3「可愛らしい君の正体」
「ニクリ! やっぱり君だったんだな」
石の床のだだっ広い部屋。壁の方は薄暗くてよく見えないが、調度品の類はなにもない。外から見た印象の通り、いまは使われていない建物なのかもしれない。
椅子に縛られたヨルムの横には、可愛らしい笑顔のニクリ。彼女はちょっと驚いた顔になって、
「あれれ。やっぱりって、キャロおねえさまいつから気付いてたんですか?」
「おかしいと思ったのは昼休みの時だよ。君は私をお昼に誘ったけど、ヨルムのことに一切触れなかった。いつもなら私が一人かどうか聞くはずなのに」
そう、いつものニクリだったらヨルムがいないことを不思議がるはず。
あれはヨルムがいないのをわかっていたから、なにも聞かなかったのだ。
「そっかー! そこまで気が回りませんでした。でもそれだけでわかるなんて、キャロおねえさまさすがです!」
「いや、その時はまだそういうこともあるかと思って気にしていなかったよ。だけどその後聞いたヨルムの目撃情報で、一緒にいた人物の特徴を誰も思い出せなかったと聞いて再度引っかかった。――ニクリ、君は闇の魔力の持ち主。相手の認識から隠れる魔法を使えるはずだ」
私は闇属性魔法に詳しくないけど、それでもニクリの魔法のことはよく知っている。
「はい使えます! 思い出しますね、魔法で隠れていたニクリを見付けてくれた時のこと」
ニクリの隠れる魔法は私の光の魔力と相性が悪い。なにかいる、と思って近付いたら魔法が解除され、ニクリを見付けることができた。それが私たちの出会い。以来、ニクリが私を慕ってくるようになり、魔法もいくつか見せてもらった。
「一緒にいた人物を誰もきちんと認識していなかった。これは君の魔法の特徴だ。闇の魔力の持ち主は希少。昼休みのこともあったから、かなり怪しいと感じた。だけどそれでも、まだ違う可能性はあった。希少というだけで、他に闇属性の人がいないわけじゃないから。だけど――そんな時、疑惑を決定づけたのがこれなんだ」
私はカリィヌがくれた書面を広げる。
「これは今日学園を休んでいる生徒の一覧だ。ニクリ、君は今日欠席だったらしいね?」
「あららー、そんなものまで! なるほどトゥエン家ですね。あはははは!」
ニクリは笑いながら、ヨルムの肩にぽんと手を置く。
「ヨルムさんの食事を買い行く……という名目で、キャロおねえさまの様子を見に行っちゃったんですよ。お昼のお誘いを断られてとぼとぼ帰りましたけどね。あ、安心してください。ちゃーんとヨルムさんにはパンを買って帰りましたから」
「そ、そう……」
どうしてニクリはこの状況でニコニコ笑えるのだろう。まるでいつもの雑談のように話すから調子が狂ってしまう。
私は一度静かに深呼吸して気を取り直す。
「ニクリ……どうして、ヨルムを攫った?」
「え、理由ですか? そんなのキャロおねえさまもわかってますよね?」
ニクリは心底驚いた顔をするけど、それでも教えてくれる。
「二人はいったいどうやって開かずの間に入ったんですか? 中にはなにがあったんですか? それが知りたくてヨルムさんを攫ったに決まってるじゃないですか」
「――! やっぱり見ていたのか!」
「はい! 実は昨日私も一緒に忍び込んでいたんです。びっくりしましたよ、フォストを使って城の中に入っていくんですもん。慌てて外から封印の地に入って追いかけました」
思った通りだった。私に近付かないように気を付ければ、ニクリは完全に隠れていることができたはず。
そしてニクリは……。
「じゃあ君は、秘密結社チーキスの一員なのか?」
「うわあ! そこまで調べたんですか! ふふふ、びっくりしました? チーキスですよチーキス。聞き覚えありません?」
「…………」
「ああもう、そのクールな表情が素敵です! でもだめですよ、さっきヨルムさんにも聞いたんですけど、無表情を貫けませんでした。喋ってくれませんでしたが、知ってるって顔してましたから」
「っ……」
ヨルムの顔が引きつる。私のことを思って、なにも言わないでくれていたんだ。
「大丈夫だよ、ヨルム。……ニクリ、私がその名前を知っていたからって、なんだっていうんだ?」
「ふふ……ふふふふ! やっぱりキャロおねえさまは、本当に『古代人』なのですね……」
ニクリが不気味な笑みを浮かべる。いまの言葉で確信した。彼女はフランドル・チーキスを知っている。いや、それどころか当時の私のことも知っている? いったいどうやって……。
「いいですよ、キャロおねえさまの知りたいこと全部教えます。まずは秘密結社チーキスの歴史からにしましょう。なんと400年も昔から存在するんですよ」
「400年……フォルンの時代からって噂、本当なんだ」
「はい。創立者は誰だと思いますか? キャロおねえさまならわかるはずです」
かつての仲間は全員魔王との戦いで死んでいる。それはフォルンの手記からも間違いない。フォルンたちも、私たちの名前は隠していた。
だとしたら心当たりは一人しかいない。
「……フランドル・チーキスの息子、か?」
「ぶっぶー! 惜しい! 半分は正解です。真の創立者は……リロ・レイルーン! キャロおねえさまの妹様です!」
「――なっ!」
「フランドル・チーキスの息子、ユルド・チーキスと結婚して二人で組織を立ち上げたのです」
「けっこ……はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます