第2話 入学式


フレイシア航宙軍士官学校入学試験から一週間後、


「「有った、有った、二人とも有った」」


 僕とカレンが、航宙軍士官学校の事務棟の中でスクリーンパネルに映る二人の名前に抱き合って喜んでいると


「カレンさん、ミコト君、合格おめでとう」

「「えっ!」」


 声の方に顔を向けると、面接の時優しい顔をしていた男の人が立っていた。


「私は、指導教官のノブオ後藤だ。宜しく」


 最初にカレンの方に手を出して笑顔を見せながら握手をすると僕にも同じ様に握手をした。


「合格した人は、A1事務室で手続きをする必要があるから行きなさい」

後藤はA1事務室を指差した。



「あの人、何故私たちにだけ声を掛けたのかな」

「さあ?」


 カレンの質問に不思議な顔をしながらA1事務室に入ると最終試験に合格した人が並んでいた。


「へーっ、みんな合格した人達か」

僕が感心した声を出すと、カレンの前に並んでいる男の子が、


「へーっ、噂通りだな。そっくりだ」


「どういうことだ」

 カレンの前に出て彼女を守るようにしながら目を厳しくしてその男の子に声を掛けると


「有名だよ。そっくりな双子の女の子と男の子が、ここ航宙軍士官学校を受験したって。それに成績はトップだっていう事も」


「えーっ、知らない」

今度はカレンが声を上げた。


「僕はレイ太田。宜しく」

そう言って笑顔を見せた。



「この中に必要な提出書類が入っています。よく読んで手続きを間違いないようにしてください」

同じ事を何回も繰り返す事務の女の人が二人に書類の入ったタブレットを渡した。




 それから一か月後、僕達は両親に出発の挨拶をしていた。フレイシア航宙軍士官学校は訓練中の二年間全員が寮に入る事になっている。




「カレン、ミコト体に気をつけてね。無理しないように」

「ミコト、カレンを守りなさい」


 言葉少なに二人の姿を見ながら少しだけ涙ぐむ母親の言葉に父親は自分に言い聞かせる様に言った。

「お母さん、二人の門出に涙はだめだ」



「お父さんお母さん。カレンは僕が守ります」

「ミコトに守られるほど、軟じゃないわよ」


渋い顔をするカレンを見て少し顔に笑顔が戻った母親が

「カレン、本当に気をつけてね」


母親の心配そうな目に

「お母さん大丈夫だよ。連絡も出来るし。最初の半年は、ランクルトにいるんだから」

カレンは、そう言って大きく腕を広げてお母さんを包んだ。


「「では、行ってきます」」


いつの様にハーモニーをすると

それぞれトランクを二つずつ持って自走エアカーに乗った。


 僕達は航宙軍士官学校の門をくぐりA1事務室の前に行くと既に先に来ている候補生たちが壁に掛かっているスクリーンに部屋割りと表示された映像を見ていた。


その下にこの後の指示が表示されている。


『各自、決められた部屋に行き用意された制服に着替え14:00に下記の場所へ集合せよ』


 カレンは腕時計を見ると後二時間かそう思ってミコトの顔を見るとミコトがスクリーンに釘付けになっている。


「どうしたの、ミコト」


スクリーンの方を指さして

「カレン、あれ」

「あっえっ、でも」


僕達は顔を見合わせると頬を緩ませた。指定された寮のある建物に行きながら


「やったね。でもどうしてだろう。他の人達は男と女の人がそれぞれ二人一部屋なのに」

「いいよ、カレン。でも六年ぶりだね。一緒の部屋になるの」

「ふふ、うれしいな。ミコト」


 寮のあるビルに着くと僕達はまたあれっと思った。

男の人の寮は右側の建物、女の人の寮は左側の建物なのに自分たちだけが教官事務棟と書かれた中央の建物になっている。


分らないまま入るとエレベータの前で女性が立っていた。


「やっと来たわね。カレン青山さんとミコト青山君」

きょとんとした顔をしていると


「私は、ミチコ久山。士官学校衛生担当員よ宜しくね。貴方たちの部屋は、三階の一二号室。荷物を部屋に入れて、おいてある制服に着替えたら14:00に教練棟に行きなさい」

そう言ってビルを出て行った。


 どういうことだろうと思いながら言われた部屋に行き、ドアを開けると感心した声をミコトが出した。

「へーっ、結構広いな」


 一五畳の大きさの部屋にベッドが両脇にあり、二つ机が横に並んで二つ置いてある。ベッドの側には一応レースのカーテンが引けるようになっていた。


 ベッドの上に紺の航宙軍士官の制服とトレーニングウエアが置いてある。さらに大き目のロッカーが二つ。それに簡単なシャワールームまで付いている。二人には十分だった。


「ちょっと想像と違っていたかな。もっとぎゅうぎゅうかと思っていた」

「うーん、でもいいんじゃない」


 僕達はそれぞれ二つのトランクから洋服や日用品を出すと用意されている制服に着替えた。


 カレンは、少し膝上のスカート。上着は女性用なのだろう、胸が少しだけゆるくしてあった。僕はスラックスに男用上着。


「ミコト、なんかオーダーメイドみたいな気がするんだけど」

「そんな事ないよ。だって知らないだろう。二人のスリーサイズなんて」

「でも」

少し考えるとカレンは、


「まっいいか」

そう言ってにこっとすると


「ミコト似合っているね」

「カレンもだよ」


 二人とも身長一八四センチ、ミコトは普通だが、カレンはあきらかに普通の女性より大きい。


 カレンがオーダーメイドと思ったのはしかたないことだった。だが、二人の親が大きいことを考えればしかたないことだが。


 二人で寮の建物から教練棟に向うと回りの人がじろじろ見ている。


「なんか見られているね」

「うん、僕もそう思う」


 確かに目立っていた。カレンはその身長もさることながらボーイッシュとはいえ、切れ長の大きな目にすっとした鼻立ち、口紅もつけないのにピンク色の唇が潤っている。

その女の子が紺色の航宙軍士官候補生の制服を着ているのだ。


 さらに、隣には、スラックスを履いていなければ見分けがつかないカレンにそっくりな男の子?が歩いている。


 歩き方も手の振り方もそっくりだ。目立たない方がおかしい。教練棟に着くとさっきエレベータの前に立っていた女性が、


「うーん、二人ともいいね。カレンさん似合うわよ。ミコト君も素敵だわ」

そう言って、微笑んだ。


もう、ほとんどの候補生が集まっていた。自分たちを見ながら

なにかぼそぼそ話している。そこへ手続きをした時に会ったレイ太田が近寄ってきて


「へーっ、参ったな。噂以上だ」

二人がまた、不思議そうな顔をすると


「まあ、いいよ。あとで説明してあげる。それより君たちのクラスは僕と同じAだ。よろしく」

そう言って、笑顔を見せた。


 やがて、候補生が集まると少し段の高いところに面接の時に会った中年のめがねの縁が太い男が立って


「私は、フレイシア航宙軍士官学校長アレクセイランドルフだ。候補生諸君、フレイシア航宙軍士官学校へようこそ」


校長の長い挨拶が始まった。


「ふーっ、長かったな。校長の話。でも後藤指導教官かっこよかったわね」

「そうだな。カレンいよいよ明日からだね」

「うん、ミコトがんばろう」


お互いのベッドに入ると消灯の一〇時前に部屋の電気を消した。


 これから始まる厳しい訓練と二人を待ち受けている運命をまだ二人が知ることは無かった。



「どうだ。二人は」

ミチコ久山の前に立つサングラスの男が口を開くと


「楽しみです。データはこれからですが、スタートはいいようです」

「回りの候補生には気がつかれないように」

「分っています。ですから、寮も他の候補生と分けました。私たちの棟にいます」

「そうか」

そう言って口元を曲げた。


―――――


入学式も無事終わり次回からいよいよ候補生の訓練が始まります。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

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