動が鈍ったコムザンの細胞を分解する《ジュパーム》を開発した。

 その一方でアメリカ軍は回収したブレードガンを分析した。

 月に住むガンズはブレードガンの分析に協力しなかったので殆どわからないままだったが、武器に使われた物質に近い金属を地球上の資源で作り出す事が出来た。

 その金属は非常に軽い上に耐久性が高いので戦闘機などの兵器に使われた。これに追随するように軍事企業の兵器開発が活発化した。

 そして国連軍の対コムザン戦に特化した部隊が各国に設けられた。日本も自衛隊から独立した組織が作られた。

 「怪獣を倒す防衛軍なんて特撮物みたいだな」

 「それだといつも怪獣に効かない攻撃を食らわしてヒーローが出てくるまでの時間稼ぎの部隊ですよ」

 若い男の皮肉に男は大笑いした。

 「鈴井第2部隊長。1号会議室へ来て下さい」

 館内のスピーカーから女の声が響いた。

 「それじゃ行ってくるわ」

 隊長の鈴井隼人が部下に手を振って廊下を走って行った。

 鈴井が会議室に入ると次期戦闘機のテスト飛行の打ち合わせが始まっていた。飛行スケジュールと場所の詳細の説明が始まった。

 (俺達はモルモットだな)

 説明を聞く度に鈴井は思った。

 コムザン戦がない時は試作型の兵器のテストばかりだった。その仕事に鈴井は飽き飽きしていた。自衛隊から国連軍に移った鈴井にとって違和感をおぼえる毎日だった。毎日兵器のプログラム更新が行われては戦闘機に実装して何度かのテストを繰り返してコムザンの攻撃に使用する──まるで軍事企業のテストパイロットのような気分だった。

 説明が終わって会議を出た鈴井はスマホを見た。母親からの他愛無いメッセージだった。聖なる革命団の爆破テロで妻を失った鈴井を心配して母親から毎日のようにメッセージが送られていた。鈴井の母親は避難して地方の団地に住んでいた。

 聖獣ルベルジアによる無差別の光線攻撃で日本も各地で甚大な被害が発生した。

 家を焼かれて避難所での生活を強いられる国民が多数いた。テレビで流れるのは復興状況やコムザンに関するニュースばかりで明るい番組はテレビ局が自粛していた。SNSや掲示板の書き込みはテロ防止からデマ拡散防止へと目的が変わって禁止された。治安も悪く各地で犯罪が頻発、病院も負傷者の対応で追われていた。

 鈴井が施設の外に出ると町の方で消防車や救急車やパトカーのサイレンがあちこちで鳴り響いていた。それは毎日昼夜問わずに響く日常的な音となっていた。

 基地の隊員達はトラブルを避ける為に無用の外出は禁止されていた。基地の敷地内に飲食店やコンビニが設置されていたので最低限の生活をするには不便しなかった。 欲しい物は軍専属の業者に買ってきてもらった。

 「よお、相変わらず辛気臭い顔しているな」

 同期で第1部隊長の中嶋辰雄が話しかけて来た。

 鈴井は「ああ、お前もな」と答えた。

 「怪獣相手の戦いに疲れたのか」

 「そういう訳じゃないけどな。倒してもキリがないと思っているだけだ」

 「まあそういう仕事だからな。警察と一緒だよ。いくら捕まえても犯罪が減らないのと同じでさ」

 「それでも捕まえていけば抑止になるか。でもこんなに治安が悪くなって大変だろうな。何もかも失って自暴自棄になった奴がやらかすからな。この前もあっただろ、沈黙の日のせいで職を失った奴が無差別に殺して自殺した事件。強盗殺人なんて日常茶飯事だ。無法地帯になっている町もあるらしいし世の中が終わりに向かっている気分になるよ」

 「少なくともコムザンが完全にいなくなればいいけどな。希望はないが」

 「まあ考えても仕方ないか」鈴井は空を見上げた。

 基地のサイレンが鳴った。

 「俺の部隊の出撃か。行ってくるか」「おう、気負うなよ」

 鈴井は中嶋と別れて格納庫へ向かった。

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