生還の末路
二人の乗って来た装甲車に乗り、来た道を戻る。来た道とは言ったものの、あのときは無我夢中で走っていたから、道のりなんて覚えてはいないのだけれど。
私たち護送隊が襲撃された場所は、あの廃墟から車で十数分程度離れた場所だったらしい。二人がそれを知っているのは、私の元へ来る前に現場を見て来たからなのだそうだ。ちなみに二人が私の居場所が分かったのは、私の撃った銃の銃声を聞いたからとのこと。
大丈夫。二人の話を聞く限り、二人は丹念に現場を見た訳じゃない。だから、何かを見間違えたに決まっている。
大丈夫。誰も死んでいる筈がない。だって、今回の任務はただの運搬で、危険性も低く、ただ車の荷台に座っているだけで良いだけの、楽な仕事なのだから。
だけど、早くみんなの元へ戻って、手当をしないと。怪我をしている人もいるだろうし、それに、私を逃がしてくれたことにお礼を言って、謝って……それから、それから……あぁ、駄目だ。考えが纏まらない。
とにかく、大丈夫だ。大丈夫……。
何度も自分にそう言い聞かせていると、突如車がブレーキを掛けて静止する。どうやら目的の場所へ着いたらしい。顔を上げられないけれど、近くで何人もの行き来する人の気配を感じる。やっぱり、心の奥底にあった不安はただの
「……着き、ましたか?」
「あぁ、着いたよ」
「そう、ですか……」
早く立って、みんなの所へ行かなくちゃ。そうは思うのに、どうしてか私は、すぐに車を降りることができなかった。きっと疲れているのだろう。アンヴァラスと対峙するなんて初めてのことだったし、先ほどの異様な感覚のせいでか、二人に抱えられて車に乗せられるまで、碌に動くこともできなかったのだから。こんなんじゃ、また堺兵長に怒られてしまう。しっかりしなくちゃ。
「なぁお嬢さん、ここで休んでいなって。あんたの無事は、俺たちがちゃんと同僚に伝えておくから」
「そうですわ。あとは私たちに任せて」
「い、いえ! 大丈夫です! 治療とか、色々と手伝わなくてはいけませんし……大怪我をしている人もいる筈ですから!」
二人は答えない。黙ったままだった。その沈黙が、どうしてか私には耐えられなくて――。
「…………ッ!」
俯いたまま、唇を噛んでドアを開ける。そこでは、救援に来たと思われる本部の隊員が数名、作業をしていた。その大半は、運搬していたコンテナのチェックを行っている。どうやらアンヴァラスは、運搬物には全く興味を示さなかったらしく、全くの無傷だったようだ。他には、横転した護送車や装甲車の撤去だったり、地面に落ちている銃器や弾薬の回収に、それと、それと……――。
涙で視界が
「あっ、あっ……誰、だれ、か……いま、せ……」
それは殆ど声にならなかった。何人かの作業員が一瞬こっちを一瞥するも、すぐに自分の作業に戻ってゆく。脚に力が入らなくて、とうとう私はその場に崩れ落ちる。泣かないように、声を殺すように努めたけれど、どうしても、涙を堪えることはできなかった。
そんな中、私を助けてくれた男は、現場の指揮を執っている責任者と思しき人物の所へ歩み寄ると、挑発的な態度で話始める。
「よぅ、随分早い到着だったな」
「……何故、貴方がたがここにいるのです? 本部の詰め所で待機している筈だったのでは?」
「退屈だったから散歩をしていたのさ。ここで会ったのは、ただの偶然ってやつだよ。それより、荷物は無事だったらしいな。助かったよ、これで俺たちの仕事が無くならずに済んだ」
「……ええまぁ。幸運でしたね」
「あぁ、良かった。化け物どもに荷物まで取られたって言われたんじゃ、手ぶらで帰る羽目になっていただろうから」
「そうはならないでしょう。あいつらの狙いは人間ですから、これの価値など理解できるとは思えませんが?」
「まぁ、それはそうだろう。だが、こういうことならどうだ。そう例えば、怪物にはこいつの価値が分かっていて、怪物に盗られたことにしちまおうって考える悪いやつがいる、とかな」
「……それは聞き捨てなりませんね。私たちがそう考えているとでも?」
「ちゃんとそう聞こえたか? 物分かりが良いじゃないか」
どうやら険悪な様子だけれど、今の私にそれを気に留めている余裕は無く、ただ地面で項垂れていることしかできなかった。
気が付くと、遅れてやってきた本部の隊員と思わしき人に何かをまくし立てるように言われた後、腕を掴まれて車に乗せられる。
あぁ、私は生き残ることができたんだ。いや、生き残ってしまった、と言うべきだろうか。生還の現実を受け止められないまま、私はただ引きずられるように、隊のみんなが散った荒野を後にした。
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