魔獣(13)
それからしばらくディタンは改造したベギットゥで宇宙や地上のコムザンを退治した。たまにステルスモードを解除して戦うベギットゥを見て人々の間であれはアメリカ軍の兵器だと噂が広まっていたがアメリカ政府は否定した。各地に潜伏していたテロ組織は壊滅して国家間の緊張がほぐれて魔獣やテロで破壊された町は復興を始めた。
人々の緊張が緩んできたある日、空に無数の細い光の線が走った。
(集え同胞達よ!そして滅びよ!愚かな人間達よ)
レイリンの思念波が世界中の人々の脳内に響いた。人々はパニックに陥った。
空に伸びた光の線がバラバラに途切れて光弾となって地面に降り注いだ。
光弾は森林を燃やし大都市の建物を破壊した。そして魔獣達が各地で暴れ出した。
「派手にやってくれるな。あいつ本気で地球人を滅ぼす気だぜ」
ディタンはベギットゥのコクピットから司令室のガンズと話をした。
「あれが聖獣の力ですか。ディタン様でも倒せるかどうか」
「ああ難しいな。だがこちらも黙っている訳にいからないからな。行ってくる」
「はい。行ってらっしゃいませ」
ベギットゥがカプラディから発進した。
魔獣の群れに戦闘機が編隊を組んで攻撃を始めた。ミサイルが命中しても魔獣はびくともせず魔獣の口から吐く火球に戦闘機が次々と撃墜された。
「雑魚共はまとめて破壊してやる」
レイリンは目を閉じた。ルベルジアは口と両手から光線を発射した。戦闘機が爆発した。
「来たな」レイリンはニヤリとした。
ベギットゥが上空から魔獣の群れに突進した。すれ違い様に剣で魔獣の体を切り裂いた。数頭の魔獣が消滅した。ベギットゥの背中から青い光が輝いた。魔獣の火球をよけながら高速で魔獣達を切り裂いた。あっという間に魔獣の数が半減した。
(機体を強化したようだな)
レイリンが思念波で話しかけてきた。
「ああ、お前を倒す為にな」
ディタンは辺りを見渡しながら答えた。
(それならお望み通り戦ってやるよ。他の者は都市を攻撃しろ!)
「まあ雑魚共はあいつらが相手するけどな」
彼方から魔獣と戦闘機が一緒に飛んで来た。
「あいつらはお前らと違って穏やかに暮らしたいギミケルト人の末裔だ。お前らのせいで住む場所を追われたんだ。お前を倒せば普通の生活に戻れると国連があいつらに約束したよ」
(ふん。人間の約束など当てになるものか。些細な約束すら裏切るような人間にな)
「お前にどんな気持ちがあるか知らねえが、こっちも約束があるんでな。必ずお前を倒すぜ」
ディタンは操縦桿を握りしめてルベルジアに突撃した。
魔獣同士の戦いに戦闘機を交えて空では爆発音が鳴り響いた。
ベギットゥとルベルジアの目にも止まらない高速の戦いも激しく繰り広げられた。
ルベルジアの無数の光線を高速でよけながらベギットゥはブレードガンで火球を連射した。ルベルジアは火球を片手でなぎ払って光線を乱射した。光線が機体に命中してベギットゥはガタガタと揺れた。ブレードガンを腰に着けて剣を両手に持ったベギットゥは突進してルベルジアの首筋を切った。ルベルジアは大きく吠えてのけぞった。お互いに激しい攻防が続きベギットゥの機体はあちこちに陥没やひびが入りルベルジアも体中が傷だらけになった。
(仕方ない。君を倒す為に同化するぞ!)
目を閉じたレイリンの体が黒く輝いた。
「まずい」ディタンはレイリンに掌の火球を連射した。しかしレイリンの体の周りをよけるように火球は弾き飛ばされた。
レイリンの体がルベルジアの頭に入った。ルベルジアが大きく吠えて変貌した。それは禍々しい姿をした黒と青の悪魔のようだった。
ルベルジアは青い光の縁だけの翼を広げてベギットゥに襲い掛かった。ベギットゥはかろうじてよけた。ブレードガンを連射したがそれよりもルベルジアは早く飛んだ。ルベルジアの周りに黒い穴が開いた。ルベルジアが穴に光線を連射するとベギットゥの周りに穴が開き光線が降り注いだ。
「くぞっ!あの技かよ」
ディタンは上下左右から発射される光線をよけながら機体の損傷をチェックした。 画面にはダメージ表示が機体の各所に点滅した。
「こいつだけは倒さないといけねえな」
ディタンは深呼吸して目を閉じた。
ルベルジアの全身が輝き光線を乱射した。ベギットゥは胸部から光の壁を出して耐えたが付近の魔獣や戦闘機に命中した。応援に来た魔獣達がルベルジアに襲い掛かったがルベルジアの伸びた爪で続々と引き裂かれて消滅した。
「相手は俺だろう!」
ディタンは叫んだ。ベギットゥは高速でルベルジアにぶつかりブレードガンを肩に突き刺した。ルベルジアもベギットゥの頭を握って左右に振った。剣が青く輝きルベルジアの体から煙が上がった。ルベルジアがベギットゥの腹部を蹴った。蹴られた勢いでベギットゥが後ろに吹き飛ばされた。ルベルジアが肩に刺さったブレードガンを抜いて放り投げるとまた空間に穴を開け光線を乱射した。ベギットゥは光線をよけて左手の剣をルベルジアの喉に刺してすぐに抜いて目を抉るように刺した。ルベルジアが顔を押さえてひるんだ隙に青く輝いた剣で胸や腹をメッタ刺しにした。体中から黒い血を流したルベルジアがうなだれた。
咆哮と共にまた空間に無数の穴を開けて光線を発射した。各地に穴が開いて光線が降り注ぎ、都市や森が燃えた。光線を放ったルベルジアの体はボロボロに崩れていった。
「これで最期だ!」
ディタンは叫んだ。ベギットゥの剣がルベルジアの頭を貫いた。
(う、うわああああああ!)
レイリンの悲鳴と共に様々な映像が思念波となってディタンの脳に届いた。
「お前の過去か。まあそんな事だろうと思ったぜ」
(俺は死ぬ……世界と共に死んでいく)
かすれて消えるようなレイリンの思念波が途切れた。
「じゃあな」
ディタンはフッと微笑んだ。
剣から発した青白い光と共にルベルジアの頭がドーンと爆発した。首のないルベルジアの体がボロボロと砂と灰のように地面に降り注いだ。
ディタンはコックピットで荒く息を立ててシートにもたれた。
「やっと倒したな」
一息ついた瞬間、コックピットの計器のアラームが鳴った。
「な、何だ!」
ディタンは姿勢を戻して辺りを見渡した。
「あれは!」
モニターに映った光景にディタンは思わず叫んだ。
空に黒い亀裂が生まれた。
「ディタン様!空間の裂け目です。逃げて下さい」
ガンズの声がコックピットに響いた。
「くそっ!」ディタンは操縦桿を力強く押した。
ベギットゥが高速で飛ぼうとしたが、亀裂に吸い込む力が強くその場に留まるのが精一杯だった。周囲で戦っていた魔獣や戦闘機が一瞬で亀裂に吸い込まれた。
ベギットゥの背中の推進装置にひびが入った。
「早く飛べ!」ディタンは操縦桿を押した。
ベギットゥの背中が青く輝いてゆっくり前進した。
ドーン!
機体の背中で爆発が起きた。
「まずい!吸い込まれる!」
ディタンは叫んだ。
飛ぶ力を失ったベギットゥは何度も宙返りしながら空間の裂け目へ吸い込まれた。
空に出来た裂け目は数分で消えて辺りには先程までの戦いが嘘のように静けさが訪れた。
聖獣ルベルジアの光線で世界中が焼かれたこの日を人々は《沈黙の日》と呼んだ──
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