5「5人の秘密と魔力の秘密」
話を終えて、開かずの間から扉に触れると僕たちはもとの大広間に出ることができた。
僕は改めて封魔殿を見渡してしまう。
地下深くに、魔王が眠っている……なんてことはなかったわけで。
純粋に、魔王との決戦の場、その跡地だ。
そうなるとこの封魔殿は、キャロの仲間たちの墓標に思えてくる。
「あ、キャロちゃん! ヨルムくん!」
「突然現れましたわね……。まったく、遅いですわ」
「ご、ごめん」
正直に言うと、外にみんながいるのを忘れて話し込んでしまっていた。
そろそろ出ようという段になってようやく思い出し、二人して顔を青くした。
「やはり中に入っていたのだな? いったいなにをしていた。出られないのではと焦ったぞ」
フォスト王子、本当に焦っていたようで安堵のため息をつく。いつもなら怒り出しそうなものなのに――いや、ここで誰かがいなくなったとなれば大事だ。心配するのも当然だった。
キャロは普段のクールな表情で王子に頭を下げた。
「すまないフォスト王子。色々確認をしていて――ところで、私たちが扉に触れた後、どのように見えていたのか教えてもらえないか?」
「突然動きが止まり、固まったまま扉に吸い込まれていった。スザンの魔術なのだろうが、なにがどうなっている?」
始まりの石碑の時と同じだ。僕らは強い光に包まれて気が付いたら中にいたのに、周りの人にはその光すら見えていない。
「なるほど……。フォスト王子の言う通り、私たちは中に入っていたよ」
「おぉ! 中はどうなっていたのだ!?」
「どうやらフォルン・リカッドの書斎のようだよ。本がいくつかあるだけだった」
「本? 本当に他になにもなかったのか? そもそも二人は何故中に入れたのだ! なにか方法があるのか? 俺たちは扉に触っても叩いてもなにをしても入れなかったぞ!」
「方法? 簡単な話だよ。私が古代人だから入れたのさ」
「いまそんな冗談を言っている場合か!」
「冗談ではないんだけどな。まぁいい、フォスト王子。……その辺り、これで不問にしてくれないか?」
キャロが一冊の本を差し出す。中の本棚にあったものを持ち出してきたのだ。
「む? これは、なんだ」
「スザン・エルテリスが記した水魔法についての本」
「なっ、なんだと!?」
「スザンの本――!?」
フォスト王子とロアイが本に飛びついた。キャロの手から奪い、二人で引っ張り合う。
「ええい離せ!」
「スザンの書いた本! お願いします私にも見せて!」
「これは俺がもらったんだぞ!」
おそらく予想通りの反応だったのだろう。キャロはどこか満足げに頷いて、
「フォスト王子。それを受け取るなら、私たちが中に入れたことは不問でいいのかな?」
「ぐっ……それは」
「中に入ったことは報告せず、誰にも秘密にして欲しい」
「だ、だめだだめだ! そんなわけにいくか!」
「スザン・エルテリスは魔術で有名だが、水属性魔法も最強クラスだった。その彼女が書いた魔法の本。同じ水属性の王子は読むだけでもかなり力になると思う」
「お、俺を脅すつもりか!」
「脅してなんかいない。ただ、それがあれば見返せるんじゃないか? 君のお兄様たちを」
「――――っ!! ……ふんっ!」
「あっ……!!」
フォスト王子はロアイの手を振り払い、強引に本を手にする。
「これが、あれば? ……いいだろう、キャロ・テンリ。誰にも報告しないと約束しよう。このことはここにいる者だけの秘密だ。カリィヌもいいな?」
「わたくしはもとより誰にも言えないわ。ここにいること自体問題ですもの。あなたが否定する限り、わたくしの話を信じる人はいないわよ」
「その本わたしにも見せてくれるなら約束する!」
「……チッ、仕方が無い。だが俺が先に読むからな」
どうやら話はまとまったようだ。
ここでのことは秘密に。本当にそれでいいのかなぁとは思うけど、正直助かった。大問題になっていただろうし、部屋の中のことをあれこれ聞かれても困ってしまう。
「もういいな? いい加減ここを出るぞ。かなり遅くなった。急げ」
フォスト王子が早足で出口に向かう。僕たちもそれに従って歩き出すと、ススッとロアイが近寄って来て僕に耳打ちする。
「ね、随分長いこと部屋の中にいたけど、二人でなにしてたの?」
「え? なにってその……話し込んでたんだよ」
「本当に? 話してただけ? ふたりっきりで?」
「うん……?」
あの小さな部屋で、ふたりきりで。長時間。
「――ってロアイ! なに言ってるの!」
「あははっ! さすがになにもないかー。ざんねん」
「もう……。本当に、話していただけだよ。長い、長い……昔話を、たくさん」
この世界の、封印王国リカッドリアの本当の歴史。
キャロの真実。
そして――僕の魔力の真相。
『結論から言うと、ヨルムの持ってる魔力ってもとは私のなの』
開かずの間から出る前に、キャロは説明してくれた。
「いまの私の魔力ってね、当時の2割ほどしかないんだ。記憶を取り戻した時は愕然としたよ……。でもその時は単純に魔力が減っただけだと思った。魔王との戦いですべての魔力を使い果たした後遺症かなって。でも違った。学園に通うようになってすぐにわかった」
「そ、それって、もしかして僕と」
「うん、学園でヨルムと出会った。ヨルムは私の残り8割の魔力を持っていたんだよ。変質していたけど、わかる。変質していたから真相がわかった。私はあの空間の歪みに放り込まれた時、魔力を切り離されてしまったんだって。もとの時代に魔力を置いてきたんだって。私の魔力はこの世界を漂い……おそらく、色んな人に宿り、受け継いでいったんだと思う。そしていまはヨルムに宿ってる」
「…………」
「その過程で魔力が変質しちゃったんだと思うんだけど……。そもそもどうして誰かに宿ったりしたの? 普通の魔力だったら拡散して消えちゃうだろうし、いったいどんな状態で残ったのかさっっっぱり。想像もつかない。なによりそんな私の魔力をスザンが痕跡すら見付けてないっぽいのがおかしいんだよねぇ。うーん」
「…………」
「ってヨルム? 聞いてる? おーい?」
聞いてはいたけど頭は真っ白だった。
僕の動揺が収まるのを待ってから外に出たんだけど、正直まだ頭が働いていない。
ただ、これだけはわかった。
僕の持つレグスセンス。変質した魔力は、もともとはキャロの魔力。
(そりゃ……僕の魔力に触れたら落ち着くわけだよ。自分の魔力なんだから)
出会ってからずっと不思議に思っていたことが、ようやくわかったのだった。
*
長時間封印の地にいたにも関わらず、一行は誰にも見つかることなく城の外に出ることができた。そのため封印の地はもちろん、開かずの間に入ったことは本当に5人だけの秘密となった。
しかしその翌日。ヨルム・クウゼルは行方不明になる。
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