(66)vs誘拐犯⑤

~紗彩目線~



 さてと、とりあえず今までの情報を思い出そう。


 そう考えて、周りを警戒しながら歩きだす。


 誘拐事件が起こって、その中には指名手配犯もいる。

 指名手配犯は、全員で五人。

 A級が三名とB級が一名とC級が一名。


 確か、この中で一番厄介なのがA級。


 本部に侵入したあの誘拐犯は、指名手配犯なのだろうか?

 指名手配犯じゃない可能性もあるけど、その可能性も考えておいた方がいいよね?


 そして、今一番の問題が騎士たちだ。

 犬耳の騎士たちは、ブザーの音を聞いて出ていった。

 あのブザーの音は、誘拐犯が侵入したから鳴り響いたんだろう。


 そうなると、騎士たちはあの誘拐犯と対峙したのだろうか?

 いや、でも本部の中はかなり広い。

 もしかしたら、すれ違った可能性もある。



 でももし彼らが対峙したのであれば、彼らが戻ってこずに誘拐犯が本部の中を歩き回っていることになる。


 そう考えると、浮かんでくるのは二つ。

 誘拐犯が彼らの追撃から逃げたのか。

 もしくは、あの誘拐犯は騎士たちを撃退してきたのか。


 非常に嫌だけど、後者の可能性の方が高い。

 誘拐犯が来たとき、彼の声音からして苛立ちはあったけれど焦りはなかった。


 ということは、騎士たちが追ってこないことを知っていることになる。

 そうなると、彼が騎士たちを倒したことになる。

 彼が騎士たちを倒せば彼らが追ってこないことを知っていて当然だ。


 でも、そうなると相手の実力も予想できてくる。

 C級は、明らかにない。

 C級は、彼らの実力なら問題なく制圧できるらしいし。

 

 そうなると、B級かA級になる。

 でも、向かった人数的に考えればB級に勝てる可能性は低そう。

 そうなると、A級?



 そう考えていると、ツンッとした鉄臭いにおいが鼻をさした。

 嗅ぎなれた鉄臭いにおい__血のにおいだ。



 慎重に前へ進み、角を曲がれば__




 ____そこに倒れていたのは数十分前、私に対して大丈夫だと元気づけていた騎士たちだった。


 一瞬、何がどうなっているのかわからず止まってしまった。

 ピクリとも動かない彼ら。

 赤黒く汚れている軍服の襟。


 まさか、首を斬られたのだろうか?


 そう思いながらも近づいてよく見てみれば、彼らは首を斬られているわけではなかった。

 どうやら頭を強く殴られたようで、その時に出血した血が襟についたようだった。


 彼の口元に手のひらを伸ばせば、私の手のひらに生暖かい空気がふれた。

 息をしている…………ということは意識を失っているってこと。

 なら、まだ間に合う。


 周りを見回せば、あの場から出ていったメンバーは全員いるようだ。

 その全員を見て回れば、全員頭を負傷して気を失っていた。


 まだ、間に合うのなら何とか助けなければ。

 とはいっても、専門家じゃないからネットで得た知識程度しかない。

 …………とりあえず、止血しておけばいいのだろうか?



 なんとか、昔見たネットの記事を思い出す。


 たしか、清潔なタオルなどで傷口に押し当てて、頭を心臓よりも高くするんだったけ?

 とは言っても、止血するにしても清潔なタオルなんて近くにはない。


 何より仮に止血できたとしても、誘拐犯がここを通った時に止血してあるのが見つかって今よりも余計に酷いケガを負わされるかもしれないし。

 そう考えると、やっぱり彼らをどこかに隠した方がいいだろう。


 幸い、近くには部屋もある。

 なんとか、そこまで引きずっていくしかない。




 なんとか気を失っている騎士たちを運び終わり、部屋の中で一息ついた。


 私が彼らを運び込んだ部屋は、洗濯物などを置いておく部屋だった。

 中には、真新しい袋の中に入った新品のタオルも入っていた。

 運がいいと思いながら、彼らの止血に使っていく。



 とりあえず血で汚れたタオルは私が洗うとして、問題は彼らの怪我だ。


 頭は出血しやすいらしいし、ネットで書いてあったように出血している頭を心臓よりも高い位置にした方がいいんだろう。


 でも、そうするには材料がない。

 おかれていた布や服を折りたたんで枕にしても、人数的には足りない。



 やっぱり、枕にできる物を他の所から探してこないといけない。

 枕の代わり…………手当ての道具とかも考えるとやっぱり医務室?


 とはいっても、今誘拐犯がどこにいるのかがわからない。

 音の方向と音の大きさ的にまだ距離はあるようだけど、医務室があるのは音が聞こえた方向。


 つまり、医務室に行こうとするとどうしても誘拐犯がいるかもしれない道を通らなければいけない。


 カバンの中にある治療に使えそうなものはもう使ってしまったし、やっぱりどうあっても医務室にはいかなければいけない。

 でも危険なことだと考えると、時間はかかるけど遠回りの道の方に進む?

 危険度的には、まだ遠回りの道を使った方が安全でもあるけど…………うん、そうしよう。



 ドアを開け廊下に出ると、廊下はシンッとしていた。

 いつも人が歩いて居る光景を見てきたから、まだここにいて二週間なのに違和感を感じてしまう。


 そう考えると、意外に私もなじんでいたことに驚いてしまった。


 音を立てないように気を付けながら早歩きで前へ進む。


 耳を澄ましながら周りの音を聞くけれど、何も音は聞こえてこない。

 あの時の暴れているような音も聞こえてこない。

 足音も。

 それどころか、人の気配すらしない。


 シンッとしすぎて、逆にその沈黙がいたい。

 何も音がしないと、こんなに不安になるものなんだ。


 そういえば、人間は五感の一つを封じられてしまうと他が過敏になるらしい。

 ネットの動画で見たことがある。


 たしか、実験のアニメだった。

 音がない部屋の中に人が閉じ込められていて、だんだん閉じ込められている人が不安になっていくという実験を描いたアニメ。

 見ていてすごく不快になったから、よく覚えている。

 確か、最終的に自分が生きているのかと疑問に思って自傷行為をするんだったっけ?

 見ていて、悪趣味だと思った。


 …………確かに、何も音が聞こえないって言うのは不安になる。

 こんなふうに何かを考えていないと、怖くなって叫びそうになる。

 でも、叫んだら危険になるのはこっちだし。



 そう思いながらとある部屋の前を通ると、バンッと大きな音を立てて扉があいた。



「!?」






 思わず叫びそうになると、口をふさがれてそのまま部屋の中に引きずり込まれた。



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