第9話 宇宙(そら)へ その二


 フレイシア航宙軍士官学校の候補生六〇人は、軍事衛星アルテミスに上がる為、フレイシア宙港の航宙軍基地に集まっていた。


 フレイシア宙港は、民間人が利用する第一ターミナルから第五ターミナルと航宙軍が利用する第六ターミナルがある。


 第六ターミナルは軍事利用の為、民間ターミナルとは分かれている。その第六ターミナルに行く為の通路をカレンとミコトが歩いていると


「カレン、ミコト」

声の方に振向くとサキとレイが仲良く並んで歩きながら微笑んでいる。


「いよいよだな。少し緊張するよ」

「うん、私たちも」


「ところでサキとレイいつも一緒だね。付き合っているの」

「えっ」

サキが顔を赤くするとレイが


「まあな」

恥ずかしそうな顔をしている。


「へーっ」

興味深々の顔をしてミコトが、レイの顔を覗きこむと今度はレイが


「お前たちはどうなんだ」

「うーん、頭の中、アトラスのことばかりだし。上にあがってからのことばかり考えているから」

カレンを見ると頭をコクン下げて頷いた。


「やっぱりなー。そのくらいにならないと先行できないのかな」

少し呆れた顔をするレイに


「それだけじゃないと思う。この二人何か私たちと違うもの持っている。双子ということもあるけど、何か身体的に能力の違いを感じるもの」

サキはカレンとミコトをじっと見つめた。


「能力の違い」

不思議そうな顔をするカレンに


「だって、持久力トレーニングだって瞬発力だって、カレン普通の女性とは全然違う」

「えっ」


カレンは理解できない顔をすると僕はサキを睨んだ。


「サキ、そういう言い方は好きじゃない。カレンを傷つけるよう言い方をするならもう君とは口をきかない」

僕はカレンを守るようにサキを厳しい目で見つめていると


「まあ、待てよ。サキも悪気あって言ったんじゃない。ただ、僕だって確かにカレンの身体能力は凄いと思う。でもそれは羨ましいと思っただけで」

レイはサキを守るように言うと


「ミコト、いいよ。事実だし」

カレンはサキににこっとすると


「ごめん、言いすぎた」

サキはカレンに頭を下げた。


「さっ、早く行こう。そろそろ搭乗手続きが始まるはずだよ」

カレンは、話題を止めると第六ターミナルの方を見た。


 四人が通路を第六ターミナルの方に向かって並んで歩いていると、向かいから来る航宙軍の人たちがじろじろ見ている。


 航宙軍の紺の制服を着て胸と肩に准尉の徽章を付けた顔がそっくりのカレンとミコトは、スカートとスラックスの違いこそあれ、普通の人には見分けがつかない。


「うーん、やっぱり青山たちといると注目されるな。ちょっと恥ずかしい気分だな」

「私たちは慣れているから」


 カレンがレイの独り言に付き合っているとやがてターミナルの待合に着いた。既にほとんどの候補生がいる。


 窓からシャトルを珍しそうに見ている者、緊張した面持ちでいる者、友達と笑い話をしている者などがにぎやかにしている。


「わー、あれで上にあがるの」

サキは目を輝かすと小走りに窓に行ってしまった。


「ちょっと、待てよサキ」

 カレンとミコトに後でなという目をしてサキの後を追いかけた。僕達は目を合わせてふっと笑うと周りを見渡した。


 第六ターミナルには、航宙軍のパイロット候補生以外にも航宙戦艦、航宙母艦の乗員になる為の候補生の他、整備、修理を担当する技術科の候補生もいて結構な賑わいを見せている。


 艦艇の乗員は、色々な科目が有る。レーダー、ミサイル、砲、操艦、各部整備など色々な科目が更に多技に渡っている。


 それだけに人数も多い。別の見方をすれば、パイロットより別の意味で体に覚えこませなければいけない事も多い。

 その彼らもシミュレーションからいよいよ航宙の実地訓練に入るのだ。


「ミコト、いよいよだね」

「うん、ゲートの側に行こうか」


二人で歩いていると衛生担当官の久山さんが声を掛けて来た。


「青山ツインズ。私も貴方たちと一緒に上がるから宜しく」


 彼らの姿をサングラスの男、オゴオリ航宙軍開発センター長と後藤主任担当官が見ていた。


「どうです。アトラスⅢ型のシミュレーション結果は」

「呆れるばかりですよ。たったの一ヵ月半でほとんど体に染込ませています。上に行ってから実際の航宙に最初戸惑うかもしれませんが、あの二人なら直ぐになれるでしょう。三ヶ月のプログラムでどこまでいくか楽しみです」


「あれの開発も最終段階だ。半年後には、彼等を乗せることが出来るだろう。四ヶ月目からあれのシミュレーションに乗せてくれ」

「その予定です」

「ところで他の候補生は」

「普通です。太田候補生と安西候補生が多少先行していますが、どんぐりの背比べです」

「何人くらい使い物なりそうだ」

「予定だと四〇人は、アトラスⅢ型に移行できます。残りはⅡ型か輸送艦の予定です」

「そうか」

会話を終わらせると二人は別のゲートに向った。



「航宙軍候補生諸君、搭乗手続きを開始します。パイロット候補生は、一番ゲート、航宙戦艦乗員候補生は、第二、第三ゲート、航宙母艦乗員候補生は第四、第五ゲートより搭乗しなさい」


 天井のスピーカから案内が流れるとぞろぞろと候補生が動き出した。


「カレン、行こう」

「うん」




 シャトルは、全長八〇メートル、全幅五〇メートル、全高一〇メートル、乗員一〇〇名が乗れる。地上と宇宙空間を結ぶ定期便だ。


 駐機している時は、翼を広げ、空気中の揚力を受けれるようになっているが、上空四〇キロを過ぎた当りで羽を五分の一まで縮め、宇宙空間でも邪魔にならないようにしている。宇宙空間で翼を出していてもデブリがぶつかる対象になるだけだ。


「わーっ、すごい」

「結構広いなー」

候補生が目を丸くして見ていると


「全員早く指定のシートに着くように。着いたらボディロックを必ずするように」

 久山さんは声を大きくして言うと僕達を見て目で座りなさいと指示をした。


 やがて、全員がシートにつくと入口のドアが外側から内側へスライドして閉まった。

 全員が緊張の中にいると少しして


「シャトルARX15、発進シーケンス入ります」

アナウンスが入った。


 やがて、候補生の体に少し振動を感じさせながらタキシングロードから発進コースに入ると体がぐっとシートに押し付けられた。


 段々シャトルが加速し、ふわっと浮くと急激な角度で上昇し始めた。少しの間その状態を続けているとスピーカから


「第一離脱速度に入ります」

 瞬間、僕達の体は、離陸とは比較にならない強烈な正面からのGを体に感じ、シートに押し付けられた。


 そして、ギュイーンという音が機体の外から聞こえると少し経ってから今度は体がふわっとした感じになった。大気中で揚力を得る為に開いていた広角の翼が胴体に引き込まれたのだ。

 お尻がシートから離れる感じになっている。


「宇宙空間に出たんだ」

そう言ってカレンは、僕ににこっとした。


―――――


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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