(51)巨大な銀狼

~紗彩目線~



 目を覚ますと、見慣れない天井が目の前に広がった。

思わずジッと見ていると、昨日の記憶を思い出した。


 確か、電車に乗っていたら気づいたら異世界の森の中にいた。

 それでシヴァさんたちに保護されて、昨日の夜部屋がないからという理由でシヴァさんと一緒に寝たんだ。


 思い出すと同時にうなじにモフッとした感触を感じていることに気が付いた。


 触ってみれば、暖かくふんわりとしていてサラサラ感のある白い毛が指に触れた。

 なんだろう、このモフモフ。


 気になって後ろを振り向けば、そこには真っ白なモフモフの塊がいた。

 というより、塊にしか見えなかった。

 大きすぎて。


 モフモフの塊が何なのかと気になりじっと観察していれば、塊が上下に上がったり下がったりと動いているのがわかる。

 立ち上がり、グニグニと形を変えるベッドの上を歩いていれば大きな銀色の狼の頭が横になって眠っているのが見えた。


 それを見てようやく私が枕にしていたのが、この狼のお腹の上だということに気づいた。


 本来なら慌てるはずなのに、この狼を見ていても全く危険だとは思わない。


 というか、シヴァさんはどこに行ったんだろ?

 周りを見回せば、昨日と同じシヴァさんの部屋の中だった。

 うん、眠っている時に何かがあったわけじゃないね。


 昨日と変化しているところと言えば、シヴァさんがいなくなっていて巨大な狼がいることだ。

 うん、なんでこうなった。


 とりあえずどうしようかと思って途方に暮れていると、目の前の狼が大きな欠伸をしたかと思えば目を開けた。



「おはよう、サーヤ」

「おはようございます?」



 目の前の狼から、シヴァさんの声が聞こえた。


 おはようと言われて、思わず返してしまったけど。

 …………どういう状況?


 まず、なんで目の前の狼からシヴァさんの声が聞こえるの?

 え、シヴァさん狼に食われたの?

 それとも、シヴァさんが狼になったの?



「え…………もしかして、シヴァさんですか?」

「あー、この姿じゃわからないか」



 思わず聞いてしまえば、シヴァさんの困った声がまた聞こえてきた。

 目の前の狼の口は動いているから、やっぱりシヴァさんがこの狼に変身したのだろうか?


 そう思っていると、目の前の狼からバキバキという何かが折れるような音が聞こえてきた。

 驚きながらもジッと見て見れば、巨体が少しずつ小さくなり、長かった爪が短くなりモフモフとした毛皮が人間の皮膚に変化していった。


 呆気に取られていれば、目の前に裸のシヴァさんが座っていた。

 …………お風呂の時も思ったけど、すごい筋肉ですね。


 というか、かなりバキバキいっていたけど大丈夫なのだろうか?



「あの…………かなりバキバキいっていましたが大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。骨や筋肉などが変化するから、どうしてもこういった音が響いてしまうんだ」

「あと…………なんでシヴァさんは裸の状態なんですか?」

「服を着たまま変身すれば、服が破けるんだ」

「そうなんですか」



 心配になって聞けば、シヴァさんがまじめな表情を浮かべながらそう言った。

 骨や筋肉が変化って、痛くないのだろうか?


 でも、目の前にいるシヴァさんが服を着始めたのを見てどうして裸なのかが気になった。

 気になり聞けば、シヴァさんは困った表情を浮かべながらそう言った。


 聞いて思ったけれど、確かに破けそうだと思った。

 だって、狼の大きさはシヴァさんよりも何倍も大きかった。

 映画とかである服を着たまま変身っていうのは、同じぐらいの大きさだからこそできるのかもしれない。



「眠れたか?」

「はい。ものすごくモフモフでした」

「モフモフ…………まあ、サーヤには毛皮がないものな」



 考えていればシヴァさんに聞かれ、あまりのモフモフの心地よさからそう言えばシヴァさんは苦笑しながらそう言った。


 確かに、残念なことに人間にはモフモフはない。

 モフモフが癒しになるから、本当に残念だわ。

 猫吸いとかあったけど。



「とりあえず、風呂に入るぞ。汗を掻いているだろ?」

「あっ…………そういえばそうですね」



 地元にいるであろう近所のペットたちを思い出していれば、シヴァさんにそう言われた。


 言われた途端、布が肌に張り付いている不快な感触を感じた。

 モフモフに気をとられていて、汗を掻いて肌に張り付いているパジャマの存在をすっかり忘れていた。


 不快感に眉を顰めていると、シヴァさんが苦笑しながら私の頭を優しく撫でた。



「安心しろ。恥ずかしいようなら、俺も服を着たまま入るからな」

「お世話になります」



 申し訳なさに、ペコリとお辞儀をする。


 私の身長で、シヴァさんの部屋のお風呂を使うことが不可能であることは昨日自分の目でしっかりと確認したからもう逃げようとはしない。

 その代わり、精神的にいろいろと削られるけど。


 …………それにしても、なんで私こんなに汗かいているんだろう?

 いつも、こんなに汗をかくことなんてないのに。






「これから朝食だ。今日は午前中にアルが、午後はジョゼフが知識を教えてくれる」



 お風呂から上がった私は、シヴァさんの言葉を聞きながら服を着替えた。


 セレスさんに買ってもらった服の一つで、白いワンピースだ。

 小さなフリルなど、派手過ぎない飾りがいくつかついているような感じのワンピース。

 ワンピースなんて、久しぶりに着た。


 朝食のあとは、勉強ってことか。

 …………とりあえず、死ぬ気で覚えよう。

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