魔獣(6)
数日後、アメリカの砂漠でディタンはアメリカ政府の政治家達と会った。
透明なままのベギットゥから降りたディタンを見て政治家のグローガや周りにいた兵達が驚いた。
「化け物が出てくると思ったか」
「いや。あまりに人間らしいからな。失礼した」
「構わねえよ。国連は助けた。何を提供してくれるんだ」
「その前にこの男を殺してもらいたい。レイリン・マトス。聖なる革命団のリーダーだ」
グローガ―はレイリンの写真を差し出した。
「何だよ。やっぱり嘘だったのか」
ディタンは半笑いになった。
「いや。我々に出来る事は約束しよう」
「ふん。お断りだね。ただ俺達を利用したいだけだろ」
「そう思うのは勝手だ。だが君には自分がやった責任を果たしてもらいたい。ついでにこいつも殺してもらいたい」
グローガはもう一枚の写真を出した。
「こいつは!」
「ミキ・センザ。君が助けた女だ。今はレイリンと共に行動している」
「どうしてあいつが……って訊くのはやめとくか。地球人の行動は理解できないからな。しかし責任とは大きく出たな。俺が助けなかったら黒い魔獣が町中を暴れて死人がもっと出ただろう」
「しかし君が彼女を連れ回して各地で魔獣を召喚したせいで聖なる革命団を刺激して蜂起させた。こうしている間も各地で革命団を名乗る者達がテロを起こして沢山の人間が死んでいる。間接的に君も手を貸したのだぞ」
「はあ?俺に喧嘩売っているのか。馬鹿馬鹿しい!帰るぜ」
「帰れると思うのか」
グローガの周りの兵士が銃を向けた。
「撃ってみなよ。ヴァルシ解除」
ディタンの前に大きな手が現れた。そして前かがみになったベギットゥが姿を現した。その姿に兵士達はひるんだ。
「これが君の機体かね」
「ああそうだ。交渉決裂だな。じゃあな」
ディタンはベギットゥに乗って飛び立った。
「ディタン様。ロシア政府から接触の要請が来ましたが」
ベギットゥが大気圏を出た時、ガンズが交信してきた。
「無視しとけよ。アメリカとの交渉は決裂した。このタイミングだと他の国にも俺達が交渉した事は漏れているな。全部無視だ」
ディタンがガンズに答えているとレーダーに何かが反応した。ベギットゥが宇宙空間で立ち止まった。
ベギットゥの左側の遠方でコムザンが突入して燃え尽きようとしていた。
「あいつらが地球に降りるのも時間の問題だな」
ディタンは無表情に呟いて月へ向かった。
世界各地でテロ活動が頻発した。
聖なる革命団に同調したテロ組織による爆破事件や革命団の魔獣による襲撃で多くの死傷者が出た。各国の警察や軍による鎮圧活動は限界を超え民衆は政府に対する不満を募らせて革命団への降伏を呼びかけるデモや暴動が起きた。
「今日は日本でも爆破テロが起きたようです」
「ああそう」カプラディの司令室でディタンは軽くガンズに答えた。
「それとディタン様と交渉したグローガ議員の死体が見つかったそうです。死因は不明との事です」
「ああ、あいつね。態度が悪いから敵が沢山いたんじゃねえの。そいつの事より仙座の行方はわからないのか」
「残念ながら不明です。多分レイリンと一緒に隠れているのでしょう」
「グローガの言い方はむかついたが俺があいつに手を貸して事を大きくしたのは事実だ。あいつを始末する事だけはやっておきたい」
「各地の魔獣を倒してあぶり出しますか?」
「非効率なやり方だな。まあ地味にやってみるか。コムザンの反応が出た。行ってくる」
ディタンは格納庫へ向かいベギットゥに乗った。
ベギットゥがカプラディから発進した。月から離れた宇宙空間に角が生えたコムザンが飛んでいた。ベギットゥがコムザンを剣で貫いた。剣が青く輝いてコムザンが消滅した。そのままベギットゥは地球へ高速で飛んだ。
ロンドンの時計塔で獅子の頭の巨大で黒い魔獣がしがみついて周囲に火を吐いていた。
魔獣が空を見上げた。その瞬間、透明なベギットゥが魔獣を縦に真っ二つに切り裂いた。魔獣の体が塵になって消えた。
ディタンは周辺の国で暴れる魔獣も倒して月へ帰った。
「いきなり現れたわ。何が目的なの?」
未希はパソコンを見ながら呟いた。
「見たところ国連本部の時と違って単独行動のようだ。真意はわからないが必要なら君にも出てもらうよ」
「わかったわ。戦果は期待しないでね」
未希はレイリンに答えて部屋を出た。
「未希、本当にこれでいいのか」
外で待っていた佐仲は暗い表情で訊いた。
「いいのよ。あのままだと私達は日本政府に実験動物みたいな扱いをされていた。ここの連中に仲間を殺された恨みはあるけどそんな生活を送るより遥かにマシだからね」
「しかしこんな戦いをやっても何の意味もないぞ。私は穏やかに暮らしたいだけだ」
「その穏やかな暮らしはもう出来ないのよ。私達の周りが変わってしまった。周りが変わった以上、今のままという訳にはいかないわ。ところであの子はどうなの」
未希の口調が少し強くなった。
「相変わらず眠ったままだ。突発的にかなりの精神力を使って脳神経に損傷を受けたようだ。下手すると植物人間になるかもしれない。ここの医者の診断だ」
「そう。まあ彼の両親はあの時に死んだからね。目覚めて後悔するよりは眠ったまま死んだ方がいいかもね」
「未希……お前変わったな。今までの暮らしに不満だったのか。私のせいなのか」
佐仲は更に沈痛な表情に変わった。
「違うわ。さっき言った通り周りが変わったからよ」
未希は軽く答えて廊下を歩いて行った。
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