第18話 魔導士エルメダの覚醒
訓練開始の初日の時点でエルメダは己の変化に驚いた。魔法発動までにラグが一切なく、思い通りのタイミングで放てる。
放つ際の引っかかりがない。ただし高威力は健在だ。ハンターウルフの群れごと山の一部を爆破した際には、また悲観しかける。
メディとしては魔法の指導は行えないので見守るだけだ。仕事の合間を見てメディはここ数日間、エルメダの特訓を見届けていた。
「私の魔法は冒険者に向かないかもね。魔物ごと消滅させたら皮とか牙の素材ごと台無しだもん」
「エルメダさんの魔法は爆破だけなんですか?」
「それしか出来ないよ」
「制御できるようになれば、もっといろいろできるかもしれません」
魔法に関しては素人のメディの発言だ。そんな簡単にうまくいくわけがないと心の中で悪態をつくも、他ならぬメディの意見でもある。
グッと気合いを入れて今一度、魔法の発動を試みた。その対象は迫る猪の魔物バーストボアだ。突進と同時に爆破を引き起こす危険な魔物として知られている。
「バーストッ!」
エルメダが試みたのは爆破ではない。一直線に迫るバーストボアを見て思いついたのだ。
威力を限りなく圧縮して、バーストボアのように一点集中できればと考えた。そのイメージの結果、ブラストという爆破とは異なる結果を引き起こす。
エルメダの魔法は赤と黄が混ざり合う一筋の光線となった。バーストボアの鼻っ柱から尻まで貫く。
丸い空洞を作ったバーストボアの胴体は顔面ごとぶち抜かれて、活動を停止して倒れた。
「あ、あれ。今のいい感じじゃない?」
「すごいですねぇ! 爆破じゃないですよ!」
「全然バーストじゃないね……。でも今までこんなこと出来なかった」
エルメダは自身の両手を見る。体内の魔力の流れがよくわかるのだ。
限界まで溜まって身動きが取れなかった魔力が体中に巡って少しずつ放出されていた。
それがたまらなく心地いい。魔導士であれば当たり前のように実感できるのだが、エルメダは世界が変わったとすら思った。
今、彼女はようやく自分を魔道士だと自覚できている。
「今の魔法を
「いいですね! 一度にたくさん撃てたらもっとすごいと思います!」
「さらっとすごい事を思いつくね……」
今までのエルメダであれば諦めていた。しかし今なら、とエルメダは片手を空に向ける。
指の一本にまで魔力を巡らせて、
「……なんかできた」
「拡散
「これを魔法と言い切っていいのか不安になってきた。でも、まだもう少し行けそうな気がする」
エルメダは遠方にいるハンターウルフに目をつけた。まだこちらには気づいていない。
木々に阻まれていているが、だからこそエルメダは試したくなった。より集中して魔力を感じる。
エルメダの指から放たれた
「はぇ!? なんですかーー!」
「慣れたらこんな事も出来るみたい。
「やっぱりエルメダさんはすごい魔導士でしたね」
「い、いや。まぁ、メディのおかげだからね。あなたほどの薬師がまさかこんな辺境にいるなんてね」
「それはいろいろあったのでー……」
メディが言い淀んだのを見て、エルメダは追及しなかった。その際にほんの少しだけ悲しげな表情を見せたのを見逃さない。
エルメダにとってメディは恩人だ。その恩人、しかも凄腕の薬師を辺境に追い込んだ何かがある。
勝手な憶測であっても、エルメダは見えない何かにかすかな憤りを感じた。
「メディ、あのさ。私って今回、すごいお世話になったでしょ。だからさ……なんか悩みとかあったら相談に乗るよ」
「え? エルメダさん、この村にいてくれるんですか?」
「うん、どこにも行く当てなんかないからね。それに数日だけど、この村ってすごく和むんだよね。皆、優しくて居心地がいいんだ」
「わかります! 村長さんやブランさん、ポールさん、オーラスさん。親切ですよねぇ!」
エルメダはこの村を離れたくなかった。行く当てがないというのは本当であるが、ここにはメディがいる。
薬師メディの特異性が気になって仕方がないのだ。ここから離れてしまうのはあまりにもったいない。
それは経済的事情よりも優先してしまうほどであった。
――――――――――――――――あとがき――――――――――――
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