第21話 入浴剤の調合 1

 村の入浴事情はそれほど良くない。民家の外に設置された風呂に村共同の給水所から引いた水を入れて薪で温める。

 本格的な冬場になると凍結の恐れがあるため、村人が給水所を当番制で管理していた。

 アイリーンとエルメダが住んでいる元空き家にも風呂の設備はあるが、何せ民家の外だ。風呂で温まっているうちはいいが上がると寒い。

 本格的な冬場になると身も凍るほどとなるため、入浴も命がけだった。

 

「そんなに寒いか?」

「アイリーンさんは特別製だから! だから体が温まる薬湯が必要なの!」


 アイリーン以外、満場一致で薬湯を必要としていた。

 村長の家に赴いて話せば興奮してメディの手を握る。


「新たな村興しになるかもしれん! 資金は惜しまんぞ!」

「村興しですか?」

「そうだ! それも大浴場!」

「だいよくじょー!?」


 巨大な共同風呂だ。その文化を知らなかったメディは驚愕する。

 不特定多数と一緒に風呂に入ると考えると、さすがにすぐには受け入れがたいものがあった。


「人が集まれば、この村も活性化する。不便なことも減るじゃろうて」

「なるほどっ!」


 村長の一言でメディは一瞬で受け入れた。次の問題は人員だが、これは意外と早く解決する。


「姉御! オレ達に任せてください!」

「気合い入った風呂をガンガン沸かしますぜ!」

「文句つけてくる奴がいたら秒で殺しますわ!」


 アンデ、ポント、ウタンの三人が秒で快諾する。メディは笑顔で彼らに任せた。

 人員が揃って村長の許可が得れらたところで、メディは奔走する。薬湯の建物の建築計画を練るために大工のオーラスと相談。

 村人の年長者を集めて、綿密に計画を練った。薬湯計画はたった一日で村中に広まる。

 大人はもちろん、子どもにとっては未知の秘境のようなものだ。広い風呂ができるというだけでワクワクが止まらない。

 メディは奔走した。不特定多数が入る湯であれば、相手の身体に合わせたポーションの調合とはわけが違う。

 メディの薬屋で売られている汎用ポーションは老若男女、誰でも飲める。

 それと同じ要領で老若男女の身体を刺激せず、ゆったりと気持ちよく浸かることができる湯にする必要があった。


                * * *


「さーて!」


 まず魔力水は使えない。大量に用意できない上にコストがかかりすぎる。

 そうなると通常の水をベースとしなければいけない。


村の地下水 ランク:B


「水は良好です」


 幸い水に恵まれているのはメディにとって大きな助けだ。その上で薬湯をこれから考えていく。ただの湯に素材を入れただけでは効果は薄い。

 保温性を考慮して、メディはレッドハーブを選定した。アイリーンに持たせたフィジカルポーションにも使われている素材だ。

 より効果があって老若男女になじむ薬湯。口で言うほど優しくないと、さすがのメディも頭を抱えた。しかしそれもまた楽しい。

 一度、調合作業に入ると食事もとらずに没頭してしまうほどだ。


レッドハーブ ランク:B

レスの葉 ランク:C


「レスの葉も欠かせません」


 アイリーン経由で手に入るレスの葉も使用候補だ。


ブルーハーブ:B


「効果をより浸透させるにはブルーハーブの魔力の助けが必要です」


 魔導士でなくとも、人間の身体は微弱な魔力を保有している。魔力を通じて体に効果を浸透させるのは、通常のポーションと同じだ。

 フィジカルポーションの要領であればレッドハーブは欠かせないため、メディは一つ試してみることにした。


「沸騰させてからレッドハーブの成分を抽出!」


 調合釜に二つのハーブを入れて煮詰めた。湯に溶けだして出来たものは――。


体力の水 ランク:B


「疲労回復の効果一つ!」


 メディは入浴剤のようなものを考えていた。それならば予めメディが用意しておけば、後は誰が湯に投入しても同じ効果が得られる。

 体力の水で満足するメディではない。


「体力の水、液体もいいですが……」


 一から練り直しだとばかりにメディは体力の水を見つめ直す。液体ベースの他には粉末状も考えていた。

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