第7話 山の中へ薬を届ける
「メディ。至急、薬を頼む」
「何かあったんですか?」
アイリーンの隣には先日、彼女に絡んだ男達の中にいた者がいる。細い体型の男は息を切らして涙目だ。
男の話によれば、仲間の二人が怪我をして山から出られなくなっていた。身軽で小回りが利く細身の男が山を下りて助けを求めに来た。
「なんかやべぇ魔物がいてよ! 二人は動けないし、早く薬を頼む!」
「あなたも怪我をされてますね。これをどうぞ」
「オレよりもあいつらを!」
「まずはあなたですよ! お薬、出します!」
ピシャリと言い切ったメディが塗り薬を渡す。渋々、男は指定された箇所に塗っていくと自身の身体を確認し始めた。
鈍く響く腕や足の痛みが引いていったのだ。その痛みを我慢して下山した男だったが、痛みが引いてようやく自身の危うい状態を再認識した。
「す、すげぇ……何の痛みもない」
「この村で狩人をやっていた人にも処方した薬です。お二人が取り残された場所はどこです?」
「待て、メディ。まさかお前も行くのか?」
「当たり前ですよ、アイリーンさん。あの二人の体質や怪我の具合いによって処方する薬も変わります。現地で調合しますよ」
メディは手際よく支度を始めた。アイリーンの許可など求めていない。
呆れたアイリーンはメディに対して危機感を持った。山を甘く見ると、男の仲間の二の舞だ。
メディは魔物の事など考えずに、そこに怪我人がいれば向かおうとする。そういう子だとわかっていても呆れた。
「山には魔物がいる。危険だからここで待っていろ。薬は私が持っていく」
「嫌です。アイリーンさんが止めても、私一人で行きます」
「お前を守らないと言ってもか?」
「はい」
一瞬の躊躇もないメディの返事だった。アイリーンはメディが自分を当てにしているのではないかと邪推したのだ。
メディの同行を認めていて、そのつもりだったが彼女としては試したかった。何か策があるのか、それともただの無謀か。
支度を整えたメディが男を催促して走り出す。
「待て、メディ。私も当然、同行する」
「感謝です!」
「まったく……」
驚異的な手際で支度をしたメディの姿を見て、アイリーンには疑問があった。
薬師は戦闘職とは言い難く、冒険者も間違いなく選択しない職業だ。もっぱら治癒師が歓迎されるため、アイリーンとしては不安がある。
* * *
「日が落ちる前に何とかするぞ。おい、男。名前は?」
「お、オレはアンデだ。仲間の二人はポントとウタン」
男の案内により、スムーズに歩が進む。アイリーンはちらりとメディを見たが、驚くほど軽快な足運びだった。
とても山歩きが初めての動きではない。アイリーンやアンデに後れを取ることなくついてきている。
ここで足手まといになるようであれば、アイリーンは本気で帰すつもりだった。
「メディ。この村に来る時は護衛を雇ったのか?」
「いえ、そんなお金もありませんし一人ですよ」
「魔物はどうした?」
「逃げたり隠れたり、どうしてもダメなら秘密武器がありますから」
アイリーンの中でよくない好奇心が頭をもたげる。メディをもっと知りたくなったのだ。
薬師は昔であれば冒険者パーティにいたと聞いている。しかし、戦闘においてどのように貢献していてかまではわからない。
もしメディがパーティの薬師としての動きを見せてくれるのなら、と魔物の出現を期待していた。
「すまねぇ、二人とも……」
「ん?」
「アイリーン、あんたに絡んじまったよな。悪かったよ」
「気にするなとは言わないし、私もお前達にいい印象は持ってない」
「そ、そうか」
それとこれとは別だとアイリーンは切り分けて考えている。必死に助けを求めるアンデを信じてみたくなったのだ。
粗暴なチンピラと思っていたが、仲間を思う気持ちがある。それならばまだ人間ではないか、と。
「オレ達、冒険者になったのにあまり成果を上げられなくてさ。いっそ何もかも忘れて旅に出ようってんで、こんなところに来ちまったんだ」
「私もだ」
「あ、あんたも?」
「私もなんです!」
メディが手をあげる。アイリーンは可笑しくなった。なぜ同じ場所に似たものが流れ着いてしまったのか。
この偶然が必然だったりするのかと、アイリーンは根拠もないことを考えてしまった。その根底にあるのはメディの存在だ。
この小さな体に秘められた薬の知識と技術は、こんな辺境で持て余すべきではないとすら思わせてくれたのだから。
「む、何か来るな」
アイリーンが感じ取ったのは魔物の気配だ。アンデは身震いするも、武器を構える。
メディはバッグの中から、とあるアイテムを取り出していた。
――――――――――――――――あとがき――――――――――――
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