(64)vs誘拐犯③
~紗彩目線~
「おねぇちゃん、なにやってるの?」
ゴソゴソと近くにあったロッカーをいじる私に、男の子が不思議そうな声音でそう言った。
「ん~、怖いおじさんをしばらくの間迷子にさせる方法」
「まいご?」
ロッカーにあるものを仕掛け終わり顔をあげながらわかりやすく説明すると、彼はより首をかしげて不思議そうにしている。
う~ん、子供にわかりやすく伝えるのってかなり難しいんだな。
とは言っても、「ボイスレコーダに男の子の小さな泣いている声を録音して、誘拐犯が騙されている間になんとか距離をとります」なんて説明しても男の子が理解できるとは思えないし。
だからと言って、何も説明なしって言うのはこの子も不安になるだろうし。
…………子供の相手って、こんなに難しいものなんだな~。
「うん。僕は、どんな遊びを友達としているの?」
この世界にはどんな遊びがあるのかはわからないけど、もしかしたらその遊びを利用して説明できるかもしれない。
さすがに、かくれんぼとかはあると思いたい。
かくれんぼなら、うまく説明できるし。
「かくれおに。おにがかずをかぞえているあいだにかくれて、みつかったひとはおにのおともだちになってさがすの」
あ、かくれんぼっぽい遊びがあるのね。
それなら、説明も楽だわ。
「それと似ているかな。隠れ鬼をやっている時、友達がくしゃみをしたらどうなる?」
「みつかる」
「それと同じ。僕の泣いている声を使って、怖いおじさんを私達とは反対の方向に行かせるの」
私が考えた作戦は簡単。
男の子の泣いている声と小さな焦った私の声を小さく録音する。
そして録音したボイスレコーダーを分かれ道まで持っていって、私と男の子が進むほうとは別の方向に仕掛ける。
少し距離を置いたところから小さい男の子の声を聞けば、男の子や私がその先にいると思わせることができるかもしれない。
まあ、絶対に成功するとは思っていない。
あの誘拐犯の種族がわからない以上、身体能力の高さもわからない。
今は目が使えなくなっているとはいえ、それ以外は使える。
もしかしたら、バレるかもしれない。
でも、せめて時間と距離を稼ぎたい。
「おねぇちゃん、すごい」
そう考えていると、男の子が感嘆したような声で私に言ってきた。
「そうかな?とりあえず、ここでお留守番してる騎士さんたちを探そうか」
「うん」
首をかしげながらそう言い男の子の手を握って歩き出せば、男の子は嬉しそうに頷きながら私の手をギュッと握り返してついてくる。
足音をころしながらしばらく歩いていれば、男の子が立ち止まったことに気づいた。
どうしたんだろう?
そう思いながら男の子の方を向けば、男の子は俯いていた。
「…………おねぇちゃん、こわくないの?」
プルプルと震えながらそう聞く男の子の言葉に、私は思わず首をかしげてしまった。
怖くないか?
普通に怖いけど?
あえて言うのなら、大嫌いなお化け屋敷並みに怖いけど?
だって、誘拐犯が私達を追っているんだよ?
こんな状況で怖くない人がいたら、その人はたぶん特殊な人なのだろう。
だからと言って、怖いなんて言えるわけがない。
こんな状況で余計に不安にさせるだけだし。
…………まあ、この反応的には怖くないって言うのはあんまり良くなさそうだけど。
「…………こわくないよ。お姉ちゃん、怖いおじさんのことは怖いけど僕がいるから怖くなくなるんだ」
「そっか…………ぼくがいてもいいの?」
「うん。お姉ちゃん、僕がいるから頑張れるんだ。居てくれてありがとう」
「うん」
怖いけど、彼がいることで自分がなんとかしなければいけないと思う。
誰も頼れる人がいない。
この状況は、私がこの世界にいた時と同じ状況。
でも、シヴァさんたちを頼ることはできない。
それに男の子という、言葉は悪いけどお荷物な存在もいる。
でも今まで頼りきりだったけど、大人として子供を守らなければいけないとも思う。
心境的にはちょっと複雑だけど、彼がいてよかったと思う点はある。
彼という守らなければいけない存在がいるから、私は今動けるんだと思う。
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