(104)トイレの怪異は特殊性癖
~紗彩目線~
「とりあえず俺が入ってみますので、二人はここで待っていてください」
「え、危険ですよ!」
主に相手の怪異が。
オズワルドさんの言葉に、私は驚きながらも言った。
いや、心配はしている。
でも今までの経験から、彼らを襲った場合一番危険なのは怪異だ。
扉は斬られた。
落ち武者は首を斬り落とされた。
テケテケにおいては野球の球のよう問答無用で吹っ飛ばされたあげく、『某キッチンに出没する真っ黒な悪魔』扱いされた。
唯一無事だったのは、山姥(?)のお婆ちゃんだぞ?
いや、さすがにお婆ちゃんが前例のメンバーのようにならなくて良かったとは思うけど。
とりあえず、もうこの空間において二人の心配はしなくてもいいのではないだろうかと思い始めている。
とにかく、今は私が他の二人の迷惑にならないようにしなければとしか思っていない。
剣の鞘に手をかけて、広めの個室に入っていくオズワルドさん。
明らかに姿勢からして、トイレに入るような姿勢ではない気がする。
「やられると思ったか!?」
「大丈夫か!?」
「オズワルドさん!」
しばらく時間がたったと思った瞬間、トイレからオズワルドさんの大きな声が聞こえ思わずレオンさんと共にトイレに近寄る。
警戒しながらトイレを見ていれば、扉が開いてヒョッコリとオズワルドさんが顔を出した。
「問題ありません。赤い紙だが青い紙だかを欲しいかと言われて襲われましたので斬り伏せただけです」
オズワルドさんの言葉に、私はなんとなく合点がいった。
あ、この人襲われたから落ち武者と同じように斬ったんだ__と。
赤い紙・青い紙を欲しいかというのは、学校の七不思議によく出てくる『赤い紙・青い紙』のことだろう。
「? 置いてあるのは、白い紙だろ? 赤も青もないだろう」
首を傾げ不思議そうな表情を浮かべているレオンさん。
そんな彼に、オズワルドさんもまた同じように首を傾げ不思議そうな表情を浮かべていた。
「そんなの知りませんよ。俺は、聞かれただけですから。ですが、なぜあんな場所から出てきたのでしょう?あんな場所では、下手したら汚物をかぶるでしょうし?」
オズワルドさんの話では、便器の中から出てきた怪異を斬り伏せたらしい。
その話を聞いて私も思ってしまった。
怪異さん、なんでよりによってそんなところから出てきたんですか?
ただでさえ、この人たちはちょっと怪異に対して斜め上の目線で見ているというのに。
変なこと言われても、私は怪異のフォローなんてできませんけど。
私がそう思っていると、何かを察したのかレオンさんが苦虫を数百匹ほど嚙みつぶしたような表情を浮かべた。
「そういうことに、興奮する質なんだろう。世の中、いろいろな奴がいる」
「なるほど…………別にどんな性癖も悪くは言いませんが、周囲の人間に迷惑をかけるのは騎士団に捕まるだけなのですけどね」
「きっと、それだけ我慢できなかったんだろう」
「それもそれで哀れですね。俺ではなく、そういうこと専門の者たちであれば相手をしたのでしょうが」
心底哀れだ、と言いたげな声音で話すレオンさんとオズワルドさん。
個人的に言わせてもらえば、たぶん怪異に性癖なんてものはないと思う。
ただ元の世界でも噂を聞くだけで、どこから襲ってくるとかは知らなかったけど。
でも、断じてそんなちょっと変わった性癖はしていないと思う。
だって、『赤い紙・青い紙』は最終的に遭遇した人間を殺すはずだし。
少なくとももし特殊性癖があるとすれば、人間の汚物に興奮するというよりは人間の死体に興奮するんじゃないかと思う。
「うーん、そうだな…………ああ、サーヤ。早く行くぞ。こんな所にいても、教育に悪いだけだからな」
「そうですね」
美味しくもなく不味くもないもの食べたような微妙な表情を浮かべている二人にそう促され、私達はトイレから出ることになった。
とりあえず、心の中で特殊性癖持ちの変態扱いされた怪異に対して謝罪だけはしておこうと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます