第13話 宙域訓練(3)


「レイ、お願いがある」

 サキが下に顔を向けて少し黙っている。僕は何だろうという顔をしながらサキを見ていると


「今日、一緒にいてほしい」

「サキ」


彼女はゆっくりと顔を上げて少しだけ目元を潤ませながら僕の顔を見た。

「レイ」


ほんの少しの一瞬を過しながら僕は頷いた。


私はゆっくりと目の前にいる彼の手の上に少しだけ手を添えた。




 カレンとミコト以外の候補生は、一般の宿舎を割当てられていた。地上と違って男性用、女性用といった建物別の違いがない。軍事衛星だから仕方ないことだが。


 レイとサキは実機教練が終了した後、基地内では無く商用区にあるレストランで食事をしていた。


「私、レイのパートナーとしてやって行けるのかな。貴方の足を引っ張っているだけのような気がする。今日だって」


「うまく言えないけど、サキ、パートナーって二人で一つになるからうまくやれるんじゃないか。

 サキ、もし僕が厳しい状況に陥った時、君はどうする。見ているだけじゃないだろう。身を挺して僕を助けようとするんじゃないか」


「レイ、ありがとう」

サキはレイの目を見るとすがるような目をした。


「レイ、二人で一人になってくれる。今日」

「えっ」


…………。



 僕は航宙軍士官学校に入る時、首都星ランクルトの宙港に行く時見送ってくれた人の顔が浮んだ。それだけにサキの言葉に心が揺らいだ。


「サキ」

僕は、サキの下を向いている顔の頬に手のひらをあてると


「レイ、行こう」

サキの言葉にレイは、テーブルを離れた。





「ミコト」

それだけ言うと思考だけに集中した。


 カレンは展開して背面になるとミコトの機体の上部に移動した。まるで背中合わせの二機が一つになって瞬時に左に遷移した。

その瞬間二人の機の右側に太い緑色の光が過ぎ去った。


「カレン」

二人のアトラスの底部にある一機二門の荷電粒子砲、四門が放たれた。

更に右上方に遷移すると


「ミコト二連射」

底部から瞬間の音を感じると更に二射目が発射された。

やがて、大型の赤い光点が黄色に変わると


「ミコト、全方位レーダー展開、接近後、三連射」


 二人が乗機するアトラスⅢ型が、自分達の体の一部のように動くと、瞬時に黄色に変わった光点に三万キロまで近づくと


「ミコト」


 瞬間、二人の底部に有る荷電粒子砲から拡散型荷電粒子砲が発射された。

ダミーの重巡航艦が左舷に大穴を開けられると苦しむようにもだえながら艦前部と後部が真っ二つに割れた。


「ミコト、ミッションコンプリート」

「うん」


大きく右上方に展開しながら僕は今まで感じたことの無い何かを感じた。



「カレン来る!」

瞬間最大のモードでミコトは背面に遷移した。カレンは体がシートに押し付けられる様に足元へ引っ張られると、直後背中に信じられないショックを感じた。


「カレン!」


 ミコトは、カレンの機体上部に受けた衝撃を流すように自分の機に近づけさせると上部にある赤い光点を自分の憎しみに近い感情で荷電粒子を発射させた。


 カレンの機からも発射されている。更に強引なまでに近づくと荷電粒子砲を三連射。完全に二つに別れた艦を正面から蒸発させるまでに打ち据えた。


「ミコト准尉。止めなさい」


 河井の声はミコトには聞こえなかった。完全に重巡航艦がチリとなるまで消し去ると


「カレン!」

シンクロを解いてカレンの機の背中に回った。


 実戦であれば完全にカレンの機体は縦割りの状態で削り取られていただろう。真白になったカレンのアトラスⅢ型を見ながら


「カレン、大丈夫か?」


少しの沈黙の後



「大丈夫、ちょっと油断した」

「体は?」

「うん、少しショック受けたけど大丈夫」

「カレン、ラインに帰還する」




 ミコトは、ラインに着艦すると整備員のインジェクタクションのホースを抜くのももどかしく、カレンのパイロットシートに昇り


「カレン」

と言ってパイロットシートに体を入れた。


「ミコト、大丈夫」

ただでさえ狭いパイロットシートにミコトの体が入るとカレンは、笑いながら答えた。


「ミコト、模擬弾を受けただけなんだから」

ミコトの体を押すように体をパイロットシートから起き上がると


「ふーっ」と言ってパイロットシートから起き上がった。




「しかし」

「諸刃の剣だな」


「だが、あのシンクロは片方が完全にアンコントロールになっても片方が攻撃を続行できるという証明ではないか」


「いえ、自分が言っているのは、あれは我々には出来ないコントロールです。あんな機能がアトラスⅢ型についていたとは自分も知りませんでした」


「当たり前だ。あれは、パイロットの脳波、神経系と体液の流れを感知して機能する。別々の人間が出来ることではない」


 その声にルイス・アッテンボロー大佐とユウイチ・河井大尉が振向くとタカオ・小郡航宙軍開発センター長が厳しい目付きでスコープ・ビジョンに映る映像を見ていた。


「どういうことですか」

「知らなくていい」

それだけ言うと口元を歪ませた。


 二人のアトラスⅢ型には、他の機体と違う装備が追加されていた。もちろん最初からあったわけではない。

 

 小郡が二人の能力を見越して宙域訓練に入る時、追加させたものだ。河井たちが乗る機体にはついていない。


小郡は予定通りだ。そう思うと司令フロアを出て行った。


 アッテンボローと河井は、面白くない顔で小郡の出て行く後ろ姿見送ると二人が帰還する様子をスコープ・ビジョンで見ていた。





ミコトは自分達の官舎に帰るなりカレンに抱きついて

「カレン大丈夫か」


ミコトは自分の体の半分が衝撃を受けた感じだった。カレンもミコトと抱き合うと

「大丈夫。でも怖かった」

ミコトの体に回している腕に力を入れた。


「カレン、ちょっと苦しい」

「あっごめん」


 カレンは顔と体は女性だが、身体能力はミコトを上回る力を持っている。一卵性双生児の所為かも知れなかった。


「ふふっ、ミコト今日も一緒に寝よう」

いたずらっぽくミコトの頬に自分の頬を付けると自分の胸をミコトの胸に押し付けた。





 僕達が、久山さんに送られて航宙軍基地内に入り、航宙母艦アルテミッツに向っていると

「青山達」


二人を呼ぶ声が後ろから聞こえてきた。振向くと


「カレン、ミコト。どうだ。アトラスⅢ型の実機教練は」


例によって質問の意味が分らないという顔をすると


「サキと俺はまだ、アトラスⅡ型だが、お前たちの実機教練の状況を聞きたくてな。今度時間ないか」


僕達が顔を合わせると

「うーん、いつ?」

「なるべく早い方が。実は俺たちペアなんだけど、いま一つうまく行かなくて。そこでお前たちの話を聞けば何かヒントが出るかなと思ってさ」

レイはミコトにどう?という顔をすると


「どこで?」

「出来れば、基地の外で。今日とか無理」

「今日は無理。実地教練の後、アトラスⅢ型の新しい機能の説明がある」

「新しい機能?」


不思議そうな顔をするサキを横目で見ながら

「じゃあ、明日は?」


レイの強い誘いにミコトはカレンの顔を見ると仕方ないという顔で


「いいよ。今日の夜のうちにメッセージ入れといて」

「了解。じゃあ明日」

そう言って自分達とは別の方向のある航宙母艦にサキとレイは歩いて行った。



「ミコト、レイとサキを見た」

「えっ、今見たけど」

「そういう意味じゃない。何か違う。直感のようなものだけど」

「ふーん、全然」

「やっぱりミコトは男ね」

カレンはミコトに向って両方の手の親指と人差し指を合わせると両方のリングを結合した。


「えーっ、でも」

「間違いない。候補生期間中だからいけないなんて規則ないはずだし」

「そうか、まあそんなものか」


答えにならない理解できない言葉をミコトが言うとカレンが微笑んだ。


「私たちは目の前にある私たちの夢を実現する事よ。ミコト」

カレンはミコトの顔を見ると目だけで微笑んだ。


―――――


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

ここは面白くないとか、ここはこうした方が良いとかのご指摘も待っています。

宜しくお願いします。

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