魔獣(8)

 魔獣の出現とテロの続発で世界中が緊張状態に陥った。テロだけでなく自暴自棄な人間による無差別殺人が起きたり悲観して自殺する人間も増えた。政治家がテレビで「テロには屈しない」と言っているが評論家は「この状況で屈しないと言えるのか」と非難しその模様を避難所で見る民衆の目は冷たかった。

 「こいつらは何をしてくれるんだ」と呟く老人、「革命団に降伏すれば助かるんじゃないの」と呟く若い女、「いつかはみんな死ぬんだよ」と冷めた口調で呟く若い男……避難所は虚しい呟きで溢れていた。外ではパトカーが巡回していた。

 「この世は終わりだ!みんな死ぬんだ!」と騒ぐ酔っ払いの集団を見て見ぬ振りをして背中を丸めて歩く人々……世界中で同じ景色がテレビやネットで流れていた。

 一方、聖なる革命団に降伏する国が現れ、それを非難する国との間で経済制裁などの対立が激化し緊張が高まっていた。

 「聖なる革命団は神か悪魔か?ありきたりな記事ばかりで飽きたわ」

 ノートパソコンでネットニュースを見ながら未希はため息をついた。

 「どうでもいいじゃないか。我々は神でも悪魔でもない。ただの人間だ。しかしそれを定義するのは我々じゃなく民衆だからな。我々がいくら自分の主義を声高に叫んでも全ての民に完全に伝える事は出来ない。決して全ての人間に賛同されない。我々に賛同しているテロ組織にしても単に聖なる革命団の名の下で暴れたい連中に過ぎないのだからな。本当に自分の主張を伝えて社会に抵抗したいなら決して我々に協力するような事はしない。利害一致などとビジネス用語を使って対等に振る舞おうとしたがる下衆な連中が我々の周りに沢山集まって来るんだ」

 レイリンは本を読みながら淡々と答えた。

 「あら、協力をしてくれる人達に随分と辛辣ね。彼らは私達の為に多くの人間を殺しているのよ。今さら綺麗事を通して逃げる気なの?」

 「相変わらず皮肉たっぷりだな。君と話す時は退屈しないで済むよ。私の周りはイエスマンばかりでつまらないからな」

 「皮肉を言っているつもりはないわ。村の仲間をあなた達に殺されて憎んでいる女と思ってもらっても構わないし」

 「それについて私はこれからも謝るつもりはない。抵抗する連中を殺しただけだ。憎んでもらっても構わない」

 「過ぎた事を話しても仕方ないわ。それでいつまで暴れるの?まあ戦争になれば面白いけどそんなの待ったとしてもいつ始まるかわからないわ」

 「次のステージまでもう少し時間がかかる。それが本当に終末への始まりだ」

 レイリンは本を読み終えて立ち上がった。

 「君はまたディタンと戦うのかね」

 「さあ、どうでもいいわ。勝てるかどうかわからない戦いに挑むなんて馬鹿げているから。私だって死にたくないし」

 「賢明な判断だ。私も楽しい話し相手を無駄死にさせたくないからな。彼は邪魔な存在だが我々の計画には大した障害にならない。引き続き情報収集を頼むよ」

 レイリンはそう言って部屋を出て行った。

 「頼りにされているのやら試されているのやら……」

 パソコンの電源を切って未希も部屋を出た。

 カプラディの格納庫でディタンとガンズは話をしていた。二人の目の前に銀色の武器が置かれていた。

 「ブレードガンねえ……格闘と射撃を同時に使えるは便利だが何だかなあ」

 「先のゼザーブル戦では苦戦していましたし足止めには必要かと。腰に装着できてヴァルシ散布時には消えます」

 「確かに地球であんなに足が速いやつがいるとは思わなかった。それにしてもこれは武器庫にあったのと何だか違うようだが」

 「地球のゲームの動画を見ていたら面白い形の武器を見かけたのでそれを参考に改造しました」

 ガンズがにこやかに答えた。

 「お前、俺がいない時にそんなの見ているのか」

 「地球の文明を調べるのも仕事ですからね。現実の文明は大した事ありませんが仮想的に創造された世界はなかなかですよ。ネットゲームで対戦する時は私でも興奮します」

 「ああそう……のめり込んで廃人とやらにならないようにな。取りあえず次にコムザンが現れたら試してみるよ」

 ディタンは呆れた顔でブレードガンを見た。

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