(103)鏡の中からは遠慮する

~紗綾目線~



 キッチンから離れた私達は、また暗い廊下を歩いていく。

 廊下を歩いていれば、少しずつ暗さに慣れてきたのか見えずらかったところも見えるようになった。



「この空間内から出る方法は、『魂状態の異空間の主を捕まえること』なんですよね?透明になっているかもしれない相手をどうやって見つけるんですか?」



 ふと思ったことをレオンさんに聞く。


 レオンさんの話だと、侵入者の個有スキルのデメリットは、『自分も魂の状態で異空間内を彷徨う』こと。

 そしてこの空間内から出るには、『魂状態の異空間の主を捕まえる』こと。


 つまり、この空間内のどこかにいる侵入者を見つけなければいけない。


 魂の状態ってことは、体がない。

 なら、元の世界で心霊現象で出るという幽霊のように透明なんだろうか?


 というか、魂の状態ってどんな感じだ?

 体の大きさのままなのか?

 それとも、火の玉のような感じなのだろうか?


 そう思っていると、レオンさんは首を傾げた。



「…………匂い?」

「魂の状態って、匂いってあるんですか?」

「う~ん」



 レオンさんの答えに思わず聞き返せば、答えた本人であるレオンさんもまた首をかしげていた。

 …………とりあえず、使えそうな道具はいつでも取り出せるようにしておこう。


 そう思いながらカバンの中をゴソゴソとしていると、大きなトイレの前に来た。


 本部の中のトイレは基本同じ獣人でも身長がバラバラなせいか、大小さまざまの大きさがある。

 私が使えるのもあれば、ジョゼフさんが使える大きなものもある。


 とは言っても、形状は普通の家にあるような女性用の座ることができるトイレだけど。


 これを知った時には、非常に安心した。

 だって、女ですし。



 トイレの中を覗き込めば、普段とは違い暗いせいか非常に不気味に思う。

 例えるのなら、夜の学校のトイレのような感じだ。


 トイレに出てくる怪異と言うと、よく聞くのは『赤い紙、青い紙』だ。

 確か、どちらの色を選ぶかによって死に方が変わるんだっけ?


 あとは、鏡か。

 異世界に行くとか、鏡の中に連れ去られるとか合わせ鏡とか。


 まあ、私にとってはここも異世界なんだけど。



「…………」

「どうした?」

「いえ、『鏡には異世界に繋がる』とか『鏡から腕が出てきて引きずり込まれる』というエピソードがあったなと思って」



 考え込んでいるとレオンさんに話しかけられたからそう言えば、レオンさんとオズワルドさんは鏡を警戒したような表情で観察し始める。



「鏡か。一応取り外しはできるが、どうする?」



 オズワルドさんに聞かれ、考え込む。


 今までの状況から、どちらにしてもこの空間には怪異は出現する。

 もし鏡の中に怪異がいた場合、下手に引き込まれて味方を減らされる可能性がある。


 それを考えると、あの鏡を取り外した方がいい。


 でも、取り外した後は?

 もし取り外してどこかに置いても、それが元に戻ったら?


 改めてカバンの中を漁っていると、とあるものを見つけたことで解決方法を思いついた。



「取り外しときましょう」

「取り外すが、どうするんだ?」

「私に案があります」



 私がそう言えば、レオンさんが首をかしげながら言う。

 オズワルドさんが慎重に鏡を取り外している中、私はカバンの中からあるものを取り出しながらレオンさんに言う。

 取り出したのは、丸いコンパクトな箱だ。


 鏡の顔が映る面を、全面に白いべたつく液体を塗りつぶしていく。

 そしてトイレの中にあったもう一つの鏡の映る面をその上において、体重をかけてそれが完全に固まるまで待った。



「なるほどな。強度の高い接着剤を使って、顔が映る面同士を張り付けて使えなくするのか」



 私がグッグッと鏡の裏側を押していると、オズワルドさんが納得したように言った。


 私がつけた白いべたつく液体は、私が作った『瞬間接着剤もどき』だ。

 この世界には普通の接着剤は会ったけど、瞬間接着剤はなかったから作った。


 といっても、人についたら危ないから物にしか固まらないようにしているけど。



「確かに、これなら腕が出てきても直接は掴まれなくてすむな」



 完全に固まったのを見て、オズワルドさんに鏡(元)を邪魔にならないところに置いてもらう。



 …………さて。





 次に私達が見たのは、トイレの中にある個室の部屋だった。



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