第7話 シミュレーション機アトラスⅢ型
僕達が航宙軍士官学校に入って既に四ヶ月が過ぎた。後二ヶ月で首都星ランクルト上空三五七八六キロに浮ぶ軍事衛星にトレーニングの拠点が移る。
その為にも二人は宇宙空間に出る前にシミュレーションでアトラスⅡ型を体に染込ませたかった。
カレンは、目の前のヘッドアップディスプレイに映る赤い光点を視認すると瞬時に右上方を意識した。自機より荷電粒子が発射された瞬間、右上方にアトラスⅡ型は遷移した。
直後左下に緑の光の束が過ぎ去った。同時に先ほど映っていた赤い光点が消えると直ぐに次の赤い光点を視認した。
左後方よりミコトの機が近づいてくると直ぐに二人は右側面に遷移した。先ほどよりやや大きめの赤い光点がある。
「ミコト」
それだけ言うとカレンは、瞬時に左上方に遷移した。ミコトの機も同時に左上方遷移する。
遷移する前、二人の乗機からは、荷電粒子の四本の束は発射されていた。
遷移した直後、自分たちの乗機同じくらいの荷電粒子の束が右側面を輝かせた。ヘッドディスプレイに映る先ほどの大きめの赤い光点は、黄色に変わっている。
「ミコト止め」
言った瞬間二人のアトラスⅡ型から四本の荷電粒子の束が発射され、そのやや大きめの黄色光点に突き刺さった。そしてヘッドアップディスプレイから消えた。
「すごい、現役のパイロットでもここまで出来るやつが何人いるか」
「私も驚いています。Ⅱ型でここまでやるとは思っても見ませんでした。航宙戦闘機パイロットの為に生まれてきたのではないかと思う時があります」
「データはどうだ。あれへの適合率はどう示している」
「信じられないことですが、シミュレーションレベルで既に九〇%を越えています」
「なんだと」
サングラスの男は一瞬考えた後、
「後藤主任教官、二人のⅡ型シミュレーションは、後どの位課程が残っている」
「ほぼ終了しています。時間的には二週間あまっていますが」
「そうか」
サングラスの下で笑うと
「直ぐにⅢ型の訓練を移行させてくれ。まだ一ヶ月半残っているがその間にⅢ型をマスターさせ、上にあがった時、Ⅲ型の航宙を三ヶ月で終了させてあれのシミュレーションに乗せた後、実際の宇宙空間で航宙させてみたい」
「分りました」
後藤も微笑んだ。
「カレン、あっという間だったね。後一ヶ月で上がるんだ。お母さんとお父さんに上がる前には連絡しよ」
「そうね」
「そう言えば、サキもレイもⅡ型に移行するようだよ」
「えっ、何故知っているの」
「この前、レイに会った時、今度Ⅱ型に移行するって言っていた」
「ふーん。でも一緒に入った候補生とは、なんか会えないね」
「そんな事ないよステラに行けば、みんないるじゃないか。サキだってレイだって色々話してくれるし」
「そうね。でもなんか私達だけ特別扱いされていて、周りはそんな目で私達を見ているし」
「仕方ないよ。僕たちの夢を叶える為にも少しでも先に行かないと。それに上に上がる時は一緒だし」
僕達は一週間前にB32トラックホールから左のA15トラックホールに移りアトラスⅢ型のシミュレーション訓練に励んでいた。
アトラスⅢ型現在のフレイシア星系航宙軍の前線に配備されている最新鋭機。Ⅱ型に比べ推進力は二〇%アップされ、荷電粒子砲も八〇センチから一メートルに口径が大きくなっている。
更に三万キロより遠方へはエネルギーを失わないように収束型荷電粒子だが、三万キロ以内だと拡散型荷電粒子になり確実に駆逐艦レベルでも破壊する事が可能になっている。
またⅢ型は対航宙戦闘機用と対艦攻撃を目的とした雷撃型が用意されている。更に一部のトップパイロットしか利用できていない公開されていない機能が有った。
二人は前者のパイロットとして期待されると共にこの公開されていない機能の乗り手としても期待されている。
「ミコト、シンクロ」
カレンの機体に沿うようにミコトの機体が近づくとアトラスⅢ型の底の部分を反対側にするように背中同士を寄せた。
同時に側舷にあった荷電粒子砲が底部に移動する。二機が一体となった瞬間、二機の底部についている口径一メートルの荷電粒子砲二門ずつ四門が一斉に荷電粒子を放った。
瞬間右方向、見ている側には上方に遷移すると二機のいた宙域に二機より太い緑色の荷電粒子の束が通り二機の機体に光を反射させた。
カレンはヘッドアップディスプレイに映る大き目の赤い光点が黄色に変わった。
「ミコト二連射」
二機の底部についている荷電粒子砲から四本の荷電粒子の束が一度放たれると直ぐに二射目が放たれた。
カレンは、大きめの黄色の光点が完全に消えると
「ミコト、ミッションコンプリート」
そう言ってヘルメットの中で笑った。
「カレン、左舷エネルギー波」
ミコトが自分の意思を上方に向けると一瞬にして二機のアトラスⅢ型は遷移した。
「ぐっ」
カレンは一瞬の油断で体が準備できないままに急激な動きに体を締め付けられると声を出した。
しかしその時は既に二機の底部から四本の荷電粒子が左舷側から来たエネルギー波を出した赤色の光点が消滅した事をミコトはヘッドディスプレイで確認すると
「カレン大丈夫か」
「大丈夫、ありがとうミコト。ちょっと油断した」
「しかたないけど、これ予定外だろう。降りたら、小山内教官にクレームだな」
「小山内言われているぞ」
二人のやり取りを聞いていた永井は、小山内の顔を見て笑った。
「完璧ですね。トラップもしのぎました。やはり一卵性の双子の持つ能力でしょうか」
「それだけではあるまい。顔は女側に似たが、身体能力は男側に似たのだろう。出なければ女性の体でこの挙動は耐えられまい」
「そうですね。しかし、アトラスⅢ型のシンクロモードはフレイシア星系航宙軍の中でも一握りのトップパイロットだけが出来る乗り方だ。他人同士がシンクロするのは難しい。
しかし、あの二人はそれを本能で出来ている。今度のあれに乗せるにはまさに適任と言っていいだろう。楽しみだ」
小山内と永井は二人で口元だけで笑った。
―――――
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
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