3「ゲインの謝罪と勝利の鍵」
「では改めまして、昨日は申し訳ありませんでした」
翌日の昼休み、僕らはゲインと共に食堂のテラスで食事をしていた。
「まっっったくですわ。まさかそんなことがあったなんて、あのバカ王子……。ゲイン、きちんと説明してもらうわよ」
カリィヌには朝一で事情を説明した。自分も片棒を担がされたのだと気が付いてずっと機嫌が悪い。
「はい、カリィヌ様。まず先生からの呼び出しですが、あれはヨルム君とキャロさんを引き離すためのものでした」
「僕とキャロを……やっぱり」
昨日の出来事を整理するとそういうことになる。
「レイル先生に協力をしていただきキャロさんを引き留め、嘘の呼び出しで一人になったヨルム君に我々が接触する流れでした」
「ゲインくんちょっと待って。レイル先生なにしてるの?」
スラスラと説明するゲインにロアイが待ったをかけた。僕らみんな同じことを思ったところだ。それに対しゲインは、
「あの方はフォスト王子の頼みを断れないのです」
その回答でみんな、あぁーと声を漏らして納得してしまう。レイル先生は気が弱いから、きっと頼みというより命令に近かったのだろう。
「ねぇ、どうしてわたくしを中継役にしたのよ」
「ヨルム君たちがいなかった場合、カリィヌ様にお伝えするよう僕が指示しました」
「なっ、あなたねぇ……って、待ちなさいよ。まさか昨夜の急な晩餐会も」
「はい。トゥエン家への使者は僕の手配です。カリィヌ様も引き離したかったので」
「呆れたわ! あなた無駄に有能よね……」
「恐縮です」
頭を下げるゲイン。カリィヌもこれ以上怒っても無駄だと悟って追求しなかった。
ゲインが話を続ける。
「最初の誤算はロアイさんです。ゴイスが引き留めるつもりだったのですが、気が付いたらいなかったと」
「そっかゴイスくん同じクラスだ! わたし授業終わってすぐに教室飛び出しちゃったから」
ロアイはそう言って、ゲインには聞こえないように小声で「廊下に出てすぐに魔法で移動しちゃったんだよね」と呟く。彼女は僕が魔力を増幅しなくても、単発で短い距離なら高速移動できる。それでゴイスは見失ってしまったのだろう。
「ゴイスから報告は聞いていましたが、まさかヨルム君と合流し、第1武術訓練場の近くにいるとは思いませんでしたよ」
「あ、それ。僕は第1魔法実技場に呼ばれてたんだけど……?」
レイル先生の嘘の呼び出しは魔法実技場。だけどフォスト王子が向かっていたのは第1武術訓練場だった。
「はい。ここからは僕個人の策です。レイル先生のミスということにして、ヨルム君を武術訓練場から離れた魔法実技場に呼び出しました」
「え……!?」
「そうすれば時間が稼げます。フォスト王子が僕らを探しに出す頃には、キャロさんが解放されヨルム君と合流する。そこへフォスト王子を鉢合わせるつもりでした」
「な、なんでそんなこと……いや、そっか」
「キャロさんの前でしたら酷い発言は控えると考えたのです」
「なるほど、確かに」
キャロの前であんな高圧的な態度を見せれば交際もなにも無い。結果としてそういう姿を見せてしまうことになったが。
「……そっか、たまたま僕らが第1武術訓練場の近くにいたから」
「はい……。フォスト王子と鉢合わせてしまったわけです。これは本当に誤算でした」
「うっ……」
ゲインの計算に隠し部屋のことは入っていない。まさか第1武術訓練場の近くにいつも集まる隠し部屋があるなんて思わないだろう。運が悪かったとしか言いようがなかった。
「でも……ゲイン君は僕らのために動いてくれてたんだね」
「それが我々の仕事です」
従者ってすごい仕事だ……。彼のような有能な人物でないとなれないのだろう。
「ヨルム。実は私を呼びに来てくれたのもゴイスなんだ。ヨルムが危ないからすぐに来て欲しいと言われてね。道すがらだいたいの事情も教えてくれた」
「そうなの?! ゴイス君……!」
つまり僕はゲインとゴイスの二人に救われたということだ。
「ありがとう! あとでゴイス君にもお礼を言わなきゃ。傷薬ももらっちゃったし」
「彼の土属性魔法で作る薬はちょっとしたものです。怪我をした際には是非。……ですが、お礼は僕から伝えておきましょう。ヨルム君はまず二日後のことを考えるべきです」
二日後。僕とフォスト王子の勝負の日だ。確かにいまはそこに集中するべきだろう。
「……ありがとう、そうさせてもらうよ。勝負の日までになんとかするから」
僕はキャロと目を合わせて頷き合う。
「なにか考えがあるようですね」
「それよ! わたくしまだなにも聞いていないわよ?」
「カリィヌにはあとで話すよ。協力してもらいたいんだ。……でも、えっと」
「はい、そうですね。僕の前で話すのはよろしくないでしょう」
「ごめん! ゲイン君のことは信用してるけど、でも」
「いえ、それでいいんです。僕はフォスト王子に忠誠を誓っています。ここで聞いたことを王子に隠すことはその忠誠に反してしまいます」
「……ゲイン君」
「ヨルム、気にする必要はないですわ。それが彼らの従者としての誇りなのよ。――でもゲイン、王子を騙すのはいいのかしら?」
「昨日のことでしょうか。あれは王子を守るためでもあります。問題ありません」
そういえば昨日、ゲイン君がフォルガ王の名前を出した途端手を緩めた。さすがの王子でも罪を犯せば処罰される。二人の従者はそういう事態にならないように、常日頃から守っているのだろう。王子にバレないよう自然な形で。
「そういうことですので、僕はこれで失礼します。……ヨルム君。二日後の勝負で王子は手を抜くつもりはありません。君の考え、信じていますよ」
「うん。色々ありがとう、ゲイン君」
ゲイン君は立ち上がり、僕らに深く頭を下げてから立ち去った。
「――さあ、話してちょうだい! いったいどんな策があるのよ!」
「お、落ち着いてカリィヌ。キャロが教えてくれたんだ。僕があのフォスト王子に勝つには……」
テーブルに置いた自分の手のひらを見つめる。
「僕のレグスセンスが鍵になるって」
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