第15話 皆殺しの魔導士と呼ばれた少女
「お前、なんてことしてくれたんだ!」
パーティメンバーが口々に一人の少女を非難している。仲間の一人が腕を抑えて血を流していた。
討伐戦の際に魔導士である少女は奮起して、魔物を一網打尽にしようと狙い撃つ。しかしその際に威力が大きすぎた。
仲間の一人を巻き込んでしまい、少女は何も出来ずに愕然としている。
「お前の魔法は威力が高すぎるんだよ! 撃つタイミングを考えろって言っただろ!」
「ご、ごめんなさい……」
「もういい! どうせ回復魔法も使えないんだ! お前とは今日限りだ!」
「そ、そんな! 待って! チャンスを……」
少女が近寄ろうとした時、リーダーに突き飛ばされる。強い拒絶を受けた少女はへたり込んだ。
仲間の治癒師が怪我をしたメンバーを回復する光景を見守ることしかできない。
その際に治癒師は仲間達から賞賛された。助かった者も礼を言っている。
「あの、私……」
「エルフってのは面倒だよな。魔力が高すぎてオレ達、人間とは相容れない」
違う。そうじゃない。悪いのはエルフじゃなくて自分だ。そう声に出したかったが少女の喉から何も出ない。
そんな少女を軽蔑するかのように、リーダーは一瞥してから背中を見せて去っていく。
「待って!」
「今まで危なっかしい場面は多々あった。それでもオレ達は許容していた。でも、今回のは決定的だ」
「今度こそうまくやるから!」
「お前を入れるくらいなら、きちんとした魔導士を誘うよ。もちろんエルフじゃなくて人間のな」
差別的なリーダーの発言に少女はまた失望する。
パーティに加入した際には笑顔で歓迎してくれて優しかったリーダーの豹変ぶりに、ついに涙を流す。
その際に少女を揶揄する『皆殺しの魔導士』という言葉が耳に届いてしまった。仲間の誰かが言ったのだ。
自分との対比であるかのように、治癒師が持て囃されているのが嫌でも目に焼き付く。
少女は回復魔法が使えない。使えるのは攻撃魔法のみだ。しかし今、歓迎されているのは敵を攻撃するよりも味方を癒やす治癒師。
去り行く仲間の後ろ姿を見て、少女は膝をついたまま考えた。
「どこか……遠くへ行こう」
そこで静かに暮らそう。自分の魔法は誰にも必要とされていない。人を傷つけて軽蔑されるだけだ。
項垂れたまま立ち上がり、少女も歩む。その足取りは魔導列車が発着する駅へと向いている。
到着した魔導列車に乗り込む際、少女の中に一つの願いが思い浮かんだ。
「私にも……人を癒やすことが出来たらよかったのに」
少女を乗せた魔導列車が動き出す。向かう先は寒冷地として知られる地方だった。
* * *
「いらっしゃいませ! お薬、出し……」
「ここが薬屋って本当!?」
カウンター越しに迫られたメディが引く。来店した少女は鬼気迫る表情だった。
色白の肌、銀の髪を一つ結びにしている少女の最大の特徴は尖った耳だ。メディも初めて見る。
少女がエルフだと理解しても、まさかこんな辺境の地にやってくるとは思わなかった。
「い、いらっしゃいませ。お薬」
「やり直さなくていいから! それより薬がほしいの!」
「お客様の薬ですか? 至って健康体ですし」
「私じゃなくて相手! 相手が怪我した時のための薬!」
話が見えず、メディは困惑した。店を続けていると珍妙な客が来るが、メディの接客歴は浅い。
アイリーンからは知名度が上がるとクレーマーも増えると聞いている。そんな時はすぐに呼べというが、物騒な方法で解決するには早計だ。
メディは今一度、エルフの少女を見つめる。エルフといえど、基本的に人間と体の構造はほぼ変わらない。
ただし保有する魔力が桁違いだ。魔力に恵まれないメディでも、目の前にいるエルフの少女の異質さが理解できた。
「怪我した相手とは?」
「私が魔法を使うでしょ。誰かが怪我するでしょ。だったら薬があれば治るよね?」
「な、治りますけどぉ。治したい相手はどちらに?」
「今はいないよ」
「はい?」
要領を得ない会話が続く。さすがのメディもすっかり困り顔だ。
「私が魔法を使うと誰かが巻き込まれる。でも薬があれば治せるよね」
「巻き込まなければいいのでは……」
「巻き込んじゃうの! 私の魔法、威力が高すぎるから……」
「ははぁ、なるほどなるほど」
「というわけで、お薬をお願い」
どこかずれた少女の提案をメディは受け入れることが出来なかった。もちろんここは薬屋なので、薬を要求されたら売るしかない。
しかし買い手は健康そのものな上に怪我人はどこにもいない。怪我人が出る前提の言い回しが気に入らなかった。
とはいえ、メディにとっては来店した時点で客には違いない。慎重に話すことにした。
「威力は抑えられないんですか?」
「ダメダメ……。何度やってもダメ。ついたあだ名が『皆殺しの魔導士』……」
「皆殺しですかぁ……」
話している間にも、メディは少女を観察した。体に異常はない。少し栄養の偏りが見られるものの、許容範囲だ。
魔力を完全に感じることが出来ないメディでも、少女には違和感がある。魔道士であれば故意でもない限り、体中に靄がかかって見えるのだ。
この靄が魔力であるが、メディにはその程度でしか感じ取れない。少女は魔法が使えるにも関わらず、靄が一切なかった。
そしてメディは思う。味方を巻き込むほどの魔法ならば薬どころではないはず、と。
「それにね……。なんだかこうしてると抑えられないんだ。こう……欲が……」
「欲?」
「魔法を放ちたくてたまらなくなる……あぁ、私の腕が震えるっ! 静まれ! 私の腕!」
「し、静まってください!」
メディも一緒になって少女の腕を抑える。特に効果はないのだが、少女は呼吸を整えて落ち着いた様子を見せた。
「はぁ……はぁ……。ね?」
「ね、と言われましても……」
「だから薬が必要なの。ポーションをいくつかちょうだい」
「汎用ポーションならあります。これなら誰が飲んでも一定の効果が見込めます」
「じゃあ、それをお願い」
客が欲しいといえば売る。ただしメディはやはり納得していない。根本的な解決になってないからだ。
そして少女の今の挙動で、おおよその原因に見当がついていた。魔力や魔法の知識がなくとも、人体には精通している。
それを確かめるためにポーションを渡した後、一つ思いついた。
「あの、一つだけお願いできますか?」
「え、客の私に?」
「は、はい。あなたがそうなっている原因を特定するためにやってほしいことがあるのです」
「ま、まさかわかっちゃったの?」
「まだ断定はできません」
メディは一つのポーションを差し出した。
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