(65)vs誘拐犯④
~紗彩目線~
しばらく歩いていると、見覚えのある部屋の前に来た。
私が最近使っている【自習部屋】だ。
もともと、この部屋は保護した子供たち用の物を置く部屋だったらしい。
実際に今は騎士団所属となっているメンバーが使っていた物は残っていて、快く貸してくれるため私も使っている。
結構いろいろな種類の絵本なども残っていたり、子供用の見やすい地図や図鑑なども残っている。
確かここを使っていた騎士たち曰く、ここら一帯の地図もここにあるらしい。
なんとか、それを使えないかな?
そう思いながら部屋の中に入る。
明かりをつけずに、本棚を探れば少し汚れた地図が出てきた。
子供用の、所々わかりやすいマークが記入されている。
これなら__
「ねぇ、僕。この町に行って、騎士さんを呼んできてくれないかな?」
「え?」
地図に書いてある近くの大きな町を指さしながら男の子に言えば、男の子は驚いた表情で私に言ってきた。
「なにいってるの?おねぇちゃんも」
私の服を握り、涙をためながら言う男の子。
とはいっても、ずっとこのまま男の子を連れて逃げ回るわけにもいかなくなってしまった。
遠くから、暴れるような何かを壊すような音が近づいてくる。
誘拐犯が、仕掛けたトラップに気づいてしまったんだろう。
幸い、この【自習部屋】の近くには【隠し通路】がある。
【隠し通路】って言うのは、本部の中にいくつかある『もしも』が起きた時用の避難経路のようなものだ。
とりわけ、【自習部屋】の近くにある【隠し通路】は一番障害物が多くて一番町に近い。
隠れながら町の方に安全に行って助けを呼べる可能性は大きい。
それに、音の大きさからだいたいの距離は計算できる。
誘拐犯がいる場所を予測すれば、あの避難経路の場所はちょうど陰になって見つからない。
まさか、ここで科学で習った知識が役に立つとは思わなかった。
真剣に受けておいてよかった。
「私は、あの怖いおじさんと追いかけっこする。ここなら、あの怖いおじさんからは見えない」
「でも、おねぇちゃんだいじょうぶなの?」
「大丈夫。最悪、人体の急所に何かぶつけるから」
「おねぇちゃん、つよーい」
【隠し通路】の入り口に向かいながら、そんな会話をする。
最悪、人体の急所をついてその隙に逃げ出す。
人体の急所は、かなり多い。
誘拐犯の身長的に、上半身もなんとかすればうまくあてられる。
でも、誘拐犯には一度唐辛子で目つぶしをした。
警戒されるかもしれないし、今度は遠距離から胴体や足を狙うか。
うん、頑張ろう。
女は度胸って言うし。
「町まで行けば、見回りの騎士さんがいると思う。その騎士さんに、怖いおじさんが『待て、殺すぞ』って言いながら追いかけてきたって言えばいいよ」
「わかった」
【隠し通路】の入り口の前につき、男の子に言う。
男の子の年齢的に、いたずらだと思われる可能性がある。
でも今はシヴァさんたちがいるし、子供が「殺すぞ」なんて物騒な言葉を使っていればいたずらではなく本当の事だと信じてもらえるかもしれない。
「いい?あの木の間を通っていくんだよ?何か変な音が聞こえたら、すぐに隠れるんだよ?」
「うん」
【隠し通路】の入り口を開け、見えてくる木々の間を指さしながら注意する。
できる限り音を立てず、すばやく移動すること。
自分の音以外が聞こえたら、すぐに隠れること。
絶対に地図のとおりに行くこと。
まあ、足音に関しては問題ないと思うけど。
今まで行動していたけど、この子の足音は全く聞こえてこなかった。
たぶん、獣人は子供でもあまり足音を立てないような動き方をしているのかもしれない。
「おねぇちゃん、またあとでね」
「うん」
走っていく男の子を見ながら、私は自分がやるべきことを考え始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます