魔獣(3)

 「へえ、強そうな化け物だな。何だあれ?」

  月のカプラディで大型モニターを見ながらディタンがガンズに訊いた。

 「《ラウトラ》です。《ギミケルト星》の魔獣で一部の民族が特殊な能力で召喚していたようですな。まさか地球にいたとは」

 「ギミケルト?その星の奴が呼び出したのか」

 「或いはギミケルト人の血を受け継ぐ地球人かも知れません。我々が地球人を祖先に持っていますからその逆もあり得るでしょう」

 「まあ地球の事なんかどうでもいいわ。こっちに来たら俺が倒すしな。怪獣映画は趣味じゃないから寝るわ。じゃあ」

 ディタンがあくびをしながら部屋を出た時、

 「あれは!」

 ガンズの叫び声にディタンが「うん?」と戻ってきた。

 「まず、この忌まわしい学校を潰す。やれ!」

 裕司が学校を指差すとラウトラが飛んで来た。生徒や教師達は急いで運動場へ逃げた。

 ラウトラが3階建ての校舎をあっという間に粉砕した。

 「何でこんな酷い事をするんだ!」

 運動場に逃げる途中の生徒が叫んだ。裕司が睨んだ。

 「酷い?お前達が俺にした事と大して変わらないぞ。ラウトラ、この町も破壊しろ!俺の惨めな思い出しかない町なんて全てぶっ壊せ」

 裕司が叫ぶとラウトラの背中から棘が伸びて稲妻のような光を発射した。

 稲妻が地面を走り町中に炎が上がった。

 「いやあああ!」「母さん!」「やめて!」

 運動場に避難した生徒達が悲鳴を上げた。黒煙が上り赤く町が燃える景色に失神する者もいた。裕司は生徒達を見下ろした。

 「見ろよ。みんな焼け死んでいく町を。お前らのせいでな!俺を目覚めさせなかったら死ぬ事なかったのになあ……自業自得さ!ハハハハハ!うん?」

 高笑いした裕司が再び開いた黒い穴を睨みついた。

 穴から白い魔獣が現れた。

 「あれは《ゼザーブル》か。まさかこの星にいたとはな」

 裕司の表情が硬くなった。

 ラウトラが立つ場所から程遠いビルの屋上に若い女が立っていた。

 女はゆっくり目を閉じてゼザーブルに念じた。

 ゼザーブルがラウトラに体当たりをした。宙に浮いたラウトラが姿勢を崩してうつぶせに地面に落ちた。

 「このやろう!」

 裕司はラウトラの近くへ飛んだ。裕司の体の周りに黒い炎が燃え上がった。

 ラウトラの稲妻の攻撃をゼザーブルは素早くかわしながら一撃離脱を繰り返した。

 二頭の魔獣がぶつかる度に付近にドンドンと鈍い音を立ち奇怪な鳴き声が響いた。

 「パワーじゃ向こうが上か……弱点を探るしかない」

 細面の女は目を閉じたまま呟いた。

 「それに……」

 女はゆっくり目を開けて振り返った。

 (そこのあなた、何か御用ですか)

 ディタンが「バレたか。まあいいや」と笑って答えた。

女が立つビルの後ろに透明なベギットゥが立っていた。

 「思念波を使うのか。手伝おうか」

 コックピットに座ったディタンが話しかけた。

 (いえ、同族の過ちは私が解決しますから)

 「そうかい。済んだら聞きたい事があるんだ。しばらく怪獣ショーを見物させてもらうよ」

 女は「ご勝手に」と無表情で答えて前を向いて目を閉じた。

 ゼザーブルがラウトラの頭を蹴った。ラウトラがのけぞった隙にゼザーブルが頭を掴み地面に押さえつけた。その震動で周りの建物がグシャリと潰れた。

 「くそっ!強いなこいつ」

 劣勢な戦いに裕司は焦った。

 (もうやめなさい!)

 女の声が裕司の脳に響いた。

 「同族か。何でやめる必要があるんだよ。俺を苦しめた奴らなんか死ねばいいんだよ」

 ラウトラがゼザーブルを蹴飛ばして立ち上がって口から真っ赤な火球を立て続けに吐いた。町のあちこちで爆発と共に炎が上がった。

 「おうおう、派手にやりやがるなあ。この町を焼き尽くす気か」

 (召喚する力に目覚めたばかりなのに何て凶暴な……)

 女の戸惑う声がディタンの頭に聞こえた。

 「仕方ねえな。早いところあんたから話を聞きたいんだ。悪いがカタをつけさせてもらうぜ」

 (ちょっと待ちなさい!)

 女の言葉を聞かずにディタンはベギットゥを操縦して突進した。

 「一瞬で決める!」

 高速で飛びながらベギットゥは両手から剣を伸ばしてラウトラの体を斬りつけた。

 「うわっ!な、何だ!」

 裕司は透明なベキットゥが起こす突風に吹き飛ばされそうになった。

 「お前が魔獣使いか!」

 ディタンはベギットゥの手で裕司を強く掴んだ。

 「ギャアアア!」

 握られたショックで裕司は気絶した。その途端、ラウトラは力が抜けたように消えた。ゼザーブルもスーッと薄く消えた。

 (その人を連れて来て下さい)

 ディタンの脳に女の言葉が響いた。

 「了解だ」ディタンはベギットゥを反転させた。

 郊外の森でベギットゥを降りたディタンは女と会った。

 裕司は紫の顔のまま気絶したままだった。

 女は裕司の頭を優しく撫でた。

 「今すぐ治療しないと!ここではゆっくり話が出来ないので場所を移しましょう。案内します」

 ディタンは女と裕司をコックピットに乗せて飛び立った。

 「あんた、名前は?」

 「私は仙座未希」

 未希は肩まである髪をさっとかき分けた。

 「俺はディタン。見ての通り地球人じゃないけどな」

 「こんな物に乗っているからそうでしょうね」

 ディタンの後ろで周りを見ながら未希は冷静に答えた。たまに苦しそうに呻く裕司の頭を未希は優しく撫でた。

 「全然驚かないんだな。まあそっちも魔獣を操る異星人の末裔だからお互い様か」

 ディタンの言葉に未希の冷めた目つきが驚きを表すように一瞬だけ見開いた。

 「私の祖先は異星人だったのですか……初めて知りました。魔獣を呼び出す能力がある一族で普通の人と違っているのはわかっていましたが、納得できそうです」

 「随分物分かりがいいな。その様子だとあんたは何も知らなそうだ。誰か魔獣使いについてわかっている奴を教えて欲しい」

 「取りあえず長老に会って話を聞かれてみてはどうですか。案内します」

 「ああ、助かる」

 ベギットゥは透明な姿のまま方向を変えた。

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