(52)種族
~紗彩目線~
「さて、サーヤ。団長から聞いていると思いますが、午前中は私があなたにこの大陸にいる種族について教えましょう」
朝食を食べた後、私はアルさんの自室に連れてこられた。
「はい!よろしくお願いします!!」
「緊張しなくても大丈夫ですよ。種族の話とは言っても、そんなにたくさんの種族はいませんから」
緊張しながらそう言えば、アルさんが苦笑しながらそう言った。
私は、アルさんの部屋にある椅子の上に座っていた。
クッションとかに乗っているから、机の上にある本も楽に見ることができる。
ちなみに、机の上にある本は、アルさん曰くこの大陸にいる種族についての絵本らしい。
絵本…………うん、仕方がない。
単語がわからないのに、参考書とかなんて読めるわけじゃないし。
でも、なんだろう?
ものすごく、微妙な気分になってしまう。
…………絶対に、何が何でも文字は覚える。
改めて心の中で思っていると、アルさんが絵本を開き始めた。
「この大陸には、獣人・魔族・精霊・竜人という四つの種族がいます」
なるほど、獣人に魔族に精霊に竜人…………あれ、人間は?
慌てながらも考えていれば、アルさんは絵本を持ちながら説明してくれる。
開かれた絵本のページには、動物の耳と尻尾がある人や角がある人、羽がある人や頬に鱗がある人が描かれている。
でも絵本の中には、人間に似た存在はいるけど人間はいなかった。
確か、絵本と言ったはずだ。
存在している種族を描かないはずがないし、アルさんも人間のことは言っていない。
え、まじで人間がいないパターン?
「獣人というのは、知ってのとおり私や団長たちのような存在の事です。獣人は、動物を祖先としており身体能力が四つの種族の中でもっとも高い種族です。まあ、身体能力が高いとはいっても全員がそうというわけではありません。私であれば、豹。団長であれば、狼。祖先である動物により、それぞれ能力や行動に変化があります。他の種族との違いと言えば、動物と人型の二つの姿を持っていることですね」
アルさんの説明に、今朝の光景の理由がわかった。
シヴァさんが狼の姿に変わったのも、魔法ではなくもともと彼が狼の獣人だったかららしい。
…………ものすごく、巨大だったけど。
まあ、もともとシヴァさんもかなり大きいから狼になると余計に大きくなるんだと思うけど。
それにしても、能力と行動の違い…………どういった違いがあるんだろう?
あとで、質問しても大丈夫かな?
「次に魔族ですが、彼らの場合は最も種類が多いですね。精霊は、逆に種類が少ないです。魔族と精霊は、もともと祖先は同じですが取り入れられた血の違いにより成長過程が違います。精霊は、生まれた時から高い知能を有しているのに対し、魔族は長い時間を生きることで少しずつ知能を高めていきます。生まれたばかりの知能がない存在を魔物、長寿で知能が高い存在を魔族と呼びます。そして、二つの種族はどちらとも長寿で魔法を得意としています」
真剣な表情でページをめくるアルさんを見た後に絵本のページを見れば、そこには角が生えている人と羽が生えている人が背中合わせに立っている絵が描かれている。
たぶん角が生えている人が魔族で、羽が生えている人が精霊だろう。
それにしても、少し意外だと思った。
だいたい魔物って小説の中では敵キャラって扱いになるのに、この世界では魔物は一つの種族って扱いになるのか。
アルさんの話じゃあ、獣人は身体能力が高い。
ということはチームで言えば獣人は勇者みたいな武闘派で、精霊と魔族は魔法使い的な立ち位置か。
「最後に竜人ですが、彼らはバランス型ですね。魔法と物理攻撃は強いというわけではありませんが、どちらとも同じようなバランスです。ですが祖先がドラゴンと呼ばれる種族のため皮膚がかなり硬く、戦闘面では防御力の面ではとても恐ろしいですね。彼らも、私達と同じく人型とドラゴンの二つの姿を持っています」
何、そのチート。
アルさんがめくったページに描かれている鱗がある人とドラゴンを見ながら、思わず思ってしまった。
魔法もできて物理攻撃もできて、おまけに防御力の面ではチート。
竜人って、戦いの面では絶対に最強なんじゃないの?
「質問はありませんか?」
「いいですか?」
「はい、どうぞ」
アルさんに優しげな表情を浮かべられながら聞かれた言葉に、私は聞きながら考えた質問をいくつかしてみることにした。
「獣人についてですが、行動というのはどういうものですか?」
「そうですね。団長の姿は見たのですよね?それなら、団長で例えましょうか。狼は、男女関係なく群れで子育てをします。そのため、狼の獣人も男女関係なく集落ごとで子育てを協力して行います」
え、何それ羨ましい。
それなら子供が初めて生まれたばかりの母親でも、周りの人に相談したり支えられたりされながら子育てするってことでしょ?
子育てする母親にとって、かなりいい環境じゃない。
アルさんの話からすると獣人は祖先である動物の生態が影響するってことか。
もう少し、動物の図鑑的な資料を読んでおくべきだったかな?
そうすれば、ある程度は予想できそうなのに。
それにしても、竜人のチートには驚いたけどさすがに弱点がないってわけじゃないよね?
「竜人についてもいいですか?防御面で恐ろしいと言いますが、彼らに攻撃することは不可能なんですか?」
「そういうわけではありませんね。彼らは、人型の時もドラゴンの時も鱗がない部分があります。もし戦う時の場合は、そこを狙います。まあ、鱗がない柔らかな部分は人型の時の方が多いですね。それに、幼い竜人はまだ強靭なうろこが生えていないためかなり弱い存在です」
なるほどね。
鱗の防御力は厄介だけど、鱗がない場所はそこまで厄介じゃないってことか。
でも、竜人もそれは知っていることだから鱗と同じぐらいの防御力を持つなんらかの装備を持っているはず。
そうなると敵対した場合は、やっぱり私は不利になるわね。
ちなみになんで私がこんなことを考えるかといえば、それは昨日のことが関係している。
セレスさんとはぐれてしまったとき、私は自分の無力を痛感した。
またあの時のような状況になる可能性もあるし、もしかしたらあれ以上にヤバい状況に遭遇するかもしれない。
そうなると、やっぱりある程度なんらかの方法で身を守る方法を考えなくちゃいけない。
それに元の世界に戻らないといけないし、この世界には人間がいないようだから人間ってバレないようにしなきゃいけないし。
やることが多いな……。
とりあえず、種族について聞いたけど種族同士仲は良いのだろうか?
「なるほど。種族関係はどうなんですか?」
「種族関係は…………まあ難しいですね。獣人と竜人はほとんどが実力主義です。ですが、精霊と魔族の一部は血統主義な部分がありますね。血統主義というのはまあ簡単に言えば、いかに純血に近いかという感じです。仲がいいかと言われれば、やはり思想によっては意見がぶつかったりはしますね。」
血統主義と言われてなんのことなのかわからなかったけど、アルさんの説明でだいたい分かった。
たぶん、日本の漫画に出てきそうな本家とか分家みたいな感じだろう。
まあ、私は一般人だったから本家も分家も関係ないけど。
「…………ほかに質問はありますか?」
「大丈夫だと思います」
「わからなければ、私達に聞いても大丈夫ですよ」
「はい」
とりあえず種族がわかっただけでも、ある程度自分の立場がヤバいものだってことはわかった。
人間がいないことには驚いたけど、とりあえず人間ってバレないようにしなきゃいけない。
ただでさえ違う世界の人間というバレたらいろいろと厄介なことが起こりそうな身の上なのに、それに加えてこの世界には存在していない人間だった。
バレたら、完全にヤバい。
さすがに私は特殊な性癖じゃないから、人体実験なんてお断りだ。
「私も聞いていいですか?」
「?はい」
「他種族間の混血について、あなたはどう思いますか?」
アルさん、真剣な表情を浮かべているところ悪いけど質問の意味が分かりません。
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