第5話 シミュレーション機アトラスⅠ型


今、ミコトがアトラスⅠ型のシミュレーション機に乗っている。


 くっ、右後ろを見ると敵の航宙戦闘機がピッタリと後ろに付いている。左に振っても右に振っても急激に上に上昇しても付いてくる。


 機体の急激な変化に体を押さえながらコントロールを本能に任せ、僕は後ろに付いてくる敵機の射線に入らないように機体を遷移させた後、


「くそっ、これではどうだ」


 いきなり推進出力を一〇%まで落とした。瞬間敵機が左側を突き抜けた。

視認するかいなかのタッチで操縦席の前方にあるディスプレイに映る敵機に粒子砲を放った。


 口径八〇センチのアトラスの両舷少し下側の収束型荷電粒子砲が眩い光と共に放たれると、狙いたがわずに先行した敵機に突き刺さった。


 一瞬荷電粒子が吸い込まれたと思った瞬間、その敵機は消えた。ゆっくりと推進出力を上げたところで


「ミコト君、そこまでだ」


 ヘルメットの中に小山内訓練教官の声が聞こえてくると搭乗しているアトラスⅠ型シミュレーション機が停止した。


 計器類がオフになるとシミュレーション機の中が急に明るくなる。少し過つと後ろにショックを感じて後部にあるドアが開いた。


 もう一人の訓練担当官の永井が、パイロットスーツ二箇所からケーブルのインジェクションを外すと、ヘルメットのインジェクションを自分で外した。


「ふーっ」

僕がヘルメットを脱ぐと永井は


「レクチャルームへ戻りなさい」

と言って微笑んだ。


「ミコト、さすがね。あそこまでピッタリ付いてきた敵機をあの方法で落とすとは」

「カレン、あれはだめだよ。実戦では、他の敵機から攻撃を受ける。シミュレーションで一対一だから出来た苦し紛れの方法だ。

本当は敵機の背後を取りたかったのだけど、シミュレーション開始した時点の僕の失敗だよ」


ミコトの言葉に小山内訓練担当官は微笑みながら


「では、開始時点でどうすればよかったのかね」

「はい、戦闘開始で敵機と正対し、交差した後の背面展開が遅すぎました。一瞬のタイミング差で後ろを取られたのだと思います。次は失敗しません」

「その通りだな。カレンさんどうだ、君の時は最初から簡単に敵機の背後に回って撃墜したが」


「はい、ミコトの言った方法もありますが、背面展開すると敵機に一瞬隙を見せます。その時遅れて正対してきた敵機に攻撃するチャンスを与えます。むしろ交差後、十分に敵機との距離を一度おき側方展開したほうが良いと思います」

「それでは敵機の動きに対して時間をかけすぎる」


二人の会話に微笑みながら聞いていた小山内は、


「二人ともそれぞれに考えがあることはいいことだ。今日はここまでにしよう。二人とも十分に休憩を取るように。

 二週間後に他の候補生も参加するだろうがその時は二人ともⅡ型に移行しているだろう。これからもがんばるように」



 僕達は小山内と永井にフレイシア航宙軍式の敬礼をした。訓練担当官も答礼するとシミュレーションレクチャルームを先に出て行った。


 僕達も顔を合わせると行こうという顔をしてロッカールームへ戻った。


 僕は自分のロッカーのドアの右にあるパネルにIDを近づけドアを開けるとパイロットスーツを脱ぎ、体にタオルを巻くとロッカールームの奥にあるシャワールームに行く。


 シャワーで汗を流してタオルで体を拭くとドライヤで髪の毛を乾かしトレーニングウエアに着替えた。


 ロッカーをドライモードにするとドアロックボタンを押して廊下に出てカレンを待った。少し待っているとカレンが女子ロッカーから出てきた。


「カレン、他の候補生も来るとなるとのんびりしていられないな。帰ってから今日のシミュレーションを復習しよう」

「うん」


 僕達はB32トラックホールの外で待っているシャトルに向った。シミュレーションⅠ型機の訓練を始めて二週間が立っていた。


 二人がシャトルに乗る姿をB32トラックホールの五階の教官事務室から見ていた小山内は、


「予定通りの進捗です。身体機能は多少ですが姉のカレンのほうが優れていますが、本能的な動きは少しですが、弟のミコトのほうが上です。

 もっともトップレベルの話です。一般の候補生は、二週間ではシミュレーション機になれるのがやっとでしょう。もう少しⅠ型で様子を見てからⅡ型に移行します」


「データは取れているのか」

デスクのスピーカから流れる声に


「十分に取れています。乗機した時の航宙機機動性に対して、既にあの二人は物足りなさを感じているはずです」

「そうか、楽しみにしている」


スピーカからの声がオフになると小山内は隣に立っている永井に


「恐れ入ったものだな。俺の記憶が間違い出なければ、二週間でⅠ型を乗りこなした者はいない」

「だから、航宙軍上層部もあの二人にアカデミーの時から目を付けたのでしょう。一般人が、現役戦闘機の構造マニュアルを手に入れられるはずは無いですから」

「我々は命令された事するだけだ」


そう言うと二人ともB32トラックホールを離れていくシャトルを見た。


―――――



次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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