第11話 宙域訓練(1)
久山さんに案内されて到着ロビーで自分たちのケースを受け取った僕達は自走エアカーの後部座席に乗ると久山さんは、前部座席に乗ってパネルに行先をインプットした。
「2人とも、これから行くところは、他の候補生と違って航宙軍上級士官の官舎よ。貴方たちの為に特別に用意してもらったの。気に入ってくれると嬉しいわ」
僕達が言葉も言えないままに驚いていると
「どうしたの。嬉しくないの」
「いえ、どうして僕たちだけが地上に居たときから特別扱いされるのか分らなくて。ここに来ても他の候補生とは違うようだし」
二人が困惑した顔を見せていると
「ふふっ、君たちが一番知っているのかと思ったわ。少し考えれば分る事でしょう。座学の時もそうだけど、君たちは他の候補生と違いすぎる。
出来が良すぎると言った方が良いかしら。シミュレーションにしても他の候補生とはレベルが違いすぎる。
そんな君たちが彼らと一緒に教練したら、彼らは困るし、君たちはストレスが溜まるだけよ」
一呼吸おくと
「君たちはフレイシア航宙軍の未来の夢かもしれない。だから期待に応えて」
そう言って後ろを振返って微笑んだ。
僕達は意味が分らないまま、とりあえず変な扱いではないということが分ると
「今後はどうなるのですか」
「私も教練内容は詳しく教えられていない。私は君たちの生活面や体のケアをするのが仕事。
だから君たちのおかげで私の宿舎も上級士官エリアよ。そう言う意味では君たちに感謝ね」
軍事衛星アルテミスは、宙港の内側直径六キロの外周を結ぶ外環とそれをさらに十字に横切るストリートとアベニュー、更に外周の内側四キロと二キロに円周状に道路がある。
そしてストリートとアベニューの間を中心部に対して通る道路が有った。
これが、第一層から第六層迄同じ様に出来ている。それぞれの艦の乗員が、それぞれの層で生活するためだ。もちろん各層の間は、エレベータの他、角度を緩めた斜め方向に螺旋状に通る道路がある。
第六層より下はエネルギープラントだ。もっとも一層あたり二〇〇メートルの高さがあり、層の厚さは五〇メートルあるので住んでいる人には圧迫感はない。
僕達の乗ったエアカーは、一度一番外側の外周に乗るとA1と書かれたマークのあるストリートに入った。そして二〇〇メートル位入ると止まった。少し足元にショックを受けるとドアが開いた。
「さあ着いたわ。貴方たちの官舎は、その二つ目の航宙軍宿泊用ビルの五階の二号室よ。結構広いから大丈夫だわ」
そう言って、久山さんが微笑んだので僕達もエアカーを降りた。
荷物の入ったケースをエアカーから取り出すとそのビルに向って歩いた。
中に入ろうとすると大佐の襟章をつけた人が出てきたので僕達は急いでケースを置いて敬礼するとその男は立止って答礼して
「君たちが青山姉弟か。なるほどそっくりだ。それに中々の美人だな。いや失礼。ミコト君には悪かった。ところでどちらがミコト君」
二人は滑りそうになりながら顔を見合わせると
「僕です」
航宙軍の服を着ていて分るはずなのにと思いながら男を見ていると
「私は、フレイシア航宙軍航宙戦闘機部隊所属ルイス・アッテンボロー大佐だ。宜しく」
緊張した面持ちで男を見ると男が入口を出るまで直立していた。
いきなりの出会いに驚きながら、自分たちの部屋に行くと
「へーっ、さすがに広いや」
「うん、これならゆっくりと出来る」
「カレン、遊びに来た訳じゃないんだけど」
「そうね。でも二部屋もあるよ。それにダイニングとキッチンもあるし、バスもついている。凄いよ」
「どうも、独身用の部屋見たいだね」
「そうだね」
そう言って二人は、部屋を決めるとそれぞれの荷物を片付けた。
「ところで、食事どうするのかな」
素朴な疑問を投げるミコトに
「自分たちで作れとか」
「まさかー」
荷物が片付いた後、冷蔵庫に既に用意されていたジュースを飲んでいると
ドアのブザーが鳴った。
二人は誰だろうと思って壁に着いている玄関のカメラからを見ると久山さんが普段着姿で立っていた。ドアを開けると
「二人とも色々案内するから、出かける仕度をして」
自走エアカーに乗りながら
「君たちは、三ヶ月間のアトラスⅢ型の実機教練が終了した後、航宙軍士官学校の仕組みから外れて、フレイシア航宙軍の准尉として訓練に励んでもらいます。もちろん、身分はまだ候補生だけど。理由は分るわよね」
2人が分らないという顔をすると久山は仕方ないという顔で
「通常、君たちがここ三ヶ月でこなしてしまった課程は、一般の候補生では1年かけて行うものなのよ。
ましてアトラスⅢ型のシンクロモードは現役に航宙軍航宙戦闘機乗りでもほんの一部の優秀なパイロットだけが出来る操縦。
つまり君たちは、本来二年間でこなすメニューを六ヶ月で終わってしまうという事。
但し、それでは規定に合わないのでこれから三ヶ月のアトラスⅢ型による実機訓練のあと残り三ヶ月を航宙軍の中で磨いてもらう訳。
あとの一年をどうするかは上層部が決める」
私は言って二人を見ると二人とも目を丸くして驚いた顔をしている。本当に自分達の凄さ分っていないのね。
「まあ、いいわ。とにかく君たちは、教練に励んで」
結局、三時間かけて軍事基地内部、商用エリア、ミドリプラント、倉庫エリアそして食事の出来るところ案内されて食事して帰って来た。
教練中は軍事基地内で食事も出来るし、普段必要な買い物は基地内で出来る。しかし軍事衛星に住む以上一通りのことは知っておいたほうが良いということで久山さんが案内してくれたのだ。
久山さんは、二人の宿舎があるビルまで送っていくと
「当面の間、私が君たちを迎えに来る。航宙軍基地内への通行は君たちのIDでは出来ないから」
二人をエアカーから降ろすと
「また、明日ね。八時には、迎えに来ますからビルの入口にいて」
「カレン、明日から実機教練が始まる。楽しみだ」
「うん」
と言うとそれぞれの部屋に分かれた。
「これが、航宙母艦」
口を開けそうになりながら見ていた。
航宙母艦ライン・・全長六〇〇メートル、全幅一五〇メートル、全高八〇メートル、前部両弦に一〇メートル粒子砲四門、側部両弦に自衛用パルスレーザー砲二〇門、アンチミサイル発射管二四門を備え、後部両脇に核融合エンジン四基を搭載している。また一隻当り艦載機アトラスを二一〇機、常用一九二機、補用一八機を搭載する航宙空母である。
後部両脇に核融合エンジンの内側が少し上に窪んだ底の広い逆U形をしていてアトラスの発着ポートが横に八個一〇メートル間隔で並んでいる。縦には一二機分ずつ並んでいる。
軍事衛星の第一層宙港に整然と並ぶ巨大な航宙母艦をゲートの外側で見ていた二人に後ろから
「着たね。着いて来なさい」
フレイシア航宙軍航宙戦闘機部隊のユウイチ河井大尉は、そう言うと二人の前に立って歩き始めた。僕達は顔を見合わせると河井大尉に付き添った。
航宙母艦の右にある自動レーンに乗ると二分の一ほど行ったところでエスカレータに乗り換える。
エスカレータを降りるといよいよ航宙母艦の中に入り、更に右に少し行ったところでエレベータの前に来ると河井大尉は、二人を見てから自分のIDをかざした。
「君たちのIDも既に登録されている。明日からは自分達でパイロットウエイティングルームに来るように」そう言って二人を見ると
「しかし、フレイシア航宙軍始まって以来の出来事だよ。まさか一九才の若さでこのラインに乗るとは」
どういう事という顔をする二人に河井は
「この航宙母艦は、僚艦のマザーテイル、トロイと合わせて、我航宙軍の中でもトップレベルのパイロットだけが乗れる航宙母艦だ。装備が他の母艦と違う。直ぐに覚えるだろう」
河井は、パイロットウエイティングルームに二人を案内すると、あらかじめ聞いてはいたが、中に居たパイロットたちが目を丸くした。
「参ったな。噂以上だ」
「うーん、可愛い。いてー」
「私も女よ。でも可愛い」
「本当にアトラスⅢ型でシンクロしたのかよ。信じられない」
河井の同僚の男や女のパイロットが疑心暗鬼で言っていると河井は
「これから三ヶ月みんなと一緒の訓練に入る。宜しく頼む」
そう言って二人を紹介した。
僕達は特に座る場所が決まっている様子ではない事を理解するとテーブルと座席が空いている端の方に座った。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
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ここは面白くないとか、ここはこうした方が良いとかのご指摘も待っています。
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