喧囂猥雑

 街の中を車で暫く走っていると、徐々にその姿が形を変えてゆく。今までが整然としたものだとするならば、目の前のこれは雑多ざった猥雑わいざつ、とでも言えば良いだろうか。


 火具土の街の外周には、アンヴァラスの襲撃を防ぐ為に建設された、縦に三十メートルはある高い壁に覆われているのだが、その高く広い壁を以てしても、未だに広がり続ける街の中身を収めるには至らなかった。


 壁の内側は、大きさも様式も全てが不均一な建物でひしめき合い、余ったスペースには、思いつく限りの建造物を押し込んで、果ては本来見えない場所にあるべき配線や配管が、人の行き交う往来にまではみ出す始末となっている。


 結果、街の中にはもう余剰な空間は一切残ってはいない。だと言うのに、どうしてか未だ成長を止めることを知らないこの街は、横が駄目なら上へ伸びろと言わんばかりに、どの建物の先端も、街を囲う壁よりも高く付き出すようになってしまっていた。となれば、無茶な違法建築の弊害へいがいで、先端へ向かうほど歪な形状となってくるのだ。


 そうして街の姿が異様であるならば、そこに住まう住人もまた、毛色が変わっているというもの。四方八方から聞こえてくる喧噪けんそう雑踏ざっとう。辺りには飲食店や土産物を売る露店に、淫猥いんわいな様相を隠そうともしない怪しげな店が幾つも立ち並び、商人や客引きたちが他の店には負けまいと声を張り上げている。ただ、聞こえてくる言葉には幾つもの隠語が混じり、最早独自の言語体系が形成されつつあるこの場所では、高性能な翻訳機を用いてさえ、その意味を知り得ることはできないだろう。


 なんて騒がしく雑多な場所か。一つ場所を変えただけで、さっきまでの整然さがまるで嘘のようだ。しかし火具土という街においては、ただ綺麗であるよりも、この混沌とした光景こそが、ある意味正しい姿と言えるのではないだろうか。

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