4「真実と英雄」
フォルン・リカッドの手記、英雄の真実。
前半はキャロの話をフォルン視点で書いたものだった。魔王城の地下に落とされ、ケルベロスと戦う。辛うじて勝利し地上に出たその時――辺り一帯、強い光に包まれた。
光の中心に邪悪な力を感じ、魔王がいることに気が付いたが凄まじい魔力のぶつかり合いに近づくことができなかった。やがて光は収束し、魔王の身体が消えていく。フォルンは魔王が滅ぶ瞬間を見届けていたのだ。
魔王を倒したのは明らかにキャロの光魔法だった。だけどそこにキャロの姿はない。
フォルンたちは崩れた魔王城を探し、フランドルの遺体と――生きていたレルネスとユースを発見する。
そこまで読んで、キャロが机から飛び降りた。
「ちょっと待ってレルネスとユース……二人とも生きてたの!?」
「みたいだね……でも」
僕はその少し先に書かれている文章を見てしまった。
二人とも傷が深く、もう助からない状態だった、と。キャロもそれを見て、黙って続きを読み進める。
フォルンはレルネスと、スザンは姉のユースと、最後の言葉を交わしていた――。
*
「ごめん、フォルン……僕はもう、だめだ」
「死ぬなレルネス! お前たちは魔王を倒した英雄だぞ!」
「あぁ……それは、君にあげるよ、フォルン」
「は……? なに、言って」
「フォルン……世界は、まだ、こんな状態だ。……もとの、平和な世界に……戻してよ」
「俺が……!? もちろんこれで終わりじゃないことはわかってる。だが英雄はお前だレルネス! だから死ぬな!」
「へへ……最後倒したのはキャロだし、僕はこのざまだ。……頼む、世界には強い指導者が、必要だよ。もう、わかってるだろ? フォルンは……僕より、頭がいいんだから……」
「俺は魔王と戦っていない!」
「ケルベロスとの戦いだって……魔王との戦い、だ。……君は英雄だよ」
「そんなの屁理屈だ! レルネスお前、俺に偽りの英雄になれと言うのか!」
「……ごめん。……でも、それができるのは、フォルン……君だけ……だから」
「レルネス? 逝くな! 俺は、俺は……まだお前と戦っていないぞ! 終わったら決着をつけると約束しだろう……!」
「約束……か。……あぁキャロ……ごめん、守り抜くって……約束、したのに……。せめて君の魔力は――……」
「魔力? ……おい、レルネス? レルネス! ……クソッ!!」
「ユース姉さん! 大丈夫、きっと私の治癒魔法で……!」
「スザン……それより、聞いて欲しいの」
「姉さん! だめ!」
「私ね、最後に二つの予知を見た。一つは、フランドルの治療をしようとした時……。キャロが、魔王を倒す予知よ」
「……やっぱりキャロがやったのね? でも姉さん、キャロがどこにもいない!」
「うっすらと……魔王との会話が、聞こえた。キャロは空間の歪みに、放り込まれて……どこかに、飛ばされた……みたい」
「空間の歪み? そ、そんな……!」
「でもね……スザン。キャロに防御魔法をかける時……二つ目の予知を見たの。キャロは…………」
「姉さん? 姉さん!」
「っ……キャロは……新たな仲間と共に、平和に……楽しく、暮らしていた……」
「――――!」
「だから……スザン、おねがい。この世界を……平和にして。私の予知が、本当になるように……。いつか帰って来る、キャロが……楽しく……」
「ユース姉さん? だめ……やだよ、姉さん!!」
*
「レルネス……ユース……っ!」
「キャロ……」
手記を読んだキャロは、机に突っ伏して泣いていた。僕はその背中をそっと撫でる。
レルネス・クローゼンは、フォルン・リカッドに世界の復興を託した。
自分の代わりに英雄となり、荒廃した世界を立て直す。その足がかりとして、魔王との戦いの地に拠点を作り、各地の集落から人を集め街を作り、国を作ったのだ。
手柄を横取りしたんじゃない。それがレルネスの望みで、世界のためだった。
ユース・エルテリスは、妹のスザン・エルテリスにキャロのことを託した。
彼女が最後に見た予知を本当にするために。世界を平和にするという使命を背負ったのだ。
「続き……読む」
「大丈夫? キャロ……」
「うん。ちょっと、当時の気持ちがよみがえっちゃって。もう大丈夫」
キャロは涙を拭って、手記のページをめくる。
そこには、封印の謎の答えが書かれていた。
近くの集落に移動し、フォルンは魔王を倒したことを報告する。――はずだった。
だけどできなかった。どうしても、魔王を倒したと言うことができなかったのだ。
フォルンはこう言った。魔王を倒しきることができず、スザンの魔術で封印したと。
「そういうこと、ね……。まったく、フォルンのばか、腰抜け」
「う、うん……でも」
「わかってる! 言えなかったフォルンの気持ちも」
戦ってもいないのに魔王を倒したなんて。フォルンはもちろん、彼の仲間たちも言えなかった。
そうなると、始まりの石碑で聞いたスザンの言葉の意味もわかる。
「この国で平和に暮らすことができない……スザン・エルテリスは、罪悪感を感じていたのかな……」
「でしょうね……」
封印の英雄となったフォルン・リカッドの仲間たちは、レルネスたちのことを話せなくなった。偽りの真実の上にこの国は創り上げられた。
それがレルネスの望み、世界のためだったとはいえ、スザンには耐えられなかったのだ。
「キャロ、その辺りもう少し詳しく書いてあるよ」
「えぇ……スザンが旅に出たのは、私のためでもあった……」
スザン・エルテリスは各地を巡り人々を救いながら、キャロを探していた。キャロの光の魔力は魔物に有効な希少な魔力。すぐにその痕跡や噂が見つかると思ったらしい。
でも、実は未来に飛んでいたキャロを見付けられるはずがなく――。
「うわぁ、旅立って15年後にこっそり帰って来て、ここで散々愚痴ってたって」
「……そうなるよね」
「でもさすがスザンね。この世界ではない行き来することの不可能な場所に飛んでしまったか、もしくは距離ではなく時間を飛んだ可能性も考えていたって」
「おぉ……」
空間の歪みのことなんて調べようもないのに。推測でほぼ正解を言い当てている。
「いつか自力で帰ってくるかもしれない。その時のために、この部屋を残しておきましょうって話になったのね」
「あ……そういうこと?」
「ええ。ほら、最後に書いてある」
――キャロ・レイルーン。
俺たちはやれることはやったつもりだ。ユースの予知が本当になるように、世界が平和になるように。何十年も、力だけではない戦いを続けてきた。
お前から見てどうだ? この国は。
……それが聞きたかったんだが、もう待てそうにない。
ブレイダは先に逝ってしまったし、スザンはもう何年も音沙汰が無い。
しかしこれがお前に読まれているということは、昔スザンがしていた荒唐無稽な話のどれかが本当だったんだろうな。繋がりの無い違う世界に飛んだか、違う時間に飛んだか。
なぁ、俺は本当の英雄になれただろうか? 魔王は倒していないが、世界はマシにできたと思う。死と隣り合わせの世界はもうどこにもない。この国から平和が広がっていくはずだ。
心残りはお前を見つけられなかったこと、お前たちの名前を歴史に残すことができなかったことだ。あいつの名前を街の名前に潜ませるのが精一杯だった。
「街の名前? どういうこと?」
「僕たちの住んでる首都レーゼンかな?」
「レーゼン……うわ、そういうこと? レルネス・クローゼンを縮めてレーゼン?!」
「……あぁ!」
国の名前のリカッドリアは、フォルン・リカッドから取ったのはすぐにわかるけど、首都レーゼンについては特に名前の由来は伝わっていない。まさかそんな意味が込められていたとは。
「ぷっ……あっははははは! もーバカだなぁフォルンは。まったく……」
キャロはペタンの床に座り、椅子に座った僕の脚に頭を預ける。
彼女の頭の温かさを感じながら、僕は手記の最後の文章に目を向けた。
――キャロ。ユースの予知通りなら、お前は仲間と笑っているはずだ。
どうか、平和を謳歌してくれ。
「……ごめんねフォルン。400年もかかっちゃってさ。でも、私は笑えているよ。フォルンが作ったこの国でね」
キャロはしばらくの間、涙を流して笑い続けた。
「……あれ? そういえば結局……僕は? なんでここに入れたの?」
「ああー、それね。この手記で少しは触れてると思ったんだけどな~。フォルンはともかくスザンが見付けられないとは思えないんだけど……」
「どういうこと?」
「あの時ぜんぶの魔力を使っちゃったからかな? もとの時代に魔力を置いてきちゃったみたいでさ」
「置いてきちゃった」
「うん。いやぁやっぱり空間の歪みなんかに放り込まれたらタダじゃ済まないってことだね。結論から言うと、ヨルムの持ってる魔力ってもとは私のなの」
「は……――ぇぇぇぇぇえええ!?」
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