第22話 入浴剤の調合 2

レンジオの実 ランク:C


 メディが目をつけたのは村人の民家の庭にある木から採れた実だ。頭を下げたら、一つだけ譲って貰えて感謝している。

 酸っぱさが勝ってメディはあまり好まないが、これに含まれている成分に目をつけた。

 調合釜にレンジオの実をすりつぶして入れてから火にかける。少しずつ水を加えると、かすかに発泡した。これこそが薬湯に必要なものだとメディはガッツポーズだ。

 しかしメディはレンジオの実ではなく皮で一つ試す。皮を調合釜で粉末状にして、入浴剤の原料の一つとした。


「これで身体がポカポカ温まるはずです!」


 リラックスハーブティーにも使用されたオルゴム草でリラックス効果、レンジオの実の皮で保温効果、解毒効果があるグリーンハーブをほんの少し。

 レスの葉を乾燥させて粉末にして、仕上げにブルーハーブの魔力で効果をより引き上げる。すべて粉末にしたものを調合して、いよいよ出来上がった。


薬湯の入浴剤 ランク:C


「いろんな人が入浴することを考えるとこの辺りが限界ですねぇ」


 ランクが高くなれば効能は高まるが、不特定多数の肌に合わせることを考えると難易度は跳ね上がる。現にメディの汎用ポーションは今のところBだ。

 これだけでも聞く者が聞けば天才と評する。しかし今の素材ではこれが限界だった。

 更にレスの葉を湯に浮かべれば風情も効果もある。メディは今回の使用素材をまとめた。


薬名:薬湯の入浴剤 ランク:C

素材:ブルーハーブ

   グリーンハーブ

   レスの葉

   レンジオの皮

   オルゴム草

効果:保温効果、傷口の治癒、体内環境の改善が期待できる。


「これで村の人達の健康力がアップしますねぇー!」


 ポーションを初めとした薬ほどの効果はない。不特定多数に広く浅く効果を及ぼすだけで今はこれでよかった。

 大人から子どもが気持ちよく入浴できる場所ができるというだけで、メディは今から期待感でいっぱいだ。

 期待が高まりすぎて、入浴剤を持って外へ出た。


                * * *


「アイリーンさん! エルメダさん! 入浴剤の試作品ができました!」


 模擬戦の一区切りがついた二人にメディがはしゃいで報告する。相変わらずエルメダはまったく敵わない様子だ。

 メディのテンションが高く、アイリーンやエルメダも目を輝かせる。


「よし! さっそく試そう! 汗をかいてしまったからな!」

「入りましょう!」

「入ろうっ!」


 三人は一致団結するが風呂は狭い。アイリーンが住んでいる民家の風呂に向かって、さっそく風呂を焚いた。

 脱衣所にてメディとエルメダは沸くまで待っているが、アイリーンはすでに脱いでいる。


「さ、寒くないの?」

「問題ないぞ」

「さすが神から授かりし肉体……。見てるこっちが寒くなってくるぅ」


 エルメダはアイリーンから目を逸らすが、メディは相変わらず完璧な身体だと感心する。

 湯加減を確認したアイリーンが手を入れてから頷いた。


「ちょうどいいぞ」

「沸いた? よーし!」


 二人が入るには手狭だが、アイリーンに続いてエルメダも足を入れる。ところが間もなく悲鳴が響き渡った。


「あっつうううういぃぃぃーーーー! 熱湯じゃん!」

「そうか?」

「そうか? じゃなくて! 埋めて埋めてぇ!」

「さすがアイリーンさん!」

「感心するんじゃなくて!」


 これでは入浴剤どころの試作ではなく、メディは火を消す。

 アイリーンならマグマにも平然と浸かりそうだと、エルメダは足を冷ましながら考えた。


「ハーブから成分を抽出するならいい温度なんですけどねぇー」

「私の命が抽出されるところだったよ!」


 エルメダはまた一つ、アイリーンという生物の特異性を知った。

 湯加減を再び調整したところでメディが入浴剤を投入する。湯がエメラルド色に変化して、それだけで幻想的な仕上がりとなった。


「わぁ! 見た目もいいね!」

「湯もいいぞ。体が実に温まる」

「よーし……」


 エルメダが今度こそ入浴に成功した。二人は明らかに手狭ではあるが、身体の芯から温まる湯だ。

 メディは二人を見て、成功を確信した。心身ともにいい影響を及ぼしており、これだけで満足している。


「よかったです! これで大薬湯も完成ですねぇ!」

「メディ、お前もどうだ?」

「わ、私はいいですよぉ。狭いですし……」

「こんなにいい湯を二人だけで独占するのはもったいない。遠慮しなくていい」


 やがてメディも入浴を試みるがやはり狭い。

 遠慮しようとしたところで、メディがエルメダに手を引っ張られた。三人がすし詰め状態のようになり、入浴を楽しむどころではない。

 湯の心地もあったものではないが、メディにとっては初めての三人風呂である。


「狭いですけどぉ、悪くないですねぇ」

「でしょ?」

「でも狭いですねぇ……」


 ほぼ重なり合った状態でなんともカオスだが、メディとしては居心地は悪くなかった。

 今は狭いが大浴場が完成すれば、広々と皆で入ることができる。メディは大浴場の完成がより待ち遠しくなった。

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