第8話 宇宙(そら)へ


 教練棟には、厳しい地上訓練に残った六〇人の候補生が並んでいた。既に着慣れた航宙軍の紺の制服の胸には准尉の徽章が付いる。


「諸君、六ヶ月に渡る地上訓練が終了した。いよいよ来週から上にあがる。各自、準備を整えてフレイシア宙港の航宙軍基地に所定の時間に来るように。以上だ」


 候補生全員がフレイシア航宙軍式敬礼をするとフレイシア航宙軍士官学校のアレクセイ・ランドルフが答礼した。




「カレン、いよいよ軍事衛星だ。楽しみだな」

「うん」


「青山たち。今日、上にあがる候補生たちでパーティやるんだ。来ないか」


僕はカレンと顔を合わせると

「「うん」」


いつものことにレイは笑顔を見せると

「じゃあ、一八時にステラで待っている」

「「分かった」」


 カレンとミコトが、一八時少し前にステラに行くと既に多くの候補生が集まっていた。


「青山たち」

レイが、声を掛けると回りの候補生も気がついた。


「こっち、こっち」


 レイが手招きすると六人座りのテーブルにサキと顔だけは知っている男の子と女の子が座っていた。

 テーブルには、簡単な料理と飲み物が置いてある。


 カレンとミコトはレイとサキに向かい合う様に座ると隣に座る二人ににこっと微笑んだ。


相手も微笑むとレイが

「青山たちも顔は分かるだろう。入学式の時顔は合わせているだろうから。

タクヤとレイナ、二人ともAクラスだ。もっとも青山たちが先行してからクラス替えになったから知らないだろうが」


今度はタクヤとレイナの方を見て

「青山たちの事は、紹介する必要ないよな」

二人とも頷いている。


「カレンさん、ミコト君、始めまして。でもないか。俺、タクヤ宜しく」

「「宜しく」」

そう言ってほほ笑むと


レイラが

「わあ、やっぱり可愛いな。ミコト君、男にしておくのもったいない」


羨ましそうな顔をするとミコトは困った顔をしてレイを見た。


「レイラ、ミコトはこんな可愛い顔をしているが身体能力は男が呆れるくらい凄いよ」

フォローにならない言葉を言うと


「レイ、もう少しうまくいえないのか」

ミコトがぶっとした。それを見たレイラが


「わあー、やっぱり可愛い」

と言うとレイとサキが声を出して笑った。


「笑うことないだろう」

「ミコト、お前可愛いもの」


またレイが笑うとカレンが

「もうその辺で」

と言ってサキとレイを見た。


 そんな滑り出しも有って六人で楽しく会話しているとカレンは周りに少し目をやった。

 何となく知っている顔もあるが、やっぱり知らない顔が多い。


 ミコトの脇を突いて知らない人が多いという顔をするとミコトも同じだよという顔をした。

 仕方なく二人は目の前にある果物を取って大好きなスカッシュではないが、ソーダの入った飲み物をグラスに注ぐと二人でにこっとしてグラスを口元に持っていった。


すこし言葉少なくなった二人にサキが

「カレン、聞いたのだけど上がったら、もう別のトレーニングに入るって聞いた。本当」

「えっ?!」

「俺も知っているよ」

斜め前に座っているタクヤが言った。ミコトがなぜという顔をすると


「教官が話していた。青山ツインズは別枠のトレーニングになるって」

「えーっ、どういうこと?」

「どういうことって、自分たちが一番知っているんじゃないの」

とサキが言うと


「知らない」

 カレンが不思議そうな顔をした。ミコトの顔を見ても首を横に振って知らないという顔をしている。


「だって、私たちは、上に上がってもアトラスⅡ型の宙域訓練だけど青山さん達はⅢ型の宙域訓練でしょ。今までだって一緒になった事ないし」


「Ⅲ型と言えば最新鋭の航宙戦闘機だよな。羨ましい限りだけど」

レイが羨ましそうな顔をすると


「レイやサキだっていずれⅢ型に乗るんだろう。少し早いだけだよ」

「あれ、知らないの。Ⅱ型からⅢ型に換操出来るのは、君たちを除く五八名のうち四〇人だけだ。

 後は、偵察や輸送機の支援部隊に回される。もちろんそれを望んでいるものもいるが。事実、今CクラスやDクラスにいる連中は、最終に残れない」


二人でえーっと顔をすると


「二人とも少し世間知らずだぞ。航宙軍士官学校の決まりだよ」

「「ふーんそうなんだ」」



 ステラでのパーティも終わり自分たちの部屋に戻るとカレンは


「ミコト、何か心の中に風が吹いている感じ」

ミコトを抱き締めた。


 ミコトはカレンの体が自分に触れるのを感じながら自分も両手でカレンを抱擁すると


「分った。ずいぶん久しぶりだけど二人一緒に寝よう」

そう言ってカレンの顔を見た。


 二人は、生まれて物心ついた時からどちらとも無く寂しくなるとお互いにどちらかの部屋で二人で添い寝をしていた。心が落ち着いて温まるのだ。


「ミコト、ごめんね。こんなに大きくなったのに。私まだ子供だね」

ミコトの体に寄り添うと


「良いじゃないか。僕たちは、本来一卵性ではありえない形で生まれたんだ。小さい頃いじめられた時も二人でいつも立ち向かったじゃないか。俺たちはいつも二人で一人だよ」

ミコトもカレンに体を寄せた。


 男と女というわけではない。お互いただ触れ合うだけで心に安定感が生まれる。特殊な環境で生まれた二人だから二人で一人なのだろう。

やがて、二人は睡魔のとりこになった。


―――――


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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