第3話 座学と基礎トレーニング
航宙軍士官学校に入り、オリエンテーションも受けたカレンとミコトは、いよいよ本格的な教練課程に入った。
「カレン、航宙機構造学難しかった。初日からこれじゃあ先が思いやられる」
「ミコト、その割にはずいぶん難しい質問して教官を困らせてたじゃない」
「だって、あの位知ってるよ。伊達にアトラスの機体構造マニュアルを手に入れてにらめっこしてたわけじゃないから。この質問したらどんな答え方するのかなと思っただけ」
「呆れた」
「さて、次は航宙力学だよ。早く教室戻ろう」
ステラで講義の合間に休みを取っていた僕達は、椅子を引いてテーブルから離れると教練棟に急いだ。
「カレン、正対面積に対して宇宙風の抵抗をどのくらいに見るかを考察する時、あの方程式ちょっと古くない」
「そうね、でも教官が映し出しているからいいんじゃない」
「まあいいか」
「こらそこの二人、私語は慎め」
「「はーい」」
ハーモニーで答えると回りの候補生が小声で笑った。
「全く、何ですかあの二人は」
「どうした」
「いえね。航宙力学の初歩講義を行っている時、例の双子が、方程式が古いとか言い出して」
「なるほど、そうですか。私も航宙機構造学の初歩講座を話していたら、いきなり機体構造合力特性の話題を出すから。
答えを言うのに一苦労です。なにせ回りの候補生は何を言っているのか分らないですから」
「ははは、そうですか。やはりあの二人は初日からですね」
指導教官の事務室で話す教官同士の会話に後藤主任教官が口を挟んだ。
「仕方ないですよ。あの二人フレイシアアカデミーでも常にトップ争いをしていましたし、士官学校の三次試験までトップでしたから。
ただ面白いのは、間違えるところや間違え方までそっくりです。楽しみですよ。まあ、回りの候補生の邪魔にならないように二人のレベルを引き上げてください。お願いします」
後藤の言葉になぜそこまでという少し不思議な顔をしながら後藤主任教官がそこまで言うならと二人の教官は、言葉を止めた。
「おーい、青山達」
ステラで休憩しているレイ太田が話しかけてきた。何だろうと思い、声の方向に振り向くと
「ちょっと、目立ち過ぎるよ。いくら頭が良いからって、他の候補生が分からない質問をしすぎると嫌われるぜ」
えっとした顔でレイの顔を見ると
「ふーん、そんなものか」
ミコトが反応した。
「そうだよ、まだ初級課程だぞ。いきなり方程式がどうの機体構造合力特性がどうのと言われてもほとんどの候補生は分からないよ。
少なくともクラスでは、同じスピードで行かないと。教官もそれを意識して教えているのだから」
良くしゃべるレイに感心しながら顔を見ていると今度はカレンが、
「分かったわ。ところでクラスでは、とはどういう意味」
「それは、君たち次第だよ。まあ始まったばかりだ。どんなに急いでも教練課程が縮まる訳ではないよ。じゃあね」
太田が二人の前を立ち去るのを見ながら
「まあ、確かに一理ある。でも僕はレベルの低い教育を受けたくないな」
「ミコト、少し様子を見ましょう。どうしようも無かったら指導教官に言えばいい」
「そうだね」
僕達は士官学校を大きく囲む様に通っている道路の上を走っている。
「カレン、ちょっと待って。もう少しゆっくり走ろう。後ろは、レイとサキだけだよ。他の人は見えないよ」
「ゆっくり走っているよ。ミコトが遅いだけ」
走りながら後ろを向いて微笑みながら言うとミコトは少し息を切らしながら追いついてきた。
「カレンが速すぎるんだよ」
パイロットの基礎中の基礎である持久力強化メニューだ。
航宙軍士官学校の周囲一〇キロを三〇分で走る。この他に八キロの連続水泳等、基礎体力の強化の他に瞬発力を鍛えるメニューや上下左右に急激な移動に耐える為の平衡感覚強化メニュー等がある。
これをパスしないと三ヵ月後の航宙機シミュレーション課程には進めない。教練課程の一ヶ月のテスト毎にクラスの候補生の顔が変わる。
Aクラスは、その中のトップクラスだ。
僕は、瞬発力や平衡感覚ではカレンを上回っていたが、持久力だけはカレンに叶わなかった。
レイやサキは、二人といつも同じクラスだったが、全てにおいて優秀というわけではない。
講義後僕達とレイ、サキで復習をしている時、レイが
「ミコト、これさっき教官がなんていっていたのか分らない。教えてくれ」
と言うので
「これは、不正弦立法の広角正面における航宙機の移動傾向を現した式で、これを元に航宙機は航宙状態をプログラミングされて、パイロットの意思伝達の遅れを補完するようになっているんだ」
これを聞いたレイは、教官よりお前の説明の方が分らんと言ってぷんとした事もあった。
僕がもう少し簡単にと言って説明すると最初からそう説明しろと言って教えてもらった僕に文句を言ったほどだ。
サキはカレンに
「カレン、構造合力特性における正面圧力をアルファとした時に側面圧力をベータとすると加法積分における合力は航宙機全体にどう及ぼされるの?」
と聞くと
カレンの答えにサキは、完全に頭の上に疑問符が山のように湧き出た顔をして
「ねえ、頼むからもう少し簡単に説明して」
と言い出す始末だ。
ただ、レイとサキは、いつもにこにこしながら僕達の側に居る。僕達が楽しそうに教練課程を過している姿を見ていつの間にか側にいるようになった。
そんな四人の集まりもたまにカレンとサキだけになる事がある。そんな時、サキはカレンに
「カレンとミコトってもう直ぐ一九でしょ」
「サキ、何気にしているの」
「だって、私だって気にする年なのに二人一部屋でねえ」
カレンはきょとんとした顔をした後、
「あはっ、あはは、もしかして。サキってエッチ」
顔が真っ赤になったサキは、
「でもそう考えるのが普通でしょ」
「ミコトとは生まれた時から、体の半分は一緒と思っている。言い方変えれば二人で一人。そもそもそういう考えが出てこない。
サキは自分の体を見てそう思わないの。自分の中に二人いても同じでしょ」
カレンがお腹を抱えて笑うと
「やっぱり、そんなのもかな?」
「そんなもんだよ」
「ミコト、今日サキが変なこと言っていた。ミコトを見て男に思わないのかって」
「えっ、カレンは僕を男と思わないの」
半分笑いを堪えている顔をしながら言うと
「ミコトだって、私を女と思ったことあるの」
「いやあ、そんなこと言ったって、お母様から出て来る時、どっちにどこが付いていたかだけ…………」
その時、いきなりカレンの右手がミコトの頬に迫った。瞬間僕がかわすと今度は、カレンの腕の下に右手刀を入れた。
サッとカレンは体をスライドさせながら右ひじを左回転させながら僕の脇腹に入れようとする。左手でひじを受け流しながら右手でカレンの体を支えた。
「カレン姉さん。鋭くなったね」
「ミコトに鍛えられていますから」
二人で顔を見ながら笑ってしまった。
体をぴったりと付けながら
「ミコト、いつも二人で一人」
カレンは僕の背中に腕を回すとピッタリと自分の体をくっつけて頬を頬に添えた。
僕は顔赤くなるのを分かりながら両手は下がったままだったが。
姉弟喧嘩というものでも無く、何となくストレス発散みたいなものだった。二人にとって。
そんな時間を過しながら、教練課程は三ヶ月が過ぎ、いよいよ首都星ランクルトでの最終課程航宙機シミュレーションへと移って行った。
「ミコト、いよいよだね」
「うん、いよいよだ」
「航宙機シミュレーションか。どんなんだろう」
僕達は、机に向かって今日の復習をしながら思いを巡らせていた。
―――――
次回は航宙戦闘機シミュレーションです。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
ここは面白くないとか、ここはこうした方が良いとかのご指摘も待っています。
宜しくお願いします。
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