魔獣(12)

 翌日、ディタンはカプラディの格納庫でベギットゥの改造プランを端末に打ち込んでいた。

 「いかがですか」ガンズが話しかけた。

 「ああ、ルベルジアと戦うには光線に耐えられるように表面の強化と更に推進力が必要だな。武装の剣も強化しないといけない。防御力と武装と速さをどこまで伸ばせるかだな」

 「聖獣はギミケルト人の中でも限られた血筋の者が呼び出せる魔獣の上位種ですからね。手ごわい相手です。そういう者まで地球に飛ばされてくるとは地球とギミケルトの間で大規模な次元移動が起きたのでしょう」

 「なるほどな。そう考えたらギミケルトの末裔が沢山いるって事か。それとも覚醒しないまま世代を重ねて召喚能力が消えたのかも知れないな」

 ディタンは端末を操作しながら呟いた。

 「それにしてもレイリンは聖獣を持っていればテロなど行わずに自分で世界を束ねる王となっても良いのに何で人類を滅ぼす方向に考えるのでしょうな」

 「単に面倒臭いのだろ。魔獣より言う事を聞かない生き物を束ねるなんて馬鹿げているしな。俺だったら絶対嫌だぜ」

 「そういうもんですか」

 「ああ、そういうもんだよ。それにあいつの思念波に怒りを感じた。昔、どこかの星で思念で会話する連中がいたよ。そいつらが言うには思念で話す時は言葉以外に自分の心の底の感情が相手に伝わるんだってさ。あいつにも何かあったんだろう。まあ同情しないけどな」

 「俗に言う、拗らせ系って奴ですか。厄介ですな」

 「お前なあ。地球のネットに侵入して遊んでるんじゃねえよ。最近酷くなってねえか?」

 「いや、これも地球の文明の調査の一環でして……」

 「フラドルが怒っていたぞ。軍事衛星の電波を遊びに使うなってさ」

 「そうですか。気をつけます。あっそうそう。ロバート博士から燃料のサンプルがもう少し欲しいとの事でした。あとで持って行って頂けませんか」

 (こいつ人の話、ちゃんと聞いてねえのかよ)

 にこやかに答えるガンズにディタンはため息をついた。

 「ネットの友達か何か知らないがこれからはフラドルを通して頼むように言ってくれよ。無駄に地球の文明に介入したくないからな。よし、こんなもんか。ガンズ、これでいけるか見ておいてくれ。燃料のサンプルを持って来るから」

 ディタンは立ち上がって格納庫を出た。動力室に向かう途中で冬眠装置がある部屋に入った。

 「レクテ、いつまで眠っているんだ……」

 装置の小窓から青白いレクテの顔を覗いてディタンの表情が曇った。

 地球ではコムザンが各国で出現した。その姿は最初に現れた物よりいびつで足が5本あったり首が3本あったりと宇宙で現れている生物と形が変わっていた。

 「これらをどう思うかね」

 フラドルが会議室の端末を見ながら生物学者のシェリーに訊いた。

 「ディタンから提供された映像と比べても全く違いますし地球の環境に合わせて進化したと思われます」

 細身で金髪のシェリーは画面の映像を切り替えながら淡々と答えた。

 「彼からの情報もいつまで使えるかわからないな」

 「しかし通常の武器では通用しません。核で吹っ飛ばしたら消滅できるかも知れませんが周囲への被害が甚大ですから無理ですね。だからと言っていつまでも彼に頼るのもどうかと思いますが」

 「地球の文明に介入したくないという彼の言い分は通っているが彼に頼らざるを得ないのも現実だ。しかしこのままでいいとは思っていない。先日、革命団の魔獣の暴走が起きた時に彼が食い止めた。辺りに彼の武器の素材が残っていたそうだ。今はそれを研究所で分析している所だ。こそこそ隠れてやっているようで悪いがこちらも戦う為の武器が必要だから仕方ない」

 「そうですね。とりあえず今の話は聞かなかった事にしておきます。コムザンの細胞のサンプルを取り寄せて下さい」

 シェリーの感情のない言葉に「ああ、そのつもりだ」とフラドルは答えてスマホをポケットから取り出して電話した。


 「輸送機は遅くてだるいな……」

ベギットゥが改造中の為にディタンは小型輸送機シュルーフでアメリカ軍の基地に着陸した。滑走路でロバートが待っていた。

 「ちゃんと渡したぜ」

 「ありがとう。ガンズによろしく」

 ディタンはロバートにサンプルを渡すとシュルーフに乗った。

 「ヴァルシ散布」

 基地の上空でシュルーフの機体が透明になった。

 ディタンはそのまま日本へ向かった。

 「よお、爺さん元気か」

 いつもの挨拶で立ち寄ると「今はいないわよ」と女の声がした。

 「うん?」と庭を見ると未希が掃除していた。

 「おい、お前……何でいるんだよ」

 ディタンは驚いた。

 「仲間とはぐれてね。それとここに居たらあなたと会えるだろうと思ってお世話になっているの」

 「世話になっているって……爺さん、何考えているんだよ」

 「まあいいじゃない。楽しみましょうよ。終わり行く世界を」

 未希は微笑んだ。ディタンはため息をついた。

 「拗らせているな。レイリンはどうしているんだ」

 「連絡は来ないし何かやっているんじゃない。私にもわからないわ」

 二人が話していると佐仲が寺から出て来た。

 「何だ、長老も一緒かよ。逃げて来たのか」

 「いや、そうではないさ」

 佐仲は裕司の事を話した。

 「魔獣と同化ね……ガンズに言っとくか。じゃあ帰るな。お前らも余計な事をせずに大人しくするんだぞ」

 ディタンが寺を出てしばらく歩いていると克了と慈細がコンビニから出て来た。

 「よお、爺さん元気か」

 軽く挨拶を交わした後、未希と佐仲について立ち話をした。

 「魔獣を出さないなら泊ってもいい条件でな。今のところ大人しくしているよ」

 「ああいう連中だから気を付けろよ。じゃあな」

 二人と別れてディタンはシュルーフに戻って月へ帰った。

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