第12話 宙域訓練(2)
強烈なダウンフォースを体に感じながらラインから射出されると僕達のアトラスⅢ型は、軌道に乗った。
「カレン、ミコト。タイプAだ」
ヘルメットに中に入って来る河井大尉の声に
「「はい」」
いつもの様に二人でハーモニーをするように答えると、直ぐにシンクロモードに入った。
「ミコト、右舷」
一瞬で、ダミーに自機の底部移動した一メートル粒子砲を発射すると左舷上方に遷移した。
「カレン、上」
後部上方にそれぞれ二機のアトラスⅢ型が離れるように遷移すると二人が今いた場所に、二機よりも太緑色の荷電粒子の束が過ぎ去り、二機を眩く照らした。
二人は双方にカレンは右舷上方に回転し、ミコトは左舷上方に回転しながらお互いの機の背を合わせると荷電粒子を発射した。
カレンは、ヘッドディスプレイに映る大き目の赤い光点が黄色に変わると左に回転しながら射線を外さずに
「ミコト二連射」
二機の荷電粒子砲から一度放たれた荷電粒子が黄色い光点に届く前に再度荷電粒子を発射した。
カレンは、黄色い光点が完全に消えると
「ミコト、左舷レーダー展開全方位」
そう言って次の目標を探した
「信じられない。何ということだ」
「私も始めは下からの情報をマユツバ程度にしか思っていなかったのですが、これほどとは」
「とんでもない子達だ」
多元スペクトルスコープビジョン、通称スコープビジョンに映る拡大映像を見ながら、航宙軍士官学校の長官のヘラルド・ウォッカーとルイス・アッテンボロー航宙軍航宙戦闘機部隊大佐そして河井大尉は三人で唸った。
その三人の後ろでサングラスの小郡航宙軍開発センター長は口を曲げて声を出さずに笑った。
「ミコト、ミッションコンプリート。ラインに帰るわよ」
「了解」
二人は、ヘッドアップディスプレイでは、遠くに映る航宙母艦を視認するとシンクロモードを解いて並んで航宙した。
航宙母艦ラインの下まで行くと
「ライン、カレン准尉、着艦します」
「ライン、ミコト准尉、着艦します」
本来、自分の苗字を言うが、双子なので名前で言っている。まだ、機体の名前とタックネームは付いていない。
ラインの下まで来ると誘導ビームが二人のアトラスⅢ型を包んだ。やがてラインのU字型の航宙戦闘機射出口まだ入るとランチャーロックが伸びてきてアトラスⅢ型を掴んだ。
カレンは、足元にショックを感じると、アトラスⅢ型格納庫の底部がスライドして閉まる音を聞いた。
ヘッドアップディスプレイが真白になるとカレンの頭の上のカバーが開かれ整備員が、パイロットスーツの二箇所にあるインジェクションからケーブルを外すとカレンも自分のヘルメットについているインジェクションからケーブルを外した。
「ふーっ」
ため息を出しながらミコトの乗機の格納庫を見るとミコトが同じ様にため息をついていた。
ミコトはカレンが、アトラスから降機するのを見届けると自分も降りた。
「カレン、まあまあだったな」
「うん、もっと素早く遷移しないと上からの攻撃にあんなことしていてはだめよね」
「うん、僕もそう思う。思考パターンに遅れがあったんだ。もっと実地教練を積まないと」
二人が航宙戦闘機射出庫から出てパイロットウエイティングルームに行く途中で話していると、前から来る乗員が感心した顔で見ながら通り過ぎていく。
ほんの少し前までは、なにかおもしろいものでも見るような好奇の目が、今は感心の眼差しに変わってきている。
ラインでの実機教練を始めてから二ヶ月。軍事衛星アルテミスでの生活にも慣れてきたところだった。
パイロットウエイティングルームに戻ると司令官フロアから戻った河井大尉が、
「青山ツインズ。すばらしかったぞ」
とお世辞でない顔をして言うと
「いえ、まだ動きが遅いです。上からの攻撃にあんな遷移をするようでは、実戦では使えないかと。思考パターンがあの時、単調だったのではと二人で反省しているところです」
他のトップパイロットでは、あれさえも出来ない。河井は呆れた思いを感じながら、
「分った。実機教練に励むことは良い事だ。乗機レポートを出したら、休憩に入ってくれ」
「「はい」」
二人でハーモニーする様な返事に慣れたとはいえ、この二人のシンクロと身体能力は他のパイロットの追随を許さないな。
フレイシア航宙軍航宙戦闘機部隊創立以来の逸材だ。上がどう出るのかそう思いながら自身も訓練の為に航宙戦闘機射出庫に向った。
航宙軍は、僕達が同じパイロットスーツを着ると胸以外は全く判別つかないため、特注で二人の准尉の徽章の隣にKaren・AとMikoto・Aとパッチを付けている。
二人は、ラインの中級士官用休憩エリアに入り左奥にあるカウンターから紙パックに入ったスカッシュ・オレンジを取ると空いているテーブルに座った。
「カレン、さっき上からの攻撃に対して二人が一度シンクロを解いただろう。もし、他に敵機がいたらシンクロに戻ることが出来なかった。
あの時僕の脳波は、一瞬だけど解いてもう一度シンクロを望んだ。カレンからもそれを感じ取った。でもあれはそういう意味ではミスだよね」
そう言ってカレンの顔をみると
「私も同じ、シンクロを解いた後、直ぐに背面スクロールで戻したけど」
「僕たちは、航宙駆逐艦からの攻撃に対して自分達が隙間を作り、その間に荷電粒子の束を通らせた後、背面展開で近づいてシンクロにした。でも、あれは敵に 撃って下さいと言っているようなものだ」
「上方からのエネルギー波の感知をもっと早くする訓練をしないといけない」
「そうだね」
二人が実機訓練の反省をしている頃
「きゃー」
目の前に放たれた緑色の荷電粒子の束が通り過ぎるとサキは悲鳴を上げながら左下方に遷移した。
「サキ、そっちはダメだ」
レイの乗るアトラスⅡ型がサキの機がインサイトされる前に荷電粒子を放った。ヘッドディスプレイに映る赤い光点が消えるとレイはサキの機に近づいて
「サキ、大丈夫か」
レイはサキの機に損傷が無いことを確認すると
「サキ、右上方」
サキが冷静になって、言われた方向に遷移すると大きめの赤い光点が右から左に動きながら荷電粒子の束を発射した。
「サキ、いまだ」
レイの言葉に自機の荷電粒子砲を発射すると同時に右上方に更に遷移して左舷方向に機を向けると大きめの赤い光点が黄色くなっていた。
「サキ止め。二連射」
二人のアトラスⅡ型から一度発射された荷電粒子の束が消える前に二度目の発射が行われた。ヘッドディスプレイに映る黄色い光点が完全に消えるとレイは
「サキ、ミッションコンプリート」
そう言って口許で微笑んだ。
二人は、航宙母艦ネレイドの艦低部に来ると誘導ビーム照射され、それぞれの機が航宙母艦に吸い込まれた。
アトラスⅡ型から降りると二人は、右手を上に上げてハイタッチするとにこっと笑った。
「やったな。サキ」
「うん、やった。だいぶ息が合ってきた。もっと頑張ろう」
そう言ってまた笑うと肩を並べて航宙戦闘機射出庫から出てパイロットウエイティングルームへ向かった。
二人が中に入ると教官が二人を呼んで
「良くやった。しかし安西の方はちょっとギリだったな。二人とも自分の戦闘をリプレイして良く反省するように」
優しい目で二人を見ると微笑んだ。
サキとレイが自分達の教練映像を見るとサキが自機の前方に荷電粒子を放たれそのまま左舷下方に遷移していたら間違いなく撃墜されていた。
レイが声を掛けて右上方に遷移したから助かっていたのが、映像を見て分った。
「う~ん」声を出してへこんでいるサキに
「大丈夫だよ。これからもずっとカバーするから」
そう言って慰めようとするレイに
「全然ダメだ」
サキはそう言ってパイロットウエイティングルームを出て中級士官食堂へ向かった。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
ここは面白くないとか、ここはこうした方が良いとかのご指摘も待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます